宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月14日、小惑星探査機「はやぶさ2」の地球スイングバイに関する記者説明会を開催、軌道の詳細等について明らかにした。地球への最接近は12月3日19時7分(日本時間)ごろ。探査機は極めて暗いと推測されるが、大型の天体望遠鏡を使えば日本から見える可能性もあるという。
スイングバイというのは、天体の重力と公転とを利用して、探査機の軌道を曲げると同時に速度を変化させる技術だ。燃料を使わずに加速や減速が行えるため、少ない燃料で目標天体に辿り着けるというメリットがある。今回、はやぶさ2では地球スイングバイにより1.6km/s加速するが、もしイオンエンジンで同じだけ加速すると、燃料は「6割増し」になるほどだ。
これまで、はやぶさ2は地球に併走するような軌道を飛行していたが、スイングバイによって大きく軌道を変え、小惑星リュウグウ(1999 JU3)へと向かうことになる。ちなみに、はやぶさ2はスイングバイ後、イオンエンジンの運転によりさらに1.5km/sの加速を行うのだが、スイングバイでは、それに相当するだけの加速を一気にやってしまうというわけだ。
スイングバイは、やり直しのきかない一発勝負。決められた場所を通らないと進路が大きくずれてしまうので、探査機の軌道を高精度に推定して、正確に軌道修正することが必要になる。
はやぶさ2では、日本の探査機としては初めて、「Delta-DOR」と呼ばれる手法で軌道推定が行われている。探査機の軌道推定には電波を使った計測が用いられるが、従来の手法だと、例えば10月8日の距離(2000万km程度)では、位置精度が2.0km、速度精度が1.3mm/sだった。これに対し、Delta-DOR観測も加えた場合は、位置精度が180mに、速度精度が0.9mm/sに向上する。
Delta-DORは、離れた場所にある2つのアンテナを使い、それらのデータから探査機の位置を決定する。アンテナが離れているほど高い精度が実現できるため、NASAやESAの協力を得て、海外のアンテナも利用している。小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」で技術実証を行い、はやぶさ2で初めて実用化した。NASAでは古くから活用しているが、航法担当の竹内央助教によれば、「世界最高レベルの精度が出た」ということだ。
今後、12月3日の地球スイングバイに向け、はやぶさ2は化学エンジンによる3回の軌道修正マヌーバを予定している。1回目は11月3日、2回目は11月26日で、3回目は12月1日だが、2回目までの結果が良ければ、3回目は実施しない可能性もあるとのこと。軌道制御の精度目標は、位置が数km、速度が数cm/sだ。
はやぶさ2は地球の北側から接近し、日本時間19時7分ごろ、太平洋の上空3100kmで最接近、そのまま南極方面へと抜ける。最接近時の地球に対する速度は約10.3km/sだ。
はやぶさ2地球スイングバイの予想CG (C)JAXA |
最接近の前後10分間(計20分間)は地球の陰に入るため、その間は地上から観測することはできないが、その前後であれば探査機に太陽光が当たっているので、見える可能性がある。日本からも観測が可能だが、条件は緯度が高いほど良く、北海道名寄だと日没後3時間ほど観測が可能であるのに対し、石垣島だと1時間程度しか観測時間がないという。
吉川真 はやぶさ2ミッションマネージャによれば、探査機の明るさを事前に予測することは難しく、実際に通過するまで分からないという。「直径3mの小惑星と仮定すると10等級くらいになる」とのことだが、反射率も違うので、これはあくまで参考値。これまで、火星探査機「のぞみ」を観測した例があるが、このときは15~16等級だった。
いずれにしても、肉眼での観測は無理そうだ。かなり大きめの望遠鏡が必要になると考えられており、JAXAは観測に必要な情報を事前に公開し、各地の天文台などで観測してもらう考え。過去、のぞみとはやぶさ初号機の観測キャンペーンでも、悪天候のため成功例はほとんど無かったが、吉川ミッションマネージャは「ぜひチャレンジして欲しい」と呼びかけた。
津田雄一 はやぶさ2プロジェクトマネージャは、「リュウグウに行くためには、まだやることがたくさんある。地球スイングバイは初めの一歩ではないが、二・三歩目といったところ。次の道を開くために、着実に実施したい」とコメント。イオンエンジンの運転はスイングバイ以降が本番であり、「ハードウェアとしてはこれからが試練」と、改めて気を引き締めた。