【上】2014年5月の経営方針説明会において構造改革への姿勢を打ち出す平井社長 【下】ソニーがIFA 2014で発表した最上位スマホ「Xperia Z3」

ソニーが、モバイル・コミュニケーションにおいて、打ち出す新たな中期経営計画は、11月までに公表されることになるが、その基本的な考え方を平井社長は、次のように説明する。

「従来のモバイル・コミュニケーション分野の中期経営計画は、売上高の大幅な拡大を目指し、将来的に大きな収益をあげることを目標としていた。だが、今回策定する新たな中期計画は、事業リスクや収益変動性を低下させ、より安定的に収益計上が見込めるように戦略変更を行ったものだ」

施策の柱は、地域展開と商品戦略の2つとなる。

「地域展開では高い収益性が期待できる国や地域に経営資源を投下し、競合環境の観点から、収益性や成長性が乏しい一部の国や地域の戦略を見直す。また、商品戦略ではソニーの技術を詰め込み、高い付加価値が提供できる商品ラインアップに集中するとともに、競争環境の激化により採算性の厳しい普及価格帯モデルを絞り込むことで収益性の改善を図る」とする。

地域展開では、中国スマホメーカーの躍進などにより競争環境が激化。とくに新興国での戦略を大きく見直すことになりそうだ。そして、商品戦略では、新興国向けなどを中心に展開してきた普及価格モデルの見直しが軸となるが、「付加価値モデルについても、一部、製品戦略を見直していくことになる」と語る。ここでは年2回の製品投入サイクルの見直しなども含まれるようだが、ソニーが得意とする付加価値モデルも、商品戦略見直しにおいては、例外ではないということだ。

「商品ラインアップの考え方、固定費や人件費、マーケティング戦略、そして地域展開をどうするかといったことを、もう一度新たな視点で考えた。ビジネスをゼロから見直した」というのが、新たな長期経営計画の基本姿勢だ。

崩れつつある「コア3事業」の一角

全社の通期見通しの大幅な下方修正、そして上場後初の無配にまで及んだモバイル・コミュニケーション事業の低迷は、数字のインパクトだけに留まらず、平井社長がソニーの成長戦略の柱とする「3コア事業」の一角が崩れたという点でも、社内外への負の影響は大きいと言わざるを得ない。

ソニーの平井社長は、これまでの経営方針説明のなかで、プレイステーション4をはじとめする「ゲーム」、デジタルカメラを軸とした「イメージング」とともに、スマートフォンによる「モバイル」を3つのコア事業として、ソニー復活に向けた重要な柱に位置付けてきた。その一角が目論見通りの事業成長を描けなかったということは、平井社長が描くソニー復活への成長戦略が、根底から覆ることを意味するともいえる。

平井社長は、「中国スマホメーカーの躍進などにより、普及価格帯の製品の売れ行きが当社の見通しとは大きく違ってしまったのが原因」とした上で、「スマホ市場は、わずか半年や四半期で状況が大きく変化する。市場が動くなかで、ソニーもリアルタイムに変化していかないと戦えないし、置いていかれる。それにも関わらず、ここをいじらないということはない。すべてを見直した」と語る。

だが、イメージング、ゲームとともに、モバイルを「コア3事業」と位置付ける方針には変化がないという。

平井社長は、「イメージング、ゲームと並んで重要な事業であるという認識は変わらない。スマホ市場は20数%の市場成長をみせており、年間13億台の市場規模がある。さらに、長期的な視点で考えれば、スマホ事業に取り組みながら、ポストスマホといえる新たなモバイル・コミュニケーション機器が登場した際には、ソニーとしての資産を活用し、打って出るようにしたい。その土台を作る上でも重要である」と位置付けた。

ソニー 代表執行役EVP CFOの吉田憲一郎氏

また、ソニー 代表執行役 EVP兼CFOの吉田憲一郎氏は、「デジカメやゲームといった使い方が、スマホに流れている。それを考えれば、モバイル・コミュニケーションは、ソニーの特徴が生かすことができ、正面から取り組む事業である」と語る。

平井社長も、「私は社長に就任して以降、コンパクトカメラやハンディカムで培ってきた技術を、積極的にスマホに入れていくことに力を注いできた。撮影や撮像の機能では、ピカイチのスマホを作ることを目指してきた。結果として、コンパクトカメラのサイバーショットを買ってもらえないかもしれないが、その時にXperiaを購入してもらえば、ソニーファミリーのなかでお客様をキープできることができる。これは、ほかのカメラメーカーにはないソニーの強みである」と自信をみせていた。

営業利益4,000億円への見えない道筋

9月上旬に独ベルリンで開催されたIFA 2014では、プレイステーション4のリモートプレイを、Xperia限定のサービスを提供することを発表した。「これは、キャリアにXperiaを採用してもらうきっかけになり、キャリアがユーザーに訴求するという点でも大きなポイントになる」とし、当面、Xperiaでしか利用ができないオンリーワンの機能にする考えだ。付加価値戦略においては、ソニーらしさを発揮できる土壌は確かに進んでいるだろう。となると、普及価格帯の製品戦略の見直しが中心になることはうなずける。

しかしその一方で、新興国ビジネスでの失敗をカバーする施策が見当たらないのも確かだ。今回も基本姿勢のなかでは、新興国での事業縮小を感じさせる発言としており、成長市場での戦略は、体制を立て直すための後ろ向きのものとなりそうだ。普及製品の見直しというのも新興国ビジネスの縮小を予感させる。

もともとソニーは新興国でビジネスを成功させた経験がない。テレビ事業の失速や、VAIO事業の売却も新興国ビジネスでの失敗が影響している。スマホ事業でもその繰り返しにあえいでいるというわけだ。

ソニーが本当の意味での成長を目指すには、新興国市場における成長は不可避だ。だが、今はそれを避けた形で復活を目指すことを優先することになる。

「ソニーは、厳しい経営状況にあり、今年度は大規模な構造改革を実施しているが、収益力強化に向けた取り組みには手を緩めることなく実施していく。なんとしてでも構造改革をやりきる1年であることに変わりはない。その一方で、社内では改革に向けた動きが加速しており、驚きと感動をもたらす新たなソニーの実現を確信している」と、平井社長は意気込むが、このメッセージから感じられるのは、やはり先進国向けビジネスでの成長戦略だ。

2015年度には、営業利益4,000億円の達成を目標に掲げ、「力強いソニーの復活の取り組みとして、この数字は変えることなくビジネスを組んでいく」と語るが、これを先進国ビジネスだけで達成できるのかどうかは未知数だ。モバイル・コミュニケーション事業における新興国ビジネスへの展開がどこまで含まれるのかが気になる。

いずれにしろ、今のソニーの状況をみると、3コア事業の一角が足を引っ張る片肺飛行の状態であるのは確か。そして、成長市場である新興国における事業展開を避けているようにもみえる。

ソニー復活に向けたシナリオの「ピース」が、次々と欠け落ちているように見えて仕方がない。