音楽離れを引き戻せそうなiCloudミュージックライブラリ

音楽市場の衰退を招いているのは違法ダウンロードだと思い込まれがちだが、違法ダウンロード利用者は音楽を積極的に購入しているという調査結果もある。音楽に関心を持っているから、違法ダウンロードにも手を出す人がいる。そうした層は、実は合法的に音楽を楽しむ方法に導きやすい。音楽市場を狭めているのは違法ダウンロードだけではない。たとえば無関心層だ。学生から社会人になって音楽に触れる機会が減り、新しい音楽を探さなくなったり、そのまま音楽を聴くのを止める層が、CD販売の下落と共に増えている。関心を失っているだけに、音楽市場に再び取り込むのは難しい。

Apple Musicのサービスをまとめてみよう。

1.ストリーミングによる聞き放題サービス
米国では3,000万曲以上、オフライン機能もあり
2.iCloudミュージックライブラリ
MacまたはPCのiTunesライブラリ内の曲をApple Musicライブラリとマッチングさせ、Apple Musicライブラリにない楽曲はiCloudにアップロード
3.Beats 1
Appleが集めたトップDJによるネットラジオ局
4.ネットラジオ
旧iTunes Radio
5.Connect
アーティストやキュレーターをフォローするソーシャル機能

音楽には2種類の楽しみ方がある。1つは発見、もう1つは気に入った曲を繰り返し聴くことだ。この2つがうまく作用すれば、人々は音楽を楽しみ続けられる。

AppleはApple Musicの特長としてエキスパートによるキュレーションを強くアピールしている。プレイリスト作りを機械解析だけに頼らず、専門家の知識とセンスを融合した感情に訴えるレコメンデーションで音楽の発見を促す。それは「For You」という各ユーザー向けのオススメ機能や、(4)のネットラジオに反映されている。(3)のBeats 1もエキスパートによるキュレーションの1つと言える。

ユーザーごとにパーソナライズしたレコメンデーションが表示される「For You」

Radioタブ、iTunes Radioは提供地域が広がらなかったが、サービス提供地域ではディスカバリー機能が評価されていた

「いまどき人力!?」と一笑する声もあるが、人力によるレコメンデーションでPandoraは機械解析のライバルを蹴散らしてネットラジオのトップサービスになった。機械解析だけではヒット曲や話題になった曲に偏る傾向が強いと言われる。それが事実なら、無名のアーティストの素晴らしい作品が発掘されるチャンスは小さくなる。

Apple Musicはまだ使用期間が浅いため判断できないが、同じくエキスパートによるキュレーションを採用していたBeats Musicを参考にすると、ユーザーの関心を引き、飽きさせず、驚きや感動も与えるプレイリストが日々表示されるようになる。機械と人は相反するものではなく、機械によるパーソナライズにうまく人の工夫がエッセンスになっている。

Apple Musicのストリーミングサービスの土台となったBeats Musicのパーソナライズ機能「Just for you」。「Songs for a blue day」「Best guitar riffs of the 90's」など、音楽専門家のアイディアが伝わってくるユニークなプレイリストが並ぶ

Beats Musicアプリにはタップして単語を選びながら作ったセンテンスでプレイリストを生成する機能があり、ムードや状況に応じたプレイリストを作るのに便利だったが、Apple Musicへの搭載は見送られた

(2)のiCloudミュージックライブラリはiTunes Matchに近い機能だ。CDからiTunesライブラリに取り込んだ曲、iTunes Storeから購入した曲は「My Music」というタブにまとめられる。またApple Musicライブラリの曲もマイミュージックに追加できる。My Musicを開くと、そこには自分が集めた曲が並ぶ。好きな曲を繰り返し聴くための機能である。

CDからiTunesに取り込んだ音楽やiTunes Storeで購入した音楽が並ぶ「My Music」

Apple Musicライブラリの曲もMy Musicに追加したり、オフライン再生用にダウンロードできるが、Apple Musicを解約するとライブラリから消える

Spotifyのユーザー層はダウンロード世代が中心である。Apple Musicはダウンロード世代のニーズに応えながら、CD・レコード世代やデジタルダウンロード世代も活用できるサービスになっている。