ソニーが1月29日に2015度第3四半期(10~12月期)の決算業績を発表したが、売上高が前年同期比0.5%増の2兆5808億円、営業利益が同11%増の2021億円といずれも市場予測を上回った。しかし、その一方で、電子デバイス分野(主に半導体で、一部に電池や記録メディアを含む)の売上高は同12.6%減となる2499億円(前年同期の為替レート基準だと16%減)、営業損益は114億円の赤字(前年同期は538億円の黒字)と、これまで企業業績の向上に貢献してきた稼ぎ頭が一転して会社全体の業績の足を引っ張る結果となった(図1)。

図1:上段はソニーの電子デバイス分野(半導体、電池など)の2014年度および2015年度第3四半期(10-12月期)の売上高および営業損益。そのうち、半導体分野、さらにそのうちイメージセンサ分野の売上高を表下に併記。下段はソニーの電子デバイス分野における2014年度通期売上高および営業利益、ならびに2015年度の見通し(2015年10月末時点および2016年1月末時点)。その内、半導体分野、さらにはその内イメージセンサ分野の売上高、設備投資額を表下に併記
(注:2015年10月時点での設備投資額見込みには、東芝大分工場イメージセンサ製造ライン買収額190億円を含まないが、2016年1月時点では含む) (出所:ソニー)

デバイス分野の第3四半期売上高のうち、半導体分野の売上高は同10%減の1793億円で、そのうちイメージセンサの売上高は同17%減の1225億円と、ともに2桁の減少となった。デバイス分野の業績悪化について、ソニーは「モバイル機器向けの需要減少の影響を受けたイメージセンサの減収に加えて、電池事業の減収による」と発表の中で明らかにしている。なお、営業損失の中には、電池事業の悪化にともなう長期性資産の減損計上額306億円を含んでいるが、イメージセンサビジネスも大きく利益を減らしている。

ソニーは2016年1月末時点で、2015年度通期のデバイス分野の売上高を、2015年10月時点での見通しから1200億円引き下げ9400億円とした。同時に、営業利益を2015年10月時点の見通し(1210億円)から390億円へと引き下げており、2016年1~3月期にCMOSイメージセンサの業績がさらに大きく落ち込むことを織り込んでいる。半導体分野への設備投資額も、2016年1月に、2015年10月時点の2900億円から、2550億円へと引き下げた。この2550憶円には東芝大分工場300mmウェハ製造ラインの買収額も含まれるので、実際のソニー内部での半導体設備投資は500億円以上削られることになる。

ハイエンドスマホ向けイメージセンサ出荷が急減

同社の代表執行役 副社長 兼 CFOの吉田憲一郎氏は、イメージセンサ分野の業績悪化に関して「世界的にスマートフォン(スマホ)市場の成長が鈍化してきており、主要顧客向け(著者注:AppleやSamsungなどを指すものと思われる)のハイエンドCMOSイメージセンサの出荷が、2015年11月から急激に減っている。主要顧客には各社の独自仕様で対応しているので、余剰分をすぐに他社向けに振り替えるのは難しい。今年度末(2016年3月末)まで厳しい状況が続くと見ている。しかし、受注傾向から判断して、2016年度第1四半期(4~6月期)には需要が回復するとみている」と業績発表の場で述べた。なお、この受注傾向というのは、おそらく2016年の秋発売予定のApple iPhone新製品向けハイエンド・イメージセンサの受注を指すのではないかと思われる。

ソニーのCMOSイメージセンサ

今後の見通しについては、「スマホ市場は成長局面が終わりつつある。従来の『スマホ市場は今後も成長する』という前提を変えて、『横ばい、あるいはハイエンドについては縮小する可能性さえある』という前提で、予算策定や設備投資計画の見直しを行っている」(吉田氏)ことを明らかにした。スマホ市場の減速はカメラモジュール事業にも影響を及ぼしており、吉田副社長は「今後も継続的に事業の収益性に悪影響をおよぼす可能性があり、減損につながる可能性がある」ことを明らかにした。

イメージセンサは長期的には成長事業

吉田副社長は、「イメージセンサは短期的には調整局面を迎えている」としつつも、長期的には成長事業であるという位置づけは変えていない。直近では、スマートフォン搭載カメラの複眼化への期待をかけ、今後、IoT向けや車載向けで引き合いが強まるとみている。「技術開発を急ぎ、用途や顧客の裾野を広げ、環境の変化にも迅速に対応する」と述べ、イメージセンサ事業の将来性を強調した(吉田副社長が変更するつもりはないと話すソニーのイメージセンサの長期戦略については過去の記事を参照)。

ソニーのCMOSイメージセンサの急激な業績悪化の主因は、上述したようにAppleやSamsungなどのハイエンド・スマートフォン向けを中心としたハイエンド製品の需要減少であるが、Xperiaブランドで知られるソニーのスマートフォンの出荷額自体も3100万台(2013年、2014年とも)から2700万台(2015年10月末時点での2015年度見込み)へと引き下げていたが、今回、さらに2500万台と引き下げており、低下の一途をたどっている。ソニーはスマホビジネスに従事する2000人規模のリストラを実施するなど、同ビジネスからの撤退のうわさも流れたことがあったが、今後スマホビジネスがさらに低迷するようだと、このうわさが再燃しかねないだろう。 

ソニーは、東芝の工場買収に加えて、東芝のイメージセンサ設計・開発・製造要員1100名も受け入れることになっているが、この判断は、CMOSセンサ需要が右肩上がりで上昇を続けることを前提にしており、CMOSセンサの需要が早急に回復しないと、これらが財務面の重荷になる可能性も出てきた。もっとも、東芝関係者によると、必ずしもすべての関係者がソニーへの移籍を望んでおらず、早期退職者や他部門異動者も相当数出る見込みである。

ソニーの半導体は、今後の課題であるスマホやAppleへの依存体質からの脱皮、車載向けビジネスの早期立ち上げ、本格的IoT時代を見据えた新分野の開拓などに早急に取り組み必要が生じている。なお、吉田副社長は、業績発表会の席上、会場からの「ルネサス エレクトロニクスや東芝メディカルシステムズの株式取得に名乗りを上げる可能性は?」との質問に、「個別の案件についてはコメントしない」と答えつつも、「機会があれば検討するのが基本姿勢だ」と含みを持たせた。