マーケティング・オートメーションをはじめとするデジタルマーケティング・ソリューションへの需要が活況を示している。そうしたなか、クラウド型マーケティングプラットフォーム「Oracle Marketing Cloud」を軸にマーケティング市場を攻めている日本オラクル。同社のマーケティングクラウド統括本部長に就任したトニー・ネメルカ氏に、今後の日本市場におけるデジタルマーケティングに対する需要をさらに活性化し、成長していくための戦略について聞いた。

日本オラクル マーケティングクラウド統括本部長 トニー・ネメルカ氏

グローバルのサポートと日本市場に特化した機能を提供

初めに、ネメルカ氏にマーケティング・ソリューションのトップベンダーとして市場をどのように見ているかについて尋ねた。

日本オラクルはすでに国内市場で大きなプレゼンスを確立しており、設立から30年の節目を迎えた。現在、大手企業から中堅以下の規模の企業に至るまで、Oracle Marketing Cloudに関連する商談を進めているが、ビジネスを進めるうえでの困難をほとんど感じないと言う。一般にアプリケーションを導入する際、機能要件とのフィット&ギャップ分析を行うのが常だが、日本企業のマーケティングに関する要件と同社製品の機能を比べると、ギャップが小さいようだ。ネメルカ氏によると「機能のギャップは感覚的に4~5%の水準ではないか」と言う。

日本オラクルでは、Marketing Cloudを含むSaaSビジネス全般について人材を募集しており、Marketing Cloudの販売を担当する国内の組織も拡大の途上にある。「実は、国レベルでMarketing Cloudの責任者(GM)がいるのは日本だけであり、私はグローバルのOracle Marketing チームに直接報告することができる。日本に専任チームを置くのは、地域市場に特化した戦略を取ることが最も良い形で市場に対応できるというLarry Ellisonの考えに沿うためであり、それだけ日本市場の成長が期待されていることの裏返しでもある」とネメルカ氏。

日本オラクルは独立した会社として東京証券取引市場に株式を公開しているが、顧客の多くは大規模かつグローバルでビジネスを展開している企業が多い。そうした顧客は日本独自の市場ニーズに対応してほしいと願うだけでなく、グローバルで一貫性のあるサポートをしてほしいと考える。

「だから、Oracle Marketing Cloudはグローバル製品として提供されるが、日本のチームは、日本市場に特化した市場浸透を試みるつもりだ。この戦略は、私自身の日本での経験からも適切であると考えるし、日本オラクルが成功していることにも裏付けられるように思う」(ネメルカ氏)

「デジタル・マーケティング・ソリューション導入を検討しているお客さまには、クラウドの戦略においてマーケティングが重要な要素であることを理解してほしい」とネメルカ氏は語る。マーケティングは、企業が外部の顧客からエンゲージメントを獲得し、維持する手段として機能する。さらに、マーケティングは企業のフロントエンドにあり、外に目を向けている業務機能であるが、企業の中にデータを持ち込むことも重要である。なぜならば、マーケティングはセールスやサービスといった他の業務機能と密接に関わっているからである。

日本市場の最大の特性は「モバイル」

では、日本市場に特化するうえで、重要なカギとなる特有の機能的なギャップとは具体的にどのようなものなのだろうか? この点について、ネメルカ氏は「モバイル」だと語る。

「私が初めてマーケティング・テクノロジーに触れたのは2001年にさかのぼる。リアルタイム・メッセージングが当時の最先端の技術だった。当時の技術では、リアルタイムに適切なメッセージを適切なオーディエンスに届けることは困難だった。それは、日本の一般的な消費者は当時も今も、常に活動しているため、次の行動を予測することが難しかったからだ。このモバイルという特性を理解することは、マーケターにとって重要である」(ネメルカ氏)

例えば、同社の顧客であるサッポロビールは消費者が常に移動していることを効果的に活用して、消費者と最終的につながることを目指している。テレビCMをたくさん利用しているサッポロビールは一見、消費者向けにビジネスを展開しているように考えがちだが、実のところ、同社のビジネスはB2Bであり、販売会社が直接的な顧客となる。しかし、あくまでも商品を買い、最終的に商品を口にするのは個人の消費者である。そこで、オンラインのコミュニティを通じて、本当に商品を口にする消費者がどこにいるかがわかれば、サッポロビールと直につながっている顧客によりよいサービスが提供できると考えたのだ。

日本市場ではコミュニケーションのためのモバイルデバイスの普及率も高い。モバイルコミュニケーションが活発な分、効率的に好みを理解したり、消費者とつながったりすることができる。だから、今後、新たな製品を出していく場合やどういう技術を使うかを考える場合に着目するべきなのはモバイルという日本人の特性なのである。

この特性は、日本市場にとどまるわけではない。米Oracleでプロダクトマーケティング統括ディレクターを務めるChris Lynch氏は、日本オラクルが開催したイベント「Modern Marketing Tour Tokyo 2015」で、消費者が店舗にいる時、モバイル・デバイスでディスカウント・クーポンが送られる例を示していた。オンラインだけでなくオフラインでも、モバイルデバイスは重要な役割を果たすというわけだ。近い将来の目標として、ブランド戦略としてオンラインでやっていることをオフラインでもできるようにしなくてはならないだろう。このように、日本人の「モバイル」という特性はグローバルでの市場機会にもつながるとネメルカ氏は見ている。