リアクションホイールのキモはZ軸

探査機の姿勢制御に使うリアクションホイールも、初号機で大きなトラブルを起こした場所だ。初号機のリアクションホイールは、小惑星に向かう途中でX軸、小惑星到着直後にY軸が故障しており、それ以降、残るZ軸だけによる綱渡りの運用を強いられていた。

リアクションホイールは、円盤の回転速度を上下することで、機体の回転を調整することができる装置。1台で1軸周りの回転しか制御できないため、3軸制御のためには最低3台が必要になるのだが、初号機は厳しい重量制限があったせいで、3台ちょうどしか搭載することができなかった。通常は、冗長のために4台を搭載する。

初号機での故障は、初号機用に特別に変更した部分が原因だったと考えられており、標準品を使用したはやぶさ2で同じ現象が起きる可能性はないのだが、今回はセオリー通り4台を搭載。だが、セオリー通りでないのは配置の方法だ。4台が正四面体の位置関係になるスキュー配置ではなく、Z軸のみ2重(XYZZ)にした珍しい配置になっているのだ。

はやぶさ2のリアクションホイールの配置。Z軸のみ2重という特殊な構成だ

このように非常に特殊な配置を採用したのは、初号機での知見があるからだ。もしリアクションホイールが壊れたとしても、探査機には姿勢制御スラスタ(RCS)もあるので、燃料がある限り、3軸制御は可能。だが、初号機はRCSも使用不能になったのに、Z軸のリアクションホイールだけで、地球に帰還することができた。

この1台だけでは、Z軸周りの回転しか制御できない。では残りのX軸とY軸はどうしたのかというと、初号機では、太陽光圧により発生する微弱な回転力や、キセノンガスの直接噴射などを組み合わせて、姿勢制御する新しい方法を編み出した。Z軸さえ無事なら、初号機の方法で、姿勢制御は何とかなる。だからZ軸は特に手厚く、というわけだ。

ちなみに初号機では、太陽光圧は非常時の姿勢制御として利用されたわけだが、はやぶさ2では、リアクションホイールを温存するために、むしろ積極的に活用する方針。國中プロマネによれば、「イオンエンジンなどの難しい運転がない場合は、XYZの3台のリアクションホイールを停止して、Z軸の1台だけで姿勢制御する」ことを狙うそうだ。

日本初の深宇宙Kaバンド通信を確立

そのほか、ここまでの初期運用で大きなトピックスとしては、はやぶさ2で新たに搭載されたKaバンドアンテナによる通信の確立がある。深宇宙でのKaバンド通信に成功したのは、日本の探査機では初めて。Kaバンドは従来のXバンドに比べて4倍高速であり、より大量の観測データを小惑星から送ることができるようになる。

しかし残念なことに、日本国内には、はやぶさ2とKaバンド通信ができる地上局がない。そのため今回は、NASAの深宇宙ネットワーク(DSN)各局の協力を得て通信を行った。

日本国内にもKaバンド通信が可能な地上局はあるが、これらは地球を周回する衛星向けで、深宇宙通信の能力はない。探査機との通信には、もっと大きなアンテナが必要で、そのための施設として臼田と内之浦に直径64mと34mの大型アンテナがあるものの、対応しているのはXバンドで、Kaバンドは利用できない。

JAXA臼田宇宙空間観測所の64mパラボナアンテナ (C):JAXA

日本の小惑星探査は世界最先端の成果を上げているが、こと深宇宙との通信設備に関して言えば、米国から遥かに遅れていると言わざるを得ない。臼田局は、ハレー彗星探査機「さきがけ」「すいせい」の時代に作られたアンテナで、すでに30年が経過している。今後も使い続けるのは「寿命の問題もあり難しい」(同)という状態だ。

そこで、JAXAでは「我々は"臼田後継"と呼んでいるが、臼田局を作り替えることを計画している」(同)とのこと。具体的なスケジュールはまだ検討中だが、國中プロマネによれば、「XバンドとKaバンドの送受信が可能な設備を整えたい」そうだ。

なお米国はDSN局として、世界3カ所にゴールドストーン局、キャンベラ局、マドリード局を整備。これにより、24時間の運用を可能としている。臼田後継が実現したとしても、日本から探査機が見えている時間だけの運用になり、小惑星近傍ではいずれにしてもNASAの協力を得なければならないが、それでも早急の整備を望みたいところだ。

DSNのアンテナはこれだけある。このサイトでは現在の通信状況も分かって面白い

ハードは大丈夫、では最大の懸念は…

このようなプロジェクトでは、どうしても探査機本体に注目が集まりがちであるが、小惑星探査は探査機だけで行えるわけではない。國中プロマネは、「地上の設備、ネットワーク、人の技量」が必要だと指摘。いま一番心配しているのは、「ハードウェアではなく、いかに人間組織を作り上げるか」ということだという。

はやぶさ2は小惑星1999 JU3に約1年半滞在し、この間に、小惑星の観測、表面物質の採取、インパクタの運用、ランダー/ローバーの投下などを実施する。探査機の運用で、もっとも忙しい時期だ。「24時間連続のオペレーション。8時間3交代くらいで1年半を乗り切る」(同)ということで、実力のあるスタッフが大勢必要になる。

また、たくさんのデータを取得したら、その分析も必要となる。小惑星のどこに何がありそうか、科学的なデータを積み上げないと、着陸地点を決めることができない。大勢の科学者が必要で、大学や研究機関の協力が不可欠だ。

小惑星に到着するまであと3年半。それまでに人を育て、協力体制を構築しなければならない。今後は、どれだけ強力な「チームはやぶさ2」を準備できるかがポイントだと國中プロマネは見ており、「万全の体制で他国に負けない小惑星探査がしたい」と改めて意気込みを述べた。