先日、全米最大手携帯キャリアのVerizon Wirelessに今年中に消化しなければならないiPhone販売残高140億ドルが存在する可能性をレポートとして紹介した。これはAppleと携帯キャリアの間で密かに結ばれているiPhone販売に関する「コミッション」の存在によるものだ。同様に、販売ノルマが理由でロシアの3大キャリアがAppleとのiPhone販売契約の更新を止め、iPhone販売の空白地帯が発生したという話もある。これがどのようにAppleのiPhone販売戦略に影響を与えるのか、その意味を紐解いてみる。
iPhoneと販売コミッション
以前のレポートにもあるように、公然の秘密ではあるものの、Appleは携帯キャリアらと販売契約を結ぶ際に「販売コミッション」と呼ばれるものを設定することが知られている。一種の販売ノルマに相当するもので、会社の規模やマーケットに応じて「○年で○億ドル」といったiPhoneの販売金額を携帯キャリアごとに設定するもので、もしこれを達成できない場合のペナルティとして残り金額分の端末買い取りや以後の契約更新終了などが行われるとされている。ケースバイケースではあるが、過去のレポート等を参照する限り、3年単位での契約が多く、大規模キャリアや潜在販売可能端末台数が多い市場ほど高いノルマが設定される傾向があるようだ。また今回のVerizon Wirelessでのレポートを見る限り、単純に市場シェアで金額が設定されるだけでなく、契約が早いキャリアほどノルマが低く(この場合はAT&T)、後発キャリアほど条件が不利になるとみられる。同レポートを発表したアナリストのCraig Moffett氏によれば、実際にVerizon WirelessではAT&Tの2倍近いノルマが設定されているようだ。
iPhoneが強力な商材であることは(特に米国において)疑う余地もなく、実際業界2位だったAT&TはiPhoneの独占販売権を獲得することで当時トップだったVerizon Wirelessを追い抜き、一時期トップに踊り出ている。こうした動きに警戒し、AT&Tの独占販売契約が切れると同時にライバルらは次々とiPhone販売へと参入し、最終的に全米上位6キャリアがすべてiPhone取り扱いを開始するまでとなった。一方で、前述のように本来の販売能力を超えてコミッションを結んだことで、ノルマ未達が噂されるキャリアが少なからずある。その1つがVerizon Wirelessであり、もう1つがAT&Tによって買収されたLeap Wirelessだ。Verizonではまだその兆候は出ていないものの、ソフトバンクが買収した全米3位のSprint NextelやLeap Wirelessでは、ここ最近になりiPhone本体や関連料金プランを引き下げる施策を相次いで出しており、コミッション達成のために奔走している姿がうかがえる。同様に、日本でも秋ごろの次期iPhone発表を前にiPhone 5優遇販売を行っている後発キャリアが登場するなど、コミッションの影響を考えずにはいられないケースがみられる。
こうしたなか、出てきたのがロシアでの大手3大携帯キャリアによるiPhone販売終了のニュースだ。同件を報じたFortuneによれば、MTS、VimpelCom、MegaFonと3社の合計シェアだけで8割超を占めるロシアにおいて、3キャリアすべてが7月初旬のタイミングでiPhone販売を終了したという。理由の1つは販売不振とそれによるノルマ負担で、最終的にAppleとの契約を更新しないことを決めたようだ。販売不振の理由はいくつかあるが、Fortuneのレポートの中でPhilip Elmer-Dewitt氏によって指摘されているのは次の3点だ。
- 販売推奨金を上乗せした割引販売がロシアでは行えない
- 輸入端末にかかる税金の高さ。例えば米国でアンロック版iPhoneの販売価格が649ドルなのに対し、ロシアでは918ドルとなっている
- Appleが過大な販売推奨金提供や同社指定のプロモーションを要求した
このように、ロシアでのビジネスはAppleが他国でiPhoneを販売しているのと同じスタイルを持ち込むのに若干不利な条件が揃っていることがうかがえる。代わりにこれらキャリアではAndroid端末としてのSamsung GalaxyやWindows Phone端末を中心に商材として扱っていくという。
iPhone販売の今後と地域特性
ここからは筆者の推測を交えた考察だ。実際のところ、筆者はAppleが設定する「コミッション」という条件に引っかかりを覚えている。前述のCraig Moffett氏のVerizon Wirelessに関するレポートによれば、同社は2013年前半だけで90億ドル近いiPhone販売を達成しており、仮に1台平均を600ドルとして1500万台を販売したことになる。