体験そのものがビジネスに

バンダイナムコエンターテインメントは、ダイバーシティ東京プラザ(東京都江東区)にHTC Viveを使ってVRゲームを体験することができる施設「VR ZONE Project i Can」を展開。VRゴーグルを活用した多くの有料アトラクションを用意している。いわばVRを使ったゲームセンターのようなイメージだ。気軽に訪れて、VRを活用した新しいエンターテインメントを楽しむことができる場の提供は、アミューズメント業界の新たなビジネスになりうる。

「VR ZONE Project i Can」では、地上200メートルの高所を体験できる「極限度胸試し 高所恐怖SHOW」、スーパースターになりきれる「スーパースター体験ステージ マックスボルテージ」、往年の人気アニメ『装甲騎兵ボトムズ』に登場するスコープドッグを実際に操縦し、バトルを楽しむことができる「VR-ATシミュレーター 装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎」などが体験可能だ

また大手広告会社の電通は、サンシャイン60展望台(東京都豊島区)の集客施策として、VRゴーグルを装着した状態で東京の上空を空中散歩することができる「TOKYO弾丸フライト」というコンテンツを導入し、VR体験を集客のカンフル剤として活用する広告・PRビジネスの新たな可能性を試している。大日本印刷はフランス国立図書館と協力し、天球儀の世界をVRで体験することができる「Globes in Motion」を開発。歴史的な文化施設や観光スポットは、過去の世界を体験したり、通常では触れることができない展示物を動かしたりと、来訪者に特別なVR体験を供給できるだろう。教育現場ではVRによる新たな学びの体験が生まれるかもしれない。

サンシャイン60展望台で展開された「TOKYO弾丸フライト」。その名の通り、砲台のようなシートでVRを体験できる

そして、スクウェア・エニックスは、スマートフォンゲーム『乖離性ミリオンアーサー』の世界をVRで体験することができるデモンストレーションを、ファン向けのイベントやこの春に行われた「ニコニコ超会議」で実施した。スマートフォンという2次元の世界で行われるゲームを3次元で楽しめる点が来場者に非常に好評だったという。このように、既存のコンテンツをVRによって3次元化し、ファンとのエンゲージメントを深めるという活用法にも効果がありそうだ。

VR体験の入り口として、遊び場の創出を

様々な事例を紹介してきたが、実はVRが消費者に普及するカギを握っているのは、端末の普及拡大だけではなく、それを体験する機会の拡大なのではないだろうか。つまり、誰でも気軽に楽しむことができる“VRのゲームセンター”を様々なジャンルで生み出すことができれば、VRの魅力が多くの人に理解され、そこから個人向けVRゴーグルの普及やコンテンツ開発への参入企業増加といった波及効果が生まれるということだ。VRを活用してどのような“遊び”を生み出せば、多くの消費者が遊んでくれるか。それを考えることがVR普及の第一歩だ。

目の前に見たことがない広大な景色が広がり、その中で自分自身が主人公となり様々な体験をすることができるVRは、私たちにこれまでにない驚きと面白さをもたらしてくれる。その体験を高価な端末を購入しなくても楽しむことができる機会が広がっていけば、VRがコンテンツ体験の新たなスタンダードになる可能性も高まっていきそうだ。冒頭に挙げたように、VR普及のカギは間違いなくコンテンツだ。それを個人向けだけでなく、広く大衆向けに提供できるか否かに、VRの将来が懸っているといっても過言ではないだろう。