10人中1人が欲しがるものづくりがファンを生む

今でこそ、ワンポイントの工夫が売りの製品は文具でも、家電でも多くなってきた。だか、同社はそれを以前から信条としている。「私たちの会社のものづくりの考え方は、『10人に1人が必ず欲しいと思うものを作りなさい』ということです。そうすれば、分母が大きくなれば、欲しいと買う人は増えると」と同社の広報。

事実、初代ポメラの企画案を初めて会議にかけたとき、社長以下幹部から売れないのではといった声が多くあがった。しかし、1人の社外取締役が「自分だったら、起動が速くてテキスト入力に集中でき、持ち運びにも便利な専用端末は欲しい」などと発言したことで、ポメラが世に出ることになったのだという。

初代のポメラ

そこから一貫してポメラは「テキスト入力に集中できる」ことからぶれていない。同社の広報は、先のことはまだ未定としつつ、「インターネット閲覧やメール受信ができるようには今後もしないと思います。そこは越えてはいけない壁だと思っているので」とこたえた。

同社には、電子機器の知見はあまりないため、電子部品のメーカーといった協力会社に企画を持ち寄り知恵を借りながら、商品を開発している。同社の商品開発は大体1年弱で商品化されるところ、ポメラに関しては、「かなり時間をかけました」(同社広報)という。特にこだわったのは、キーボードの打ちやすさで、試作品を何度も作り、打ちやすさを試したという。

「新しい製品をつくる際、市場調査をするという考えはあまりありません。なぜならば、似たものがない製品が多いから」。先に述べたように「誰かが欲しいと思うか」が大事なのだ。キングジムの製品は、単機能に絞った商品が多いが、実際、その一つの機能を深く掘り下げて新しいものをつくるという開発の仕方をしている。

こういった同社のものづくりの考え方から、とことんテキスト入力の快適さを追求したポメラが生まれたのだ。試作品を繰り返し、打ちやすさと軽さをどうやって両立するかといったことを考え抜いた結果といえよう。同社のこういった考えが、その一機能を欲しているファンに受ける製品つくりにつながっている。

ファン作りが得意な企業。とすれば、いろんな協力会社とアイデアを深化させるものづくりを進めれば、ますます文具と電子機器の境目を超えたものづくりの可能性は高まるのではないか。今回の新製品を最上位機種と位置づけるキングジム。今後、ポメラはさらにどのような進化を続けるのか。同社からまたどんな新しい商品が出てくるのか、ものづくりの仕方も含めて、期待は高まる。