ITシステムのライフサイクルを考えるにあたって、近年のトレンドとなっているキーワードに「仮想化」や「クラウド」がある。

ハードウェアの価格性能比向上を背景に、ひとつの物理サーバ上に複数のシステムを集約することを可能にした「仮想化」の技術や、物理的なサーバハードウェアを自社で購入せず、必要なITリソースを必要な分だけネットワーク経由で調達できる「クラウド」といったサービス形態の普及は、企業システム構築の選択肢を増やし、今後のIT投資を最適化していくために不可欠な要素のひとつとなっている。

データライブ 代表取締役社長 山田和人氏

こうしたトレンドの中、インハウスで運用していた複数のサーバによるシステムを仮想化インフラ上に集約したり、一部をクラウド上に展開する企業も増えているようだ。その動向に合わせるように、メーカーの保守サポート期限が終了したシステムを安全に「延伸稼働」するための、サードパーティによるサービスにも注目が集まっている。

仮想化やクラウドへのシフトと「延伸稼働」の関係、そして「延伸稼働」を考慮に入れてITシステムのライフサイクルを検討することのメリットについて、EOSL(End of Service Life)サーバ保守サポートサービスを提供しているデータライブの社長である山田和人氏に話を聞いた。

「クラウド」や「仮想化」へのブリッジとなる「延伸稼働」

――リユースサーバやリユース部品を用いて、メーカーの保守サポート期限が終了したシステムの「延伸稼働」を図るEOSL/EOLサーバ保守サポートサービスの活用範囲が広がっているとのことですが、具体的にはどのようなケースで利用されるのでしょうか。

このサービスの現在の利用ニーズは大きく2つ挙げられると思います。ひとつ目は、メーカーの保守期間が終わってしまったけれど、新たなシステムへの移行が行えないシステムの延伸。もうひとつは、仮想化環境やクラウドを含む新環境への移行を視野に入れつつ、その計画の中でメーカー保守がない期間も稼働し続ける必要があるシステムに対する保障としての導入です。

前者は、ITライフサイクルにおける最終的な延命措置と言えます。近年では、仮想化環境への集約やクラウド移行がトレンドになっていますが、世の中には、そうした環境に簡単には移行できないシステムというのが多くあります。

例えば、ファクトリ系のシステムなどがそうです。センサや工作機器などと密接に関連したシステムの中には、インタフェースやドライバなどとの関係で、システムとハードウェアを容易に切り離せないものも多いのです。かといって、システム全体を刷新するコストもかけられない場合、将来的な刷新を視野に入れつつ、できる限り長い期間、既存の環境を動かし続けたいというニーズがあります。

また、一般的なシステムでも、新たな環境への「移行リスク」を検討した結果、延伸稼働が選ばれるケースもあります。例えば、複数のシステムが複雑に連携している場合などは、アプリケーションだけでなく、様々なハードウェアやミドルウェアの組み合わせについても検証しなければならず、移行計画にも膨大な手間がかかります。そのためのコストとリスクを考慮した結果、システムは将来的に作り直すことにして、既存の環境をできる限り延伸稼働させたほうがコストメリットが高いと判断されるケースもありますね。

――後者の「仮想化」や「クラウド移行」を視野に入れた延伸というのは、どのようなケースでしょうか。

中堅中小規模企業はもとより、大企業においては特に、ITライフサイクルの検討にあたって仮想化環境やクラウドへの移行は「大前提」と言っていい状況になっています。

仮想化環境への移行にあたっては、1つの物理サーバの中に、現在別々のサーバ上で稼働しているシステムを集約する計画を立てることが多いのですが、具体的な仮想化基盤の準備が整うタイミングと、そこに集約したいと考えているすべてのシステムのEOSLのタイミングがうまくそろうかというと、そうはいかないケースがほとんどです。

仮想化を進めていくにあたっては、新たな基盤の準備と、既存の基盤の移動、データの移行、さらに業務の移動など、さまざまなタイミングを検討し、何か問題があった場合の切り戻しなども考慮しておく必要があります。そのため、仮想化基盤上でのスタートラインを合わせつつ、すべての移行プロセスが完了するまでの、メーカーサポートの空白期間を埋める「ブリッジ」として延伸稼働を行うケースが増えています。クラウド移行についても「ユーザーによる新業務への移動期間」について、同じことが言えますね。

「延伸稼働」がIT投資を最適化する積極的な選択肢に

――ITライフサイクルに対する考え方の変化に合わせて、ユーザーにとってさまざまな場面でEOSLサポートの利用価値が出てきているようですね。

現在、メーカーの保守期限が切れているのは、世の中にインハウスのサーバが一番普及していたころのシステムで、管理者にとってもすべての状況を把握して、移行なり、廃棄なりといった管理をするのが難しい状況にあるのではないかと思います。「気がついたら、EOSLになっていた」という状況で、慌ててサポートを依頼されるケースも多いです。

EOSLサポートサービスというのは、ユーザーにとって、自社の計画に合わせて選べる選択肢がひとつ増えたというイメージだと思います。かつてのような「PCやサーバの保守はメーカーのものに限る」といった考え方は、少しずつ変わってきているようです。

SI業者やベンダーは、基本的に「新品」の部材がなくなるまでしか、ユーザーの保守ニーズに応えることができません。われわれは、リースアップ済みのものを再利用する形で、必要なパーツをそろえられます。

また、独立系のメリットを生かし、マルチベンダー、異機種混合のシステムにおいても、全体の保守を請け負うことができますし、調達のためのノウハウも蓄積しています。特定のベンダーに特化して、同様のサービスを提供している業者は他にもありますが、Sun、HP、DELL、富士通、NECといった複数のベンダーの製品について対応できるところは多くないでしょう。

さらに、ベンダーの純正品だけでなく、互換品を使った保守が可能な点も、より長期にわたってサポートが提供できる点で強みだと思います。データライブでは、自社のラボで非常に多くの製品の組み合わせについて、互換性検証を繰り返してきた蓄積があります。お客様からは、よくEOSLのシステムについて「今から3年もたせたい」といった相談を受けるのですが、3年、5年、10年といったタイムスパンで、お客様のIT投資の最適化を支援できるよう、調達能力を高めるだけでなく、技術とノウハウの蓄積も進めています。

――今後、EOSLサポートサービスによる「延伸稼働」は、ユーザーにどのように使われていくと考えていますか。

企業では、現在のさまざまな事業計画やIT投資の計画が、過去10年の低成長時代を前提としたものに切り替わっているかと思います。ただ、ようやく景気向上の気配も見えてきました。今後、設備投資も積極的になっていくだろうと思いますが、その中でIT関連の業務に携わる人々にも、例えば「今後10年」といったスパンで、長期にわたって意味のある投資計画というものが求められるようになってくるでしょう。

システムの「延伸稼働」は、そうした計画の遂行を強力にサポートできるものだと考えています。人口の減少によって縮小する市場の中でも、利益を上げるビジネス構造を作っていくために、必要な部分に対して、適正な投資を行うことが、これまで以上に重要になってきます。情報システムの担当者も、そうした前提に基づくシステムへの投資計画を立てることが当たり前のように求められるはずです。

既に大規模なシステムにおいては、構築前の段階から「延伸」を前提にした計画が行われるケースが増えています。ぜひ、延伸を消極的な「延命手段」と捉えずに、投資を最適化するための積極的な選択肢として、システムのライフサイクルの一部に組み込むことを検討してほしいと思います。

近年、ビジネスの「継続可能性」が、経営上の大きなトピックになっています。私たちのミッションは「システム保守」の立場から「継続可能性」を追求することです。「今動いているシステムを、あと3年動かし続けたい」というニーズだけでなく、「これから入れるシステムを5年、10年使いたい」という計画であっても、その実現を確実にサポートできるパートナーでありたいと思っています。