考察
ということで正味40分程の内容をお届けしたのだが、どのように感じられただろうか? 筆者はインタビューをしながら、作田会長と日本航空前会長の稲盛和夫氏がかなりダブって感じられた。
もともと作田会長はオムロンの代表取締役会長まで勤めた方である。オムロンのポジションというのもある意味ルネサスと近いものがあり、最終製品というよりは製品のコンポーネントをメーカーに納めるという、言ってみれば本来は弱い立場にある企業である。そこで収益を確実に上げてゆくためには、もちろん技術力とかも必要だが、それ以外にもリーダーとして強い意志を持って社内を引っ張る力や、顧客との交渉力も必要になる。思うに、これまでのルネサスに欠けていたのはその顧客との交渉力では無かったのか、という気がしてならない。実際作田会長の話はごく真っ当というか、常識的な話でしかない。粗利の45%という目標も、半導体業界としては普通というか、もう少し高くてもいいくらいである。
つまり常識的な事が出来ていなかったのがこれまでのルネサスという事であり、したがって作田会長は自身の使命を「おかしくなった会社を普通に戻す」事と考えておられるように思う。これを立て直すには、とりあえず出費を抑え、必要なら人員削減もやりつつ、これと平行しておかしかった事を是正する事である。このあたりの動きが、筆者には日本航空の再生と完全にダブって感じられた。表面からは窺い知れないが、EOLに伴う交渉がほとんど終わっているというのは、おそらくこれまでのルネサスの経営陣の交渉力では絶対に実現できないことだったからこそ、ずるずると赤字を積み重ねていた訳で、正直これは驚いた。つまりこれはトヨタに対して、赤字になるような製品をほぼ全部EOLにすることを飲ませた、という意味になるからだ。
ただしこの結果として、ルネサスとトヨタの距離は今後次第に開いてゆく事になるだろう。実は敢えて前回の記事では触れなかったのだが、「ルネサスが目指す自動車の未来の姿」というオープニングムービーで使われている車がAudiのもの、というのは非常に象徴的に思える。
すると、短期的には利幅の薄い(or損失が出る)製品がどんどん減るから財務状態は急速に改善する。産業革新機構は5~7年程度で出資を回収するという話だったから、早ければ2017年には保有する株を売却することになるが、それまでに株価を元の水準に戻すのは難しくないだろう。その反面、もっと長期的に今度は何でビジネスをするか、という問題が出てくる。そのあたりが今回DevConを開催した最大の理由になるわけだが、その辺はこのDevConの仕掛け役に改めて話を伺う予定なのでお楽しみに。
話を戻すと、そんな訳で作田会長と、おそらくは柴田CFOも任期は遅くても2017年位までを考えているのではないかと思う。順調に立て直しが終われば、2017年を待たずに退任する可能性もあるし、逆にそこまでに「おかしな会社」だったルネサスを「普通の会社」に戻せなければルネサスに未来はない。そしてその先はこれまでとは異なるビジネスでルネサスを牽引してゆく必要があり、そこには新しいリーダーが必要になると思われる。実際インタビューの最後の言葉は、そういう風に作田会長が考えているように筆者には思える。このあたりも、実質2年で再生を終わって日本航空会長職を離れた稲盛氏と同じ経緯になるのではないかと思われる。