「スイス・サンティミエのロンジン ミュージアムに収蔵されている貴重なアーカイブが"“たまたま”東京に来ているらしいんですが、見に行きませんか?」と、マイナビニュースの家電fan編集部から突然のお誘い。聞けば、それは1954年に製造された「Longines Twenty-Four Hours」(ロンジン トゥエンティーフォー アワーズ)のオリジナルモデルらしい。もちろん、一も二もなくぜひとお願いして、我々は銀座のスウォッチ・グループ・ジャパン「ニコラス・G・ハイエックセンター」を訪れた。

オリジナルだけが放つ「魅力と風格」

Longines Twenty-Four Hoursのオリジナルモデル

Longines Twenty-Four Hoursのオリジナルモデルは、1953~1956年にかけて、ロンジンがスイス航空のためにと特別に製造した製品だ。1940年代、パイロット用に設計した機械式ムーブメント「キャリバー37.9N」を搭載した24時間計(24時間で時針が一周する)で、計70個が製造されている。

目にすることができた個体は、バックに「SWISSAIR 29」の文字が刻まれていた。これは、触れ込み通りスイス航空に納品されたものであるとともに、合計生産数70個のうちの29番目であることを示している。これをロンジン社内の資料と照らし合わせることで、当該個体が1954年に製造されたことが判明したのだ。

【左】今回見ることができたLongines Twenty-Four Hours。ストラップはさすがに現代のものへと交換されている。【右】29/70を示すシリアルとSWISSAIRの文字を刻むバック

スイス航空に納品されたはずの29番が、60余年を経た現在、ロンジン ミュージアムの収蔵品となっている理由については、同社広報より以下の回答が。「元スイス航空パイロットの方からの申し出によって寄贈され、2010年からロンジン ミュージアムで保管されている」と。なお、残り69個の行方については、ロンジンでも把握していないそうだ。

このアーカイブがなぜ銀座にあるのだろうか。実はこのTwenty-Four Hours、10月7~12日まで仙台で開催されていた、百貨店の時計フェアで展示するために持ち込まれた、というのが真相。その移動の間隙を突いて、我々は貴重な邂逅(かいこう)を果たすことができたのだ。

ちなみに、ロンジンはこのLongines Twenty-Four Hoursを2011年に復刻している。ブラックマットダイヤルに浮かぶアラビアインデックスなど全体的な雰囲気はそのままに、デイト表示やハンターケースバックといった要素を加えて現代風にアップデート。ケース蓋の裏には「Re-edition of a Longines navigation watch exclusively made for Swissair navigators, 1953-1956」という文字が刻まれ、復刻モデルであることと、オリジナルモデルの出自を示している。価格は38万1,000円(税別)。

【左】2011年のTwenty-Four Hours復刻モデル。ケース外径は47.5mm、風防はサファイアガラス、3気圧防水。ストラップはブラックアリゲーター。【右】復刻モデルはハンターケースバック仕様。シースルーバックからはムーブメントの駆動が見える。蓋裏には、オリジナルモデルへのリスペクトが刻まれている

翻って、オリジナルモデルに目を向けてみよう。本物のクラシックならではの艶と風情、そして風格に目を奪われる。やや目立つケースの傷には、この時計が刻んできた歴史が表れているし、それでいてわずかな凹みも欠けもないラウンドケースとガラス風防からは、パイロットという過酷な仕事の中で、オーナーがひときわ大切に扱ってきたことが容易に想像できるだろう。

砂地のブラックダイヤルに映えるゴールドのスペード針。ウイングド・アワーグラス(翼付きの砂時計)のないロンジンロゴ。レールのないミニッツメーター。それらはすべて極めてシンプルだ。ゆえに美しく、いつまで眺めていても見飽きることがない。

航空ナビゲーションというプロフェッショナルな現場のための24時間時計。機構や精度、視認性という「機能」と、腕時計としての「美」をともに追求するロンジンの思想を、この歴史的アーカイブが雄弁に語っている。

【左】ケースに凹みは一切ない。細かな傷はあるものの、それが味と風格になっている。【右】ガラス風防は非常に美しく、縁の歪みが愛らしい

【左】ゴールドのスペード針がデザインのアクセントとなっている。【右】微妙に、緩やかにダイヤルへカーブする針先

滑り止め加工の実用性と装飾的な美を両立したりゅうず