ソーシャルラーニングの実現

過去の議論には非常に価値がある、と筆者は考えている。他の学習者の質問が自分の疑問と重なっている場合、その解決が既になされているからだ。また、自分が気づいていなかった課題を、他の人の投稿から気づくこともできる。

こうした他者からの学びは、活発に議論が行われる教室内で起きていることと同じであるが、同じタイミングで授業に参加している人だけでなく、過去に学んだ人の議論をふりかえりは、教室内の授業では起きえないことだった。もちろん、大学の授業でiTunes Uを使っていれば、過去の同じ授業を受けた生徒の議論を参照して、教室内外での学びに生かすことはできるだろう。

各コースにはディスカッションが行えるコミュニティが用意されており、各回の講義や教材に関しての議論や質問などができる。過去の質問を閲覧することも、学びの助けとなる

他者と学ぶ際の学習効果は、筆者が翻訳に携わった書籍「ソーシャルラーニング」(日経BP刊)でも触れている。

「ソーシャル」といってもFacebookやTwitterといったソーシャルメディアを使うわけではない。ソーシャルラーニングが指すのは、赤ちゃんが親を真似て行為や言葉を会得するように、講師という役割に限らず他者から学びをお互いに得合うことを指す。あるいは、慶應義塾を創設した福沢諭吉の「半学半教」という言葉も近いかもしれない。

実際の教室の中でのコミュニケーションとは違う価値を、デバイスを活用した学びにもたらすことができている、というのがiTunes Uアプリの印象だ。学ぶ人の視点でアプリを見てきたが、このアプリにはもう一つの顔、教える人の視点からの機能も搭載されている。この新しい側面は、iPadを利用する教育現場での声を強く反映し、また教育の世界を大きく変える可能性を秘めている。(続く)

松村太郎(まつむらたろう)
ジャーナリスト・著者。米国カリフォルニア州バークレー在住。インターネット、雑誌等でモバイルを中心に、テクノロジーとワーク・ライフスタイルの関係性を追求している。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、ビジネス・ブレークスルー大学講師、コードアカデミー高等学校スーパーバイザー・副校長。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura