シャープが発表した2024年度第3四半期累計(2024年4月~12月)の連結業績は、売上高が前年同期比6.0%減の1兆6579億円、営業利益は前年同期のマイナス35億円の赤字から203億円の黒字に転換。経常利益は前年同期比87.4%減の8億円、当期純利益は前年同期から56億円悪化し、マイナス35億円の赤字となった。

  • 2024年度第3四半期累計(2024年4月~12月)の連結業績

    2024年度第3四半期累計(2024年4月~12月)の連結業績

シャープの沖津雅浩社長兼CEOは、「第3四半期(2024年10~12月)の売上高は減収になったものの、営業利益は、第2四半期からさらに改善し、前年同期比では8.8倍となった」と総括。「ブランド事業の売上高は、3セグメント(スマートライフ&エナジー、スマートオフィス、ユニバーサルネットワーク)のすべてが増収となり、前年同期を上回った。営業利益も、円安によるマイナス影響があるなか、全セグメントで増益を達成した。デバイス事業は減収となったが、ディスプレイ事業の構造改革を進めた効果があり、営業赤字は大幅に縮小した」と説明した。

  • シャープ 代表取締役 社長執行役員兼CEOの沖津雅浩氏

経常利益および最終利益は、営業外損失として、為替差損が発生したことや、特別損失として、アセットライトに関連する減損損失、事業構造改革費用を計上したことで減益になっている。

家電事業は国内苦戦も海外伸長

セグメント別業績では、ブランド事業の売上高が前年同期比10.6%増の1兆1047億円、営業利益は28.3%増の596億円となった。「円安のなかでも増益を確保し、安定した利益を計上している。案安に対する打ち返しがうまくいっている」と語った。

  • セグメント別の売上高

  • セグメント別の営業利益

そのうち、スマートライフ&エナジーは売上高が前年同期比2.1%増の3454億円、営業利益は30.7%減の138億円となった。

「第3四半期は、国内白物家電事業がほぼ横ばいとなった。CMなどプロモーションを強化した効果もあって、空気清浄機が伸長したが、需要が低調だった冷蔵庫などが前年実績を下回った。だが、海外の白物家電事業は大幅な増収となった。全地域で増収であり、ASEANでは大型商品や高付加価値モデルへのシフトにより、冷蔵庫が大きく伸長し、洗濯機も堅調に推移した。欧米の調理家電も好調だった。一方で、エネルギーソリューション事業は市況低迷の影響を受け、海外での売上げが減少したが、国内のEPCは前年実績を上回った」という。

また、スマートオフィスは、売上高が前年同期比17.0%増の4935億円、営業利益は48.1%増の280億円。第3四半期は国内ビジネスソリューション事業が成長した。なかでも、PCでは、法人向けプレミアムモバイルモデルが引き続き好調であり、LCM機能を強化した効果もあって、国内法人向けビジネスを中心大幅な増収を達成。PC事業の高付加価値化が進み、増益になっている。海外では競争環境が激化した米州のMFPやインフォメーションディスプレイが減収となった。

ユニバーサルネットワークは、売上高が前年同期比11.4%増の2658億円、営業利益は132.8%増の178億円となった。通信事業およびテレビ事業が増収となり、とくにテレビ事業は国内外ともに増収になったという。「国内では、XLEDおよびOLEDモデルが引き続き堅調に推移した。海外では米州、欧州、アジアなどで、コスト競争力があるモデルが好調だった」という。通信事業については、AQUOS sense9など新製品が好評で大幅な増収を達成したという。

テレビ事業の今後「変革できる部分はまだある」

今回は、テレビ事業の考え方についても説明した。

「国内テレビ事業は、25~30%のシェアを維持し、利益を確保できる体制を目指す。そのために付加価値の高い商品を継続的に発売していく。海外テレビ事業は、2024年度に構造改革を推進した。マレーシアで生産し、アジアの各地にテレビを出荷していたが、マレーシア工場は縮小し、コモディティモデルは中国のODM/OEMメーカーを活用することにした。2025年度は原価力をあげて、海外市場に臨んでいく」と語った。

また、「テレビはグローバル共通の商品であり、数量を作ることで、製造コストを安くできる。シャープは、所有しているテレビ工場もあり、変革できる部分はまだある。海外は固定費を下げることに挑戦していくが、グローバルに向けて出荷する付加価値モデルは、シャープの工場で生産する。日本市場向けには、付加価値モデルの比率をできるだけ高め、AI技術の活用により、テレビ放送を視聴すること以外の活用提案も検討していく」と述べた。

一方、デバイス事業の売上高は前年同期比27.6%減の5776億円、営業利益は前年同期から124億円改善したがマイナス251億円の赤字となった。そのうち、ディスプレイデバイスは、売上高が前年同期比16.2%減の4000億円、営業利益は前年同期がマイナス494億円の赤字からに対して、197億円改善したが、マイナス297億円の赤字が残った。「スマートフォン向けや、SDP(堺ディスプレイプロダクツ)での生産を停止した大型ディスプレイは減少したが、PCおよびタブレット向けディスプレイが伸長した。生産能力の最適化などの構造改革を進めた効果もあり、赤字が大幅に縮小している」と説明した。

また、エレクトロニックデバイスは、売上高が前年同期比44.6%減の1775億円、営業利益は前年同期比61.6%減の45億円となった。「2024年から新たに量産を開始した車載用゛遺品や、新製品の受注を獲得した加工用半導体レーザーが大きく伸長した。だが、センサーモジュールの顧客需要が変動した影響が響き、大幅な減収になった」と振り返った。

通期の黒字化計画は維持、成長投資へ次期中経も「発表したい」

シャープでは、2024年度(2024年4月~2025年3月)連結業績予想を修正し、売上高は300億円増額の前年比8.3%減の2兆1300億円、営業利益は100億円増額し、200億円への黒字化の計画を維持。また、経常利益は90億円減額の10億円とし、これも黒字化の計画を維持する。当期純利益は50億円の見通しとしていたが、「最終利益の通期予想は、グリーンフロント堺の土地、建屋をソフトバンクに譲渡し、それに伴う収益や、アセットライト化やディスプレイ事業の構造改革に関連する費用などを合理的に算定することが可能となった時点で公表する」とした。だが、「2024年度は、2021年度以来、3年ぶりとなる最終黒字を達成できる見込みであり、50億円を多少なりとも上回るところを目指していく」と述べた。

  • 2024年度通期(2024年4月~2025年3月)の連結業績予想を修正

2024年度の重点施策であるアセットライト化の進捗についても説明した。

カメラモジュール事業では、12月27日に、鴻海グループのFullertainに譲渡する契約を締結し、2025年度第1四半期中のクロージングを予定。半導体事業では、2024年度中の契約締結に向けて、鴻海と継続協議中だという。

グリーンフロント堺では、SDP液晶工場および関連施設を整理。ソフトバンクとは、2024年度の譲渡完了を予定。KDDIとも基本合意書を締結し、2025年4月までの譲渡実行に向けて詳細を協議している。「KDDIとの話し合いは、当初は4社で検討を進めてきたが、シャープとKDDIの2社で進めることが適していると考えた。AIデータセンターの運営については、2社で協業できることがないかという点で検討を続けている」とした。

  • 整理を進めているSDP液晶工場

また、本社工場棟は1月30日に、積水化学工業と売却契約を締結。2025年10月の譲渡を予定している。今後のシャープ本社の移転については、「移転先を探している。東京や関東への移転は考えていない」と述べた。

  • 2024年度の重点施策であるアセットライト化の進捗

2024年6月に、社長兼CEOに就任した沖津氏は、2024年度の黒字必達を、最低限の目標に掲げている。

「アセットライト化をきっちりと進め、2025年5月に次期中期経営方針を発表したい」とし、「2025年度は、ブランド事業にさらにシフトしていくことになる。既存のブランド事業だけでなく、新たな分野のブランド事業をいかに伸ばしていくかという点で成長戦略を立てていく予定だ。2025年度は、ブランド事業の新たな取り組みに向けて投資を行い、新たなジャンル、新たな販路を拡大していく。チャンスがあれば掴んで(買収)していきたい」と述べた。

すでに、2024年12月には、海外で販路獲得のために、IT関連企業を買収。「シャープとしては、4年ぶりの買収を行っている。プランド事業への投資を開始している」(シャープ 専務執行役員 CFO兼管理統轄本部長の小坂祥夫氏)と語った。

  • シャープ 専務執行役員 CFO兼管理統轄本部長の小坂祥夫氏

また、沖津社長兼CEOは、「AIを商品に組み込むためには、人材が必要になる。人材を確保するために企業を買収することも視野に入れる。ブランド事業が成長するためにどんな資産が必要であるかを見極めて、投資先を決めていく」と語った。その一方で、「既存事業においても、いい商品があれば投資をしていくことになるが、新たな工場に投資することは考えていない」と述べた。

シャープ再建、「達成のかぎ」はどこに?

ブランド事業にフォーカスするという指針を示し、それに向けた構造改革が推進されており、業績の回復に向けた道筋も明確になろうとしている。沖津社長兼CEOは、「2024年度の黒字化を達成しなければ、シャープの成長は、なにも始まらない」と、黒字化に強い意思をみせる。

沖津社長兼CEOは、今年の正月休みに、京都の伏見稲荷大社を訪れ、願い事が達成されるように祈念して創られた「達成のかぎ」を授かってきたという。「この『達成のかぎ』を、毎年授かるようになって以降、多くの年で業績目標を達成することができている。今年度も公表値を必ずやり遂げることができると確信している」と語る。

2024年度第3四半期累計では、営業黒字となったものの、最終赤字からは脱却できておらず、構造改革の成果がまだ出し切れていない状況にある。また、ソフトバンクへのSDP液晶工場および関連施設の譲渡の交渉が、遅れていることも気になる。これが最終赤字からの脱却にも影響するからだ。

最終コーナーとなる第4四半期を迎えている今、シャープ経営陣にとっては、まさに「ヒリヒリ」した3カ月間となっている。