規制緩和なくして市場形成なし

国交省に話を聞くと、規制が日本におけるPM普及の壁になることは同省としても避けたいようだが、規制当局としては、安全性を担保することが何よりも重要との立場から、なかなか規制緩和に踏み込めないというのが現状のようだ。公道走行に関する規制緩和が進まない限り、日本でPM市場が育つ可能性は低いと思われるが、規制当局側には、規制緩和と市場形成は「鶏が先か、卵が先かという関係にある」(前出の国交省職員)という感覚がある。PMの規制緩和に関する問題は、自動運転車やドローンなどの新たなテクノロジーが日本で普及するかどうかの試金石と捉えることもできる。

PM分野では、発火の可能性があるほど粗悪なコピー品も市場に出回り始めており、海外では粗悪なPMを出火原因とする火災も実際に起こっている。この手の製品はネットを通じて日本でも購入することができるため、日本でも粗悪なPMによる事故や火災が発生する可能性がある。セグウェイジャパンなどの日本勢が規制緩和に向けた実証実験を進めている間に、粗悪品が日本市場に出回り、事故などでPM全体の評判を落としてしまうような事態も起こらないとは言い切れない。

セグウェイツアーが人気アクティビティに

公道走行が可能な国では、セグウェイを用いた新たなサービスが生まれている。その代表格がパトロールと観光ツアーだ。米国や欧州では、警察や警備会社がパトロールにセグウェイを導入した事例が豊富。セグウェイでベルリンやパリなどの観光地を巡る「セグウェイツアー」は、旅行サイトの「トリップアドバイザー」で利用者の9割以上が5つ星の評価を付ける人気アクティビティに成長している。

東京、横浜、京都など、日本にも魅力的なルートを提案できる観光地は豊富に存在しそうだが、PMによる公道走行が不可能な以上、日本でセグウェイツアーの企画が林立するという状況は望むべくもない。日本政府が訪日客の拡大を目指すのであれば、PMの観光利用についても柔軟な検討を進めてほしいところ。2020年の東京オリンピックを控えた今、観光や警備とPMの組み合わせには一考の余地がありそうだ。

海外で人気のセグウェイツアー。国内では北海道や埼玉県などで体験できる

新規事業の創出に知恵を絞るセグウェイジャパン

セグウェイに乗ると目線が少し高くなり、走行時には自然と周囲に興味が向く。こうした特性は、観光ツアーやパトロールといったサービスにマッチした。見逃せないのは、これらのサービスがユーザー発信で生まれたという点。セグウェイが普及したからこそ、セグウェイを用いた新たなサービスも生まれたわけだ。日本でPMの普及に努めてきたセグウェイジャパンは、セグウェイを単に売るだけではなく、セグウェイをプラットフォームとして捉え、新たな事業モデルをデザインする「サービスプロバイダ」としての機能を強化していく姿勢を示している。

セグウェイジャパン取締役でマーケティング部 部長の秋元大氏は、セグウェイを既製品に取って代わる単なる乗り物とは考えず、「移動する楽しみ」に特化した新たなモビリティと捉えることが重要と指摘する。セグウェイを用いた事業モデルの創出に知恵を絞る秋元氏は、社会やライフスタイルに対してセグウェイが提示できる新たな価値を追求している。

セグウェイジャパンの秋元氏

秋元氏が注目している新規事業の1つがシェアリングだ。太陽光発電、蓄電、交通系ICカードなどとの組み合わせにより、セグウェイのシェアリングを環境配慮型の都市開発案件に導入する事業モデルも視野に入っている。セグウェイの導入を前提とする都市計画が具体化すれば、セグウェイジャパンはセグウェイの納入から運営までを一貫して実施できる。都市部でセグウェイを展開する取り組みとして、セグウェイジャパンは近いうちに、東京急行電鉄と共同で二子玉川駅周辺でのシティガイドツアーを実施する予定だという。