パネルメーカーとの関係に変化が

さて、BMDに限らず、近年の高画質テレビではバックライトも含めた改善をアピールするところが多い。しかも、その多くが「自社開発」である。東芝の「REGZA Z20X」にしろ、パナソニックの「VIERA CX800」にしろ、現在発売済みの製品は、そうした工夫をウリにするものが多い。その背景にあるのはなんなのだろうか?

東芝「REGZA Z20X」の直全面直下型LEDバックライト。1,000nit超の高輝度を実現し、各エリアを個別にコントロールする

「西田さん、それはね、パネルメーカーとの関係が変わったからですよ」 あるテレビ技術者はそう話す。

「正直、過去にはパネルメーカーのいいなりでテレビを作らざるを得ませんでした。我々が生産したい数のパネルをできる限り安く調達するには、彼らが売りたいパネルを、彼らが言う通りに買うしかないという事情がありました」

「しかし、今は違います。テレビ用パネルのニーズはそこまで多くない。パネルメーカーは、パネルを求めるテレビメーカーの言うことも聞かないと、安定した販売が見込めなくなってきた。なので、こちらの考えを反映したパネルが作りやすくなってきたんですよ」

なるほど、それは面白い。

日本のテレビメーカーが高級機で使う液晶パネルは、今は「オープンセル」と呼ばれる調達形態が主流になっている。液晶ディスプレイは、液晶部とバックライト、表面のフィルターなど、多数のパーツで構成される。過去にはそれらをまとめた「モジュール (クローズセル) 調達」が多かった。「どこでもパーツさえ買ってくれば作れる」と揶揄される作り方は、モジュール調達の話である。

だがオープンセル調達では、液晶部だけ買い、バックライトやフィルターは自社で開発・調達して作り上げる、という形が採れる。こうしたことは2013年頃から広がっている。当初は低価格化のためのソリューションだったものの、現在はむしろ高画質化に必須のやり方になっている。それができるのは、テレビが「低価格で数を売る」時代から、「高品質なものを、必要としている人に売る」時代に変わったからだ。

「テレビ事業は家電のお荷物」と言われる。今でも業績が完全回復したとは言い難い。しかし、製造・販売の現場では、「薄利多売で差別化できない」時代は過去のものになった。今は、「ノウハウのあるところがそれを生かして、いい顧客だけを相手にする」時代。それにあった技術と経営を行うところが、ここからの勝者になる。

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