両社の強みは

VRコンテンツ+紙製ゴーグル事業で一日の長がある凸版印刷の強みは、やはりVRコンテンツに関する実績の豊富さだろう。VRscopeの導入事例としては、キリンビール岡山工場向けに工場見学ツールとして提供した実績などが挙げられる。

キリンビール向けにプリントを施したゴーグル(画像提供:キリンビール株式会社/凸版印刷株式会社)

「キリン一番搾り生ビール」の視点で工場のラインを流れていくVR動画を凸版印刷が制作した(画像提供:キリンビール株式会社/凸版印刷株式会社)

大日本印刷の強みとして見逃せないのは、VRコンテンツの展開先となる書店をグループ内に持っている点だ。例えば出版社と組んで、紙製スコープとVR動画を用いた出版物の販促イベントを仕掛ける場合、大日本印刷はコンテンツを実際に見せる場所(書店)を考慮に入れたうえで、企画段階から出版社と策を練ることができる。凸版印刷も企画から配信までの「ワンストップサービス」を展開しているが、コンテンツの出口となる書店に影響力を行使できるのは大日本印刷ならではの特徴だ。

VR事業の成長余地は未知数

印刷2強がVRに取り組む背景には、印刷市場の縮小を受けて、事業の多角化を図りたいという両社共通の思いがある。

ゴーグル+VRコンテンツ事業の売上目標として、大日本印刷は2018年度に20億円、凸版印刷は2017年度に10億円という金額を打ち出している。連結売上高で1.5兆円規模(2014年度実績)の両社にとっては取るに足りない規模に見えるが、VR市場は2025年までに800億ドル規模まで拡大するとの見方もあり、将来的な成長余地は未知数だ。大日本印刷の参入について凸版印刷の鈴木氏は、「市場が活性化するのはいいこと」と歓迎の意を示す。

問われるのはコンテンツ制作の力

VR市場の拡大を見越して参入した両社だが、VRが一般化するシナリオを考えた場合、両社の事業で気がかりなのは紙製ゴーグルの売れ行きだろう。お手軽な紙製ゴーグルはVRの入門用として最適だが、ハイエンドなVR用HMDが社会に行き渡ってしまえば、紙製ゴーグルの展開先はおのずと限定的になり、需要も縮小しそうだからだ。

そこで問われるのが、VRコンテンツの制作者としての両社の力だ。紙製ゴーグルが売れなくなったとしても、コンテンツの制作能力が際立っていれば両社はVR市場で存在感を発揮できる。そもそも印刷会社の取引先は、何らかの形で自社の製品やサービスを世の中に打ち出したい企業が多いはず。VRという新たな表現手段を獲得したことで、既存の取引先から新たな仕事が舞い込む可能性もある。

印刷会社と関わりが深く、VRを用いた販促に適していそうなのが出版社だ。VRの導入モデルとして分かりやすいのは、雑誌の付録として紙製ゴーグルを展開する方法。例えばファッション雑誌の付録に紙製ゴーグルを付けて、そのゴーグルでファッションショーのVR動画を見せるといったような企画が考えられる。漫画雑誌のプロモーションでもVRは選択肢の1つとなりそうだ。

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