討議と課題

iTunes Uのコースにはディスカッションを行うための機能が用意されている。日本語では「討議」という少し固い言葉が当てられているが、コースごとに用意された掲示板のようなスタイルで、講師や受講している学生がトピックを作り、参加している人たちが書き込みながら議論することができる仕組みだ。

討議の機能ではディスカッションのトピックを立てることができる

講義全体に対しての質問や議論を追加するだけでなく、講義の概要でアウトラインを作った場合は、アウトラインに紐付ける形で投稿したり、課題を追加することができる。授業の進行に合わせて、話題を切り替えながら議論を進めることが可能だ。

課題の概要と提出期限、関連する教材を指定することができ、課題が設定されるとその課題に対しての討議を行うことができる仕組みだ。議論の掲示板が各回や課題ごとに切り分けられている点で、投稿したり議論の流れを追いかける場合に非常にわかりやすい構成だ。

アウトラインのトピックに対して課題を設定しているところ。課題内容を決めてリンクを飛ばしたり、メールアドレスを記載するなどして課題の提出を行ってもらうことができる

慣れた人も、初めての人もわかりやすい

まず、筆者は2008年から通常の大学で講義を持った経験があり、現在は米国からでも授業が担当できるオンライン大学で授業を年間4つ持っている。年数はまだまだ浅いが、大学の講義を作ったことがある「経験者」だ。こうした視点からiTunes Uでコースを作ってみると、必要なものは全て存在している、というのが感想だ。

通常の大学の講義を作り際には、まず授業タイトルを決めて、講義での学びで達成すべき目標を設定する。大学では13~15回の90分の授業で2単位を取得できるため、目標が達成できるよう15回の授業のテーマを組み立てる。そして、各回の内容をスライドにまとめ、課題を作り、授業に臨む。

少人数の授業の場合は、より長い時間をディスカッションに割くことができるが、100人以上の規模の授業の場合、筆者は授業中にTwitterで質問に対して、もしくは随時フィードバックをもらい、そのタイムラインを見ながら授業を進めていた。

オンライン大学の場合は、スライドだけでなく、あらかじめ講義をビデオで収録して、それを視聴してもらいながら掲示板での議論を進めていくことになる。

実際の教室向けの授業準備、オンライン授業の準備の両方を経験した感想から考えると、まさに授業の設計と準備のワークフローをそのまま実現できているツールになっている。アウトラインを決めてそこに合わせてコンテンツを作っていく様子や、課題の設定が可能な点は、初めて授業を作る人にとっても、すぐに大学の講義に立てるような準備を行うことができるだろう。

また、オンライン大学ではシステムのインフラとして用意していたディスカッションレイヤーが、コースそのものに付随するようになった点もわかりやすい。1つの授業に1つの議論ではなく、毎回の授業や課題に対して議論が紐付く点で、論点がきれいに整理され、効率的な討議が可能になる。

もちろん、授業の中身や、その講師のファシリテーション能力など、「良い授業」になるかどうかは別の要素がまだまだたくさんある。しかし、コースデザインやそのツール、インフラという「授業を作る権利」という面では、iTunes Uアプリによって、万人に開放されたといっても過言ではないだろう。

松村太郎(まつむらたろう)
ジャーナリスト・著者。米国カリフォルニア州バークレー在住。インターネット、雑誌等でモバイルを中心に、テクノロジーとワーク・ライフスタイルの関係性を追求している。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、ビジネス・ブレークスルー大学講師、コードアカデミー高等学校スーパーバイザー・副校長。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura