筆者は結局朝まで原稿がかかり、そのまま取材に出発。この日は開発者に話を聞く機会があった。開発者は基調講演で発表された内容を、今後どのようにアプリに取り入れていくのだろうか。

オンラインショッピングサイト「Spring」の最高ブランド責任者は、Apple Payがオンライン決済に対応することを高く評価。「これまでは決済時にクレジットカード情報や請求先住所を入力する必要があり、離脱する人が多い点が課題だった」と語り、Apple Payによって面倒な手間が省かれる非常に効果的なアップデートだとした。なおApple Payのウェブ版では、MacユーザーがSafariでApple Pay支払いを選択すると、iPhoneかApple Watchで認証することで決済が可能になる。

オンラインショッピングサイト「Spring」

ワークアウトアプリ「mapmyrun」の創設者は、Siriが開発者向けに開放される点を喜んでいた。音声操作でワークアウトを始められたり、ランニング中で汗をかいていても、立ち止まって操作する必要がなくなるからだ。

SiriはApple TVでも機能が向上するため、tvOS用アプリ開発者にとっても朗報だ。テレビ配信サービス「Sling TV」の最高製品責任者は、有料テレビ放送アプリ向けのシングルサインオン機能に大きな期待を寄せる。1つのテレビ局アプリにサインインすると、Apple TV上にある他のアプリにも自動的にログインできる機能だ。「ログインが面倒という理由だったユーザーの離脱率が下がれば、実際のサービス開始にも大きく貢献するはず」と、こちらもOSの改善による離脱率の低下を喜んでいた。またSiri Remoteで多くのコンテンツを検索できる点も「画期的」だと高評価だった。

ところで取材といえばメモ帳とペン、音声レコーダー(iPhoneのボイスメモ)が定番アイテムだが、最近9.7インチiPad ProとApple Pencilの組み合わせも便利なことに気づいた。メモアプリ「Notability」なら、録音しながらApple Pencilでメモを残せる。文字起こしするときは振り返りたいメモをタップすると、そのときの音声までジャンプして再生される。イチから聞き直す手間が省けて非常に効率的だ。

基調講演でも活躍したiPad Pro 9.7インチとApple Pencil。「Notability」アプリを使って、録音しながらメモを残せた。乱筆失礼

iCloudで同期すれば、他の端末からもファイルにアクセスできる。インタビューだけでなく、会議の議事録や、しゃべりながら脳内を整理するときなどにも役立つはず。

一連の取材を終え、翌日15日の昼にサンフランシスコを出発、16日午後に日本に到着した。今回の道中記で、WWDC初体験の筆者から見えた景色と舞台裏を、少しでも体感し共有してもらえたなら幸いだ。

ちなみに道中記出発編では、モスコーニ・センター向かいの映画館に、大きな文字で「W」「W」「D」「C」「(アップルロゴ)」と一文字ずつ広告が貼られていたことを紹介した。道路からは日差しが看板に反射し非常に見えづらいロゴだったが、これにはちょっとした狙いがある。

モスコーニ・センターの2階から見るとこんな光景が広がる

それぞれの巨大な看板を、歩道ではなく、モスコーニ・センター内の2階の窓から見ると、ちょうど目の高さに並んで広がっていることが分かる。実は下を歩く人ではなく、モスコーニ・センターに集まる開発者向けに作られた看板ロゴだった……というのがAppleの粋な仕掛けらしい。引っ張った割に地味な結末になったことを謝罪して終わりたい。