iPhone SEの興味深い点は、例えば日本では発売直後からバックオーダーが積み上がるほどの人気状況だったにもかかわらず、これを改善する気配がまったく見られたなかった点だ。ある国内の携帯キャリアの話によれば、3月末の発売開始から3カ月近くが経過した6月時点でもバックオーダーがたまる一方で減る気配が見えなかったとのことで、普通の商品であればすでに商機を逃していてもおかしくない。この話から1つ考えられるのは、「AppleはそもそもiPhone SEを積極的に販売するつもりがなかった」という仮説だ。

Appleは「iPhone 6/6s/7 Plus」の在庫が逼迫状態でも、積極的に在庫を積み上げるような動きは見せず、基本モデルである「iPhone 6/6s/7」を優先する傾向を見せていた。予想だが、この基本モデルでの販売台数比率を7~8割程度に設定して、残りの2~3割程度をPlusシリーズと前述SEのような派生モデルで埋めるような形で、このスタンスを極力崩さないようにしているのではないかとみている。派生モデルはユーザーの意見を広く汲み取るためのイレギュラー的な存在で、あくまで基本モデルありきの考えではないだろうか。

iPhone SEの登場背景の1つは、従来の4インチモデルを好むユーザーのほか、iPhone 5cに見られたような「廉価モデル」を望む層をある程度取り込む意図があったのだろう。一方で廉価モデル投入はiPhoneのビジネスモデルを崩す恐れがあり、「廉価」部分をあまり強調したくなかったと思われる。実際、性能的には同世代のiPhone 6sと同等であり、正直いって値段の割にはお得感が高い。Appleが利益率を下げる「iPad mini」を極力シリーズからフェードアウトさせたかったのに似ている。

iPhone SEが値段の割にスペック的に高機能だったのには政治的背景もあると予想する。iPhone 6sが予想を下回る低調となったことで、「前年比1割増し」程度のオーダー増加を見込んでいたと報じられたiPhone 6sシリーズだが、結果として早期の生産調整と在庫整理を余儀なくされたとみている。とはいえ、1割程度の増加を見込んで発注された部品の取り扱いと在庫調整の兼ね合いもあり、その当面の行き先として選ばれたのがiPhone SEだったといわれている。iPhone SEは複数の分解レポートから、その構成部品はiPhone 5sとiPhone 6sのハイブリッドであることが判明しており、ディスプレイなどのモジュールは5sから、SoCなどの部品は6sからやってきている。つまり、すでにあるiPhone 5sの筐体や部品を流用しつつ、コアの部分ではiPhone 6sで余った部品を組み合わせて最新世代と引けを取らないスペックとなっている。

ここからいえるのは、すでに翌年のiPhone需要を以前よりも高い精度で読めるようになったAppleが同じ轍を踏む可能性は低く、前年の事情から誕生したiPhone SEのような製品がそのままの形で2017年も登場する可能性も低いこと、そして利益面からもiPhone SEを出す理由は薄いという点だ。出す必然性も低く、リフレッシュもなしでゆっくりとフェードアウトしていきたいというのがAppleの本音なのかもしれない。

Appleにとってのはプレッシャーは、次のナンバーモデルといわれる2017年秋登場が見込まれる次期iPhoneだ。有機ELディスプレイ(OLED)を採用してデザイン面で大きな変更が加えられるといわれており、現行で4.7インチと5.5インチというラインナップ構成にも変更が加えられる可能性がある。以前にiPhoneの将来について予測記事を出させてもらったが、成長の止まった現状をAppleが受け入れるのであれば今後しばらくの大きな変化はなく、一方で今後の拡大を本当に望むのであれば予測記事にもあるように大胆なラインナップ拡大を模索する必要があり、2017年はその同社の判断結果が判明する重要な年となるだろう。