―― ソニーは、ウェアラブル市場をどう見ているのか。

平井氏「この市場が大きくなるかどうかは、機能と大きさ、バッテリーライフの3つをバランスよく作り上げた商品を出せるかどうかによる。市場が予想されたほど伸びていないのは、本当に『刺さった』商品が出ていないことが理由である。

ウェアラブル市場全体は、数年前の過熱気味なところから沈静化しているのは事実だ。だが、ソニーは、ウェアラブルをやめたということではない。シードアクセラレーションプログラム(SAP)を通じて商品化した『wena wrist』などもある。これからもトライアルをしていかなくてはならない分野だと考えている」

SAPにより製品化が進められた「wena wrist」

―― 今後、SAPは継続するのか。

平井氏「SAPを止めるつもりはまったくない。これまで7回のオーディションを行ったが、1,500人以上が500件以上のアイデアを持ってきている。オーディションを開催する前のセミナーも満員の状態が続いており、社員に次回開催を待って欲しいと言わなくてはならないほど好評だ。最初は小さな活動だったが、いまでは大きなムーブメントになっている。欧州でもSAPの活動を開始した。

事業化については、ソニーのなかで事業立ち上げの活動を続けてもらうことに加えて、スマートロック『Qrio Smart Lock』のように外部の企業と一緒になって合弁会社を作ったり、ソニー不動産のようにソニーの100%子会社となって事業を推進したりといった様々なケースがある。ソニーの既存事業部で推進するということが完全にないとはいえないが、既存の事業部では出てこなかったものを、小さなグループで、早く回して商品化するというのがSAPのメリットであるため、独立した形でやるのが自然な進め方だといえる。

問題は、夢を追って、すばらしい商品を創出するのはいいが、これはあくまでもビジネスであり、どう大きくしていくか、第2弾、第3弾をどうするか、どう利益を出していくかということを考えてもらわなくてはいけない点。いよいよ今年からそのフェーズに入ってきたといえる」

―― iPhoneでFeliCaが活用できるようになったが、今後の展開をどう考えるか。

平井氏「FeliCaは、日本ではかなり普及しており、アジアでも採用されている。もっと大きい市場で展開したいという願望はあるが、それらの地域では、すでにビジネスをしているプレーヤーがいる。

そこに投資して入っていくよりも、すでにリーダーシップを取っている市場で用途を広げ、普及枚数を広げるビジネスを考えることが大切。アジアの一部地域を除くと、FeliCaによる世界展開を語る時期ではないと考えている。リソースは無限大ではない。どこに集中していくかを考える方がいいと判断している」