単純に台数を2倍して3000万台、Verizon Wirelessの契約回線数が約1億であることを考えれば、振れ幅はあるにしても全ユーザーの2~3割程度はiPhone契約者ということになる。逆に、これだけiPhoneを販売してもまだコミッションは達成できていないということだ。実数はもう少し少ないと思われるが、もしMoffett氏の推測が本当であるならば、このコミッションの水準は異常なレベルだと筆者は考える。

筆者は仕事柄世界各地に取材に出向いて街の様子を見聞きし、同業者やキャリア関係者、ショップ店員に会えば、製品トレンドについての話を聞く。これでわかるのは、iPhoneユーザーの比率が際立って高いのは米国と日本だけで、欧州やアジアなどではあまりiPhoneは一般的ではなく、使っていたとしても最新モデルではない安価な旧モデルといった具合だ。Appleでは地域ごとの具体的なiPhone販売台数は公表していないが、その多くが米国内での販売に依存していることは随所でうかがえる。

Gartnerの報告によれば、2012年第4四半期(10~12月期)のAppleの端末販売台数は4346万台となっているが、同時期のAT&TのiPhoneアクティベーション数が860万、Verizon Wirelessが620万であり、米国大手2社だけで約1500万台となっている。おそらくはその他のキャリアと個別チャネル合わせて1700万~1800万程度の台数が米国だけであるとみられ、実に米国シェアは3.5~4割程度に達することになる。米国ほどではないものの、3分の1程度の市場規模の日本でもそれに準ずる水準のシェアはあると考えられるため、おそらくは日米2国だけでiPhone世界シェアの5~6割は占めていると筆者は予測する。

ここでコミッションに話を戻すと、仮に日米の携帯キャリアでの販売台数を想定して相応の規模のコミッションが他国のキャリアにかけられたとすると、おそらくはほとんどの国のキャリアでコミッション未達が発生する事態に陥るとみられる。そのため、コミッションは地域特性をみて細かく調整され、ある程度無理のない範囲に設定されていると考えるのが自然だろう。

一方で、日米のような比較的優良市場においてはコミッションの水準も高く、さらにキャリアの規模や後発かの判断において、かなり厳しいものになると考える。以上を踏まえると、まだiPhone取り扱いキャリアではないNTTドコモのような例では、「総販売台数の2~3割」程度では済まないコミッションが提示されている可能性が高いとみられる。販売キャリアとしては最後発であり、さらに市場占有シェアは約5割、Verizon Wirelessの4割未満と比較しても高い。Verizon Wireless以上の厳しい条件だと考えられる。

以上を考えると、NTTドコモのようなキャリアがiPhone販売を拒むというのもよく理解できる。世界最大手の携帯キャリアである中国移動通信(China Mobile)がiPhoneの取り扱いを開始するかどうかがよく話題になっているが、事情の異なる中国ではコミッションというよりも、ロシアでも問題となっていたプロモーション関連や法規制、取り扱いに関する約束事など、水面下でネゴシエーションすべき多数の問題で苦戦していると予測する。