電気通信サービス向上推進協議会は7月8日、「電気通信サービスの広告表示に関する自主基準及びガイドライン」の改訂版を公表した。同ガイドラインは、通信サービスの広告表示が、消費者にとってわかりやすいものとなるように策定された自主基準とガイドライン。今回の改訂では、携帯電話やスマートフォンのネットワークエリアの人口カバー率に関して、今後は統一基準で算出を行うことが定められた。

人口カバー率の算出方法が統一化

キャリア各社はこれまで、それぞれ独自の方式で"人口カバー率"を算出し、公表してきた。しかし、各社で基準が異なるため、人口カバー率の数値を比較するのは難しく、消費者にとってはわかりづらい状況が続いていた。

同ガイドライン改訂版では、人口カバー率の算出方法について、総務省が作成した「広帯域移動無線アクセスシステムの高度化のための特定基地局の開設計画の認定申請マニュアル(平成25年5月)」に記載されているメッシュ方式の算出方法を新基準として用いることが定められた。メッシュ方式は、全国を500m四方の区画(メッシュ)に分け、人口カバー率を算出するという方法だ。

KDDIとソフトバンクでは、算出方法に若干の違いはあるものの、以前よりメッシュ方式で人口カバー率を計算してきた。一方、NTTドコモでは、各市区町村の役場や支所の所在地における通信の可否で、その市区町村がカバーされているかどうかを判断し、人口カバー率を算出するという方法を採用していた。

各社広報に新基準の人口カバー率を聞いてみた

メッシュ方式の新基準が定められたことで、今後はキャリア各社の人口カバー率を同じ基準で比較できるようになることが期待される。また、キャリアによっては、算出方法の変更により、これまで公表していた数値から人口カバー率が大幅にずれるケースも考えられる。とりわけ、従来の市区町村方式からメッシュ方式に変更となるドコモの場合、影響は大きいと思われる。

そこで、ドコモ、KDDI、ソフトバンク各社の広報担当者に、LTEネットワークに関する従来の算出方法による人口カバー率と、新基準による人口カバー率をそれぞれ聞いてみた。

各社の広報担当者の回答まとめ

まず、ドコモでは、従来の算出方法による人口カバー率について「現在は公表していない」とのこと。また、新基準の人口カバー率については「まだ算出が完了していないため、公表は控える」とのことだった。ただし、今後は「ガイドラインに則り、適切に対応していく」とコメントしていた。

一方、KDDIによれば、従来の算出方法による同社LTEの人口カバー率は「800MHz帯で99%」であり、新基準による人口カバー率でも「変わらず99%になる」とのことだった。同社では今後、新基準で算定された人口カバー率を公表していくとのこと。

また、ソフトバンクでは、現在は「(今回のガイドラインの対象である)広告表示に関しては、人口カバー率を使用していない」とのことで、従来の算出方法および新基準の人口カバー率のどちらも「非公開」だとしている。(以前は人口カバー率を公表しており、2013年6月末時点のカバー率を92%と公表していた)なお、「今後は、ガイドラインに則って、(人口カバー率を)出していく」とのことだが、公表の予定は未定だとしている。

また、人口カバー率の統一基準が導入されることで、ユーザーにはどのような影響があるのだろうか。マイナビニュースで携帯関連の記事を数多く執筆している、ITライターの近藤謙太郎氏に話を聞いた。

まず、統一基準のユーザーへの影響について、近藤氏は「3キャリアとも、首都圏においてはLTE基地局の整備が終わりつつあります。したがって、さほど大きな混乱はないでしょう。しかし地方には、まだ基地局の設置が終わっていない地域があります。そうした地域に在住のユーザーは、今回の新基準の導入で、より利用実態に則したデータが参照できるようになります」と解説。

さらに、「これまで、キャリアは"基地局数"や"接続率"などを公示して、対応エリアの広さをアピールしてきました。しかし、基地局はキャリアによって設置の考え方が異なります。規模も影響範囲もまちまちの基地局を一概に"ひとつの基地局"としてカウントすることには無理があるのです。つまり『基地局数=対応エリアの広さ』とは言い切れない。また接続率は、同じ場所でも調査方法やタイミングによって結果が異なります。キャリアに都合の良い時間帯のデータだけを公表することも可能なわけです」と近藤氏。

「そう考えると"人口カバー率の新基準"は、各社のネットワークの広さを公平に比較できる、唯一の指標になり得ます。生活圏内がどの程度カバーされているのか、気になるユーザーにとっては、キャリアを選ぶ際の有効な判断材料になることでしょう」と近藤氏は指摘し、人口カバー率の新基準への期待を語った。

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今回、人口カバー率の算出に関して新基準が定められたものの、現在のところ、新基準による人口カバー率を算出、公表しているのはKDDIの1社のみとなった。同社では、昨年度末に800MHz帯LTEの人口カバー率99%を達成したことを発表しているが、新基準でも人口カバー率は変わらず99%になるとのことで、全国の幅広いエリアで同社のLTEが使えることが証明された形だ。

一方、ドコモとソフトバンクでは、従来の算出方法による数値とあわせて、新基準の人口カバー率を非公開としている。しかし、せっかく基準が統一され、各社のネットワークの広さを公平に比較できるようになっても、1社の人口カバー率しか分からなければ、比較のしようがなく、消費者のメリットは薄れてしまう。新基準の人口カバー率をはじめとして、キャリア各社には、消費者にとって分かりやすい、適切な情報の提供を望みたいところだ。