世界三極体制

一方で御手洗氏は、「社長に就任した20年前から、ひとつの夢の実現を目指してきた」と前置きし、「それは世界三極体制の実現」だと語った。

「従来のキヤノンの新製品開発は日本が中心であった。だが、技術が進化するスピードが速まり、人々の価値観が多様化するなかで、イノベーションの源泉は、日本だけでなく、世界に広く求めなくてはならなくなった。そこで、欧米にも地域独自の事業会社を置き、世界三極体制を実現した。いまは、その完成に向けて大きく前進しているところだ。

米国では医療関連ビジネスの立ち上げに力を入れており、今年度は遺伝子診断機器事業を統括するキヤノンバイオメディカルを設立。ロボット技術を使った超小型内視鏡の開発にも取り組んでいる。

欧州では商業印刷機やネットワークカメラのビジネス拡大に取り組んでいる。日米欧各地でそれぞれが得意とする技術を磨き、有効なビジネスを新たに獲得することで、世界中で発展していきたい。開発から生産、販売までメーカーの全機能を有する新生キヤノンUSA、新生キヤノンヨーロッパを作り上げて、それぞれが自立的経営をしながら、キヤノングループとして一致団結して、シナジー効果を創出していくことが、キヤノン流の連邦経営であり、グローバル経営になる」(御手洗氏)。

御手洗氏が掲げる世界三極体制

そして、「日本は、世界三極体制の中心に位置する大黒柱。日本における開発、製造、販売のそれぞれの機能を徹底的に強化し、世界をリードし続けることが、世界三極体制を完成させる鍵になる」とした。

研究開発においては、大学や研究機関、ベンチャー企業などの外部リソースを積極的に活用。生産については、"モノづくり力"の強化に向けて、国内生産への回帰を推進。「手先の器用さや几帳面さ、という国民性の強みを生かせば、長期的には海外に打ち勝つことができると考えている」と述べた。

また、2018年度をめどに国内におけるカメラ生産の完全自動化を実現したいとも語った。「ここでも重要なのがIoT。部品や製品がどこにあるのかをリアルタイムで把握するシステムを、IoTを駆使して構築できれば、完全自動化による生産性は飛躍的に向上する。様々な可能性を探りながら、IoTをモノづくりに応用したい」と述べた。

販売領域の強化においては、キヤノンマーケティングの取り組みを説明。「この5年間、Beyond Canon, Beyond Japanを掲げ、総合商社への変身を進めてきた。これからも顧客の立場で課題を考え、質の高いソリューションを提案する総合商社を目指す。ここでもIoTソリューションの提案が重要になると考えている」とした。

「ネット通販の広がりは流通革命といえるものであるが、これまではリアルの顧客を、ネットに奪われるという二項対立の構図で捉えていた。しかし、顧客はリアルとネットを使い分けており、これを融合した仕組みを作れば、もっと便利になる。時代にあった販売、マーケティング体制を作りたい」(御手洗氏)。

最後に、御手洗氏は、「2020年には、これまでに説明した取り組みに加えて、世界的に著名な企業と提携したり、確かな技術を持つ優良企業をグループに迎え入れたりすることで、まったく新しい姿に生まれ変わったキヤノンをお見せしたいと思う」とし、「キヤノンは、IoT時代の到来を見据えて、技術に磨きをかけて、みなさんとともに輝かしい未来を迎えたいと考えている」と語り、講演を締めくくった。