その気になればグーグルストリートビューも可能

そして続いては、出入り口情報の整備のところで少し触れたが、道路のネットワーク情報の整備について。先程のコア・データベースは、基本的には街や建物、道路の形とその名称のデータベースだ(実際にはもっとさまざまな情報が入れられている)。カーナビにしろ歩行者用ナビにしろ、目的地までのルートを導き出せるようにするには、スタート地点からゴール地点までその2地点間をどのように道路がつながっているのかがわからなければならない。

ただ単に物理的に道がつながっているとしても、一方通行がある場合もあるし、幅員の問題でクルマが通れないことだってある。右折によく見られるが、昼間はできないけど夜はできるといった時間制限もある。そうした道路と道路がどうつながっているかのネットワーク情報があって初めて、カーナビ会社はそのデータを基にルート検索プログラムを使って高速道路を使った最速ルートや無料の一般道での最速ルート、距離優先ルート、省燃費ルート、さらには遠回りになるが渋滞を回避できるルートなどの案内をできるようになるというわけだ。

ここでは、道路ネットワークそのものを整備するというよりも、その下準備として、日本全国のすべての道路に対して、その道路に設置されている標識と補助標識、規制情報、そのほかルート案内に必要な情報をきちんとその道路ごとに反映させる作業が行われている。細道路計測車両が、ルーフに搭載した360度カメラ(画像16)で取得してきた画像データを使いながら作業をするのがこの部署であり、現地で撮影された画像情報を基に標識や交通規制情報、道路の幅員などを設定していくのだ。

画像16。画像3の細道路計測車両のルーフに搭載された360度カメラ

また、この作業で使用されているのは、ビューアー機能と道路情報を入力できる仕組みを持ったオリジナルソフトだ。ウィンドウが2つに分かれており、画像17の右側がビューアーで、細道路計測車両の360度カメラからの画像が映し出し、視点の前進後退(細道路計測車両の前進後退を意味する)、画像の拡大縮小、周囲360度を見回すことなどを、グーグルストリートビューみたいな手軽な感覚で行える。もちろん、画質のクオリティーはずっと上で、それで道路標識などをしっかり確認できるようになっている(やろうと思えば、同じサービスができるが、同社では地図データ製作に活用しているというわけ)。

そしてもう1つ、画像17の左側にあるのが、拡大された地図データ上にグラフィカルに標識情報や規制情報などを入力していけるウィンドウだ。どこにどういう標識や規制情報があって、その先の道路が一方通行なので右左折どちらかしかできないとか、そういった情報を入力していくのである。

画像17。道路のビューアー(右)と情報を入力するウィンドウ(左)

今回は例として、まず一時停止の「止まれ」を設定する様子を見せてもらった。そのほか、「一方通行」とか「右折のみ」といった道路ネットワークに関連する標識が入力されていて、道路ネットワークを構築するのに必要のないものは入力されない。例えば「駐車禁止」などは必要がないので入力されないというわけだ。

標識の情報を入力する際は、その道路で実際に標識が立っている位置も細かく入力されるほか、停止線も設定される。そうした標識や停止線を設定した次に行うのが、それらがどの道路に対するものなのかを設定することだ(画像18)。同じように、信号がある場所でも、実際に信号機がある場所に合わせて信号機と停止線の情報を設定(画像19)。そして当然ながら、どの道路に対する信号なのかも指定していくのである。

画像18(左):設定された標識がどの道路に対するものなのかを設定する。ちなみに、標識の設置場所は、扇形のそばの赤と黄の二重丸。画像19(右):交差点の信号も同様。どの道路の車線に対する信号なのかを、1つ1つ設定していく。

また、トンネルや陸橋、歩道橋、鉄道のガード下などをくぐる際の高さ制限も情報として入力する(画像20)。大型車両のナビの場合、通れないルートを導き出してしまったらドライバーにとってはとても面倒なことになるわけで、あらかじめ最初からトラックやトレーラーといった大型車両がきちんと通れるルートを導き出せるよう、高さも道路ネットワーク情報として入力されているというわけだ。

それから、最高速度の設定なども道路ごとにきちんと入力が行われている(画像21)。こうした最高速度や一時停止といった設定も入力されているから、人の感覚では裏道を通った方が目的地に早く着けるようなルートがあったとしても、そうした生活道路中心のルートは案内されないのである。

その上、標識情報の入力は今や補助標識にも及んでいる(画像22)。要は、この時間以降は右折可能といったケースがあるわけだが、それも情報として扱われており、ナビを使う時は日中と夜間とでは目的地によっては違うルートが選択されるというわけだ。時間帯のほかにも車種情報(特定の車種のみ右左折可能など)などもある。

画像20(左):トンネルなどの高さも入力される。画像21(中):こうした生活道の制限速度30kmなども細かく入力されている。画像22(右):時間帯によって右折ができたりできなかったりする交差点もあり、そうした補助標識の時刻情報も入力されている。

さらに、階段になっている(画像23・24)、車止めがある(画像25)など、標識がなくてもクルマが物理的に通行できない情報も現地で調査して、それらの情報も具体的にどうして走れないのかということも合わせて入力されている。

画像23(左):クルマの走行が不可能な階段。平野部の少ない日本においては、丘陵地帯に住宅の数多くがあり、唐突にこのような道が出現することがある。画像24(中):階段になっている場合の道路の入力画面。画像25(右):幅員があっても車止めがあったら絶対に通れないわけで、そこをナビがここを案内してしまっては大変なので、こうした道も通れないことをしっかりと入力される。

ちなみに、標識というのはちょっとした生活道路であっても何だかんだとそれなりの数が設置されているわけで、それが市道や区道、さらには都道府県道、国道ともなってくると膨大になってくる。全国で何本の標識が立っているのかというと、政令指定都市だけで100万本以上だそうで、全国の全標識となると、いったい何本なのかはゼンリンでもカウントできていないそうである。