製品展開の方向性

次がその製品展開に関する話である。今年8月に開催された決算発表の際に、作田会長はルネサスの弱みの1つとしてワイヤレスの分野を挙げていた。そこで、今後反転攻勢を掛ける際に、自社でワイヤレス技術を強くするのか、ワイヤレスに強いメーカーと組むのか、あるいはワイヤレスに強いメーカーを買収するのか? という方向性を確認したところ、

「大枠として、単独では無理だろうなと考えている。今後の方向性に関してはまだ色々関係者(株主である産業革新機構をはじめ、銀行あるいは公官庁方面)に説明してゆく必要があるが、その際に横軸に分野とアプリ、縦軸にコア技術をいくつか並べた図を作っている。その上で、これを大きく2つに分けて、既存で持っているコア技術、今後必要となるが、持ち合わせてない技術と分けている。

ここで持ち合わせが無い部分は、コラボレーションするか買うかしないといけない。あるいはすでに持ち合わせている技術についても、たとえば今回のDevconではセキュリティと盛んに申し上げたが、これも大きくは2つある。それはデバイス内のセキュリティと、IoTを含んで色々なものをつなげる、デバイスを跨ったところのセキュリティ。ユーザーサイドからすると、モノとモノがつながるセキュリティはだれが担保するかは非常に大事になる。

話を元に戻すと、そんな訳で持ち合わせてはいるが、まだまだこれからなものは、やはり誰かと手を組まないといけない。マイコンのコンピューティング部分は一応自前でやっていこうと考えている。というわけで、コア技術の中で、既存の技術で磨きをかけていくところと、自ら磨きを掛けるにはやや心もとないところ、それと(外部から)購入しないといけない部分。そうしたものを、いつごろにどの程度の金額をかけて、という戦略マップがあり、現在はそこのところで議論をしている段階である」とした。

その時期についても「時期は3つに分かれており、可及的速やかにというものと、1~2年の範囲のもの。それともう少しゆっくりでもいいかな、というものに分かれている。あと、コラボレーションにしてもM&Aにしても、当然自分たちが強くなりたいがために行うわけだが、当然顧客の存在を考える必要がある。顧客が歓迎するコラボレーションやM&Aと、嫌うものがあり、どちらを選ぶべきか。一般に顧客としては、選択肢が広い方が良い訳で、もし世界中のマイコンベンダが統合したら顧客は嫌がると思う。なので逆に言えば、成功するM&Aはというものは、顧客が嫌がるものかもしれない、と。まぁそんな事を社内で色々ディスカッションしている段階である」と説明した。

ちなみに必要とされる技術の数はどの程度なのか? という質問には「すごい数がある。ただしタイミングとお金が限られているので、プライオリティをつけないといけない。それは、最終的に競争力として、どれくらい強くなれるか。最近だと、競合が大きな買収をやっておりますので、正直心中はおだやかではない。さりとてバタバタ買収しても、これは惨めなことになるわけで」とした。

また買収を行う場合の原資は、産業革新機構からのものになるのか? という問いに対しては「そこにもそれほど拘っていない。どういう分野に使うかに関しては、2012年の12月に発表しており、そこから大きく逸脱した分野に使う予定は無い。後は使い方になるが、これは良い悪いの問題ではなく、フロー的な使い方とストック的な使い方がある。第三者割増の様な、外部から注入されたお金については、本来ストック的なところに使うべきだと思っている。で、売り上げから粗利を経て利益をだし、ここから充てるR&D費用はフロー的なものでも構わない、と。ただ、余りそこに拘るとと、使い方を間違えることになるが、だからといってフローだけで使い切ってしまうのもちょっとまずい、と。で、IPを買うとか、絶対必要不可欠な設備投資をするとかもストック的な使い方になるかと考えている」と説明した。

これに関係して、人員削減の影響でR&Dに必要な人員できない可能性は? という問いには「可能性はあるかもしれないが、これに関してはかなりおおざっぱに考えている。というのは、R&Dに必要なお金はともかく、スキルはどうするか、という話。例えばソフトウェアに関して言えば、国内では人員が居ないとする。ではインドでやろうとなったときに、そこで必要なマネジメント能力がルネサスにあるのか、という話ではないかと思う」と答えた。

次に、長期的なマーケット展望として、足元は利益率の高いマーケットに専念するとして、長期的には途上国などの低価格が求められるマーケットに参入する可能性はあるのか? と問われ、「社内では4大マーケットと呼んでいるが、中国は現在世界で一番人口が多く、その中でも中長期的に伸びると見ている。例えばエアコンでいえば、モーションコントロールを含めたインバータ系が色々あるが、こうしたマーケットはやるべきだと私は考えている。ただし値段は厳しい。ではどうするか? というと、矛盾しているかもしれないが、『自分たちの意志でやらないのは良いけど、逃げた結果としてやらないのはあかん』というのが自分の考え。

物の値段がどんどん上がる事はなくて、基本的に下がって行くので、下げることはチャレンジであって、そこから逃げるのはアカンと思う。ただそれと、何でもかんでも安売りというのは天と地ほどの差があるわけで。過去、ルネサスはVolume Gameを追いすぎたと私は思う。なので、粗利の高いものと言っても、なんでも高くできる訳ではない。ビジネスを追っていく以上、市場の成長率とボリュームの大きいところは避けたくないが、その一方自殺行為もしたくない。

例えば汎用マイコンを例に取ると、私の持論はCommon、Module、Option。で、100のうち70位がCommonで、20位がModuleで、Optionが10。ところがルネサスは真面目だから、100% Optionにしてしまっていた。なので、横展開も利かない。一方、競争相手を分析すると、同じ商品を複数のお客さんに出しておられる。他社にできることであればルネサスもできると思う。他社が100円で売って利益が出せているのに、なぜルネサスがやると大赤字になるのか。それは人件費が高いとかそんな話ではない。人件費が高いなら、人件費が安いところでやれば良い訳だから。そうではなく、やり方が高くなる方法をとってるためかもしれない、と考えている」と述べた。

ただし標準化が進むとVolume Gameになってしまうのでは? との問いには「それはアプリケーションによりけり。億を越えるようなものと、100万のオーダーのものと、極端に言うと10個のものでは、ビジネスのやり方がまったく変わってくる。10個はまぁオーバーだが、例えば胃カメラは年間の製造される数は知れている。しかし非常に重要。そうしたものの作り方としては、Minimal Fabとかもある。なので、そもそも自分たちは何をするかを決めないといけない。私自身は、ルネサスの特性としては億を超えるビジネスはあまり得意ではなく、何百万個単位で付加価値の高いものを提供していく、差異化が効くところがいいのではないかと考えている。そもそも億を越える規模の分野での差異化は難しいと思う。もちろんその辺は具体的なアプリケーションによって変わってくる訳だが」とした。

ところでルネサスといえばトヨタ自動車との関係は切っても切れないものがあるのだが、それについては「トヨタから我々半導体業界に対して掛けられている大きなプレッシャーは標準化。ただそうなると、標準化した部分は各社共通になるので、では何で差異化してゆくか。差異化しにくいところは標準でいい、と各社考えている訳で。その意味ではConnectivityが勝負だと私は考えている。Common、Module、Optionと言っても、要するに1つの半導体の中でやってゆくわけだから、如何にCommonとModuleが簡単にConnectできるか、あるいはModuleとOptionも。そのあたりの技術が大事ではないかなと思っている」と答えた。