さて、MacBookのアップデートに合わせて、Appleのノート型Macのラインアップについて考えてきたが、一歩ひいてみると、MacBook自体のポジショニングが怪しくなってくる。というのは、iPad Proの存在があるからだ。

9.7インチiPad ProはMacBookもラインナップを脅かす存在となりかねない?

前述の通り、MacBookも9.7インチiPad Proも、iPhoneと同じ4色展開を実現しており、iPhoneユーザーを意識した製品であることは間違いない。その上で、Appleの「ノートPCからのリプレイス」という使命を請け負うiPad Proと、MacBookの関係に矛盾を感じるのは筆者だけだろうか。

よく解釈すれば、選択肢を与えて増やしていることになる。タブレットスタイルで仕事からエンターテインメントまでこなすことができるiPad Proか、OS Xを搭載し、今まで通りの使い勝手を実現してくれるMacBookか。

キーボードまで含めれば、デバイスの完成度はMacBookが勝る。しかしより軽く、自由度が高いのはiPad Proだ。iPadのメリットは、セルラーモデルを選択することができる点、そしてApple Pencilが利用できる点だ。

また価格だが、これは思ったほど差がつかない。256GBの9.7インチiPad ProにSmart Keyboardをつけると1,068ドルとなり、256GBのストレージを搭載するMacBookの1,299ドルとは200ドルほどの価格差がとなる。

実際、Macの登場なく仕事ができる感触がつかめてしまうと、MacBookの魅力は一気に減退してしまうのだ。それよりは、より大きなディスプレイとパワフルさを備えたMacBook Proへの期待が大きい。iPadとは異なる次元の体験を作り出してくれるという期待があるからだ。

となると、今回刷新されたMacBookですら、コンピューティング以降の過渡期的な存在と位置付けられるのかもしれない。その先には、iPadのさらなる勢力拡大と、大幅に刷新されるMacBook Proがあり、MacBook AirもMacBookも、メインストリームから外れて消えゆく存在になりそうだ。

こうした考えは、筆者個人的なコンピュータの使い方を通じての見方だ。もちろん、その使い方は読者の皆さんに必ずしも当てはまるとは思わない。むしろ、十人十色であるとは思う。MacBookのデザインが気に入っていたり、あのキーボードが好みだという人にも出会った。選択肢の幅があることは、良いことだと思う。

ただ、Appleは今後のiPad、Macを含む、コンピューティング全体のラインアップや戦略について、もう少し明らかにして欲しいところがある。我々は、コンピュータを使うとき、デバイスを揃えるだけでなく、アプリや周辺機器まで含めて、仕事の道具とする。本体を含むすべてがコストになるからだ。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura