Windows系のリーク情報を多く発信しているWalkingCat氏が興味深い内容をツイートした。同氏は、Windows 10 WDK Insider Preview ビルド14965に、64ビットARM上でx86バイナリを実行できるコードが含まれた可能性があると指摘している。これを受けて、Microsoft WatcherのMary Jo Foley氏は「Microsoft's x86 on ARM64 emulation: A Windows 10 'Redstone 3' Fall 2017 feature」という記事を公開した。

その内容を要約すると、Windows 10 の次期大型アップデートRedstone 3には、プロジェクトコード「Cobalt (コバルト)」の名前でx86エミュレーター機能が搭載され、MicrosoftはWindows 10 Mobileの企業向け展開に可能性を見出しているそうだ。Continuum for Phoneが利用できるのはUWP (ユニバーサルWindowsプラットフォーム) アプリに制限され、既存のデスクトップアプリ (Win32アプリ) は実行できないため、Cobaltの実装を目指しているのだろう。ちなみに、Cobaltは「Minecraft」で有名なMojangのアクションゲーム「Cobalt」から名付けられている。

Mojangのゲーム「Cobalt」。開発はスウェーデンのOxeye Game Studioが手がけている

WalkingCat氏の情報を元にWindows 10 WDK ビルド14393とビルド14965の内容を比較。定義名として「Hybrid」から「CHPE」へ文字列の一部を変更している

文字どおりの説明であれば、Windows 10 Mobile上でデスクトップアプリがそのまま動作する可能性が高い。他のスマートフォンと比べてアプリ不足が深刻なWindows 10 Mobileだけに、本プロジェクトは大きな可能性を秘めている。だが、実現には2つの問題がある。

まずは「パフォーマンス」。64ビットARM上でx86コードを動かす際には、命令コードを逐一変換しなければならないため、既存のWindows 10 Mobile用デバイスでは厳しいはず。まずは、先ごろ発表されたSnapdragon 835で試作機を開発すると思われる。また、スマートフォンの狭いディスプレイでデスクトップアプリを使うことは考えにくいため、しばらくの間CobaltはContinuum for Phoneに限定されるだろう。それでも、技術的進化である程度は解決するため、筆者は楽観視している。

パフォーマンスよりも大きな問題が「リリース時期」だ。Redstone 3は早くても2017年夏もしくは秋頃に登場すると思われるが、それまで市場が待ってくれるのだろうか。既に多くの店舗が、iOSやAndroidを利用したPOS環境を導入していることを踏まえると、遅きに失した感がある。

とはいえ、エンタープライズレベルのデータ管理を可能にする点はMicrosoftが抜きん出ている。例えばWindows 10 MobileデバイスからAzure AD (Active Directory) へ参加し、Azure RMS (Rights Management) を適用すれば、社内ドキュメントの漏えいを防ぐのは容易だ。この点を活かしつつ、MicrosoftはCobaltを実装すると思われるが、プロセッサー性能やバッテリー駆動時間など多くの問題が派生するだろう。MicrosoftにはWindows RTの二の舞とならないようCobaltの性能を突き詰めてほしい。

阿久津良和(Cactus)