Windows 8.1 RTM(Release To Manufacturing version:製造工程版)版が今年8月にも完成し、OEMパートナーに提供を開始することを明らかにした「Worldwide Partner Conference 2013」も終了し、Windows Division(部門)の開発スタッフは忙しくしていることだろう。しかし、それ以上のビックニュースが、7月11日(現地時間)に発表したMicrosoftの組織再編である。

もともとMicrosoftは自由奔放な会社だったが、規模拡大に伴って官僚的と言われるようになっていた。その結果、部門間の競争は激しくなり、20世紀の同社に圧倒的なパワーを与えることとなったが、タブレットの台頭で低下しつつあるパーソナルコンピューター市場に対し、同社CEOであるSteve Ballmer(スティーブ・バルマー)氏は「デバイス&サービスカンパニー」という自社の方針転換を明言している。

そのデバイス&サービスカンパニーを実現するために同氏が断行したのが、今回の組織再編なのだろう。今週はBallmer氏が同社社員に送った電子メールがプレスリリースとして公開されたので、その情報を元にMicrosoftが行く先を愚考する。

Microsoftが大規模な組織再編を実行

7月11日(現地時間)、Microsoftは大規模な組織再編を行うことをプレスリリースで発表した。同社の最高経営責任者(CEO)であるSteve Ballmer(スティーブ・バルマー)氏から社員向けの内部電子メールとして発せられ、件名には「One Microsoft」とつけられたと言う。まずは内容を要約して紹介しよう。

Ballmer氏は「コンピューターを取り巻く環境が急速に変化することを踏まえ、効率性と機能性を備えた革新を可能にするため」に大規模な組織再編を行うことを決めた、と文中で語り、先頃から繰り返されている"デバイス&サービスカンパニー"を実現するため、「WindowsやXboxといった枠組みをなくし、戦略をシャープに進める一環としてCollaborate(共同作業)を選択した」と述べている(図01)。

図01 Build 2013でキースピーチを行ったSteve Ballmer氏

Ballmer氏は新たなキーワードとして「One Strategy, One Microsoft(一つの戦略、一つのマイクロソフト )」を掲げている。これまでのMicrosoftはWindows部門、Office部門など製品ごとにプレジデントやバイスプレジデントを定め、独立した経営を行っているのは同社が発表している決算表からも明らかだ。しかし、各部署で似たソフトウェアを開発するなどリソースの消費を避けるため、各部署の共同作業を可能にする"シングルコア戦略"を選択すると言う。

この組織再編に伴い同社は、従来のWindows部門などは基本的に解体し、新たなグループを立ち上げた。その中でもエンドユーザーである我々が注目すべきは"Engineering"という単語を含む四つのグループである。

図02 「Operating Systems Engineering Group」を率いるTerry Myerson氏

「Operating Systems Engineering Group」は、文字どおりOSの開発を担当するグループ。Windows OSやXboxのコアOS、バックエンドシステムに加えて、コアクラウドサービスについても範囲に含まれる。このグループを担当するのは、先頃までWindows Phone担当コーポレートバイスプレジデントを勤めていたTerry Myerson(テリー・マイヤーソン)氏。Myerson氏は自身が創業した会社がMicrosoftに買収されたのを機に入社し、以前はExchangeチームの統率も担当していた(図02)。

「Devices and Studios Engineering Group」は、Microsoftが目指す"デバイス&サービスカンパニー"の一翼を担うハードウェアデバイスの開発や、そのデバイス上で楽しむゲームや音楽といったエンターテインメントを開発するためのスタジオを担当するグループである。担当するのは本レポートでもおなじみのJulie Larson-Green(ジュリー・ラーソングリーン)氏。Windows担当コーポレートバイスプレジデントとして、Windows OSに関する責任者として活躍してきた(図03)。

図03 「Devices and Studios Engineering Group」を率いるJulie Larson-Green氏

もともとLarson-Green氏は開発ツールおよび言語担当のプログラムマネージャーを勤め、その後Windowsチームに移籍。Internet Explorer 3.0や同4.0時代のUX(User Experience:ユーザーエクスペリエンス)担当責任者を担当したと言う。また同氏は、2007 Microsoft Office SystemのUI(ユーザーインターフェース)設計も統括。功罪併せ持つリボンを当時のSteven Sinofsky(スティーブン・シノフスキー)氏の下で導入したことでも有名だ。蛇足かつ筆者の推測に過ぎないが、Sinofsky退社した理由の一つに今回の組織再編があったのではないだろうか。

図04 「Applications and Services Engineering Group」を率いるQi Lu氏

「Applications and Services Engineering Group」は、コミュニケーションや検索など情報カテゴリを対象とするサービスや、幅広いアプリケーションのコアテクノロジーを担当するグループ。同グループを担当するのは、オンライン サービス担当プレジデントだったQi Lu(チー・リュー)氏。IBMのアルマデン研究センターやカーネギーメロン大学、中国の復旦大学や検索・広告技術担当のエグゼクティブバイスプレジデントを経てMicrosoftに入社している(図04)。








図05 「Cloud and Enterprise Engineering Group」を率いるSatya Nadella氏

そして"デバイス&サービスカンパニー"を目指す同社に取って、もう一方の一翼となる「Cloud and Enterprise Engineering Group」は、クラウドやエンタープライズに類するデータセンターやデータベースといったクラウド基盤を担うグループントであるSatya Nadella(サトヤ・ナデラ)氏が担当する。

1992年入社の同氏は、Serverグループの技術関連業務のリーダーや、DynamicsのERP製品やC。こちらは元サーバー&ツールビジネス担当プレジデRM製品の開発とマーケティングを担当し、Bingに代表されるオンラインサービス部門のR&D担当シニアバイスプレジデントなどを歴任。同氏の幅広い経験は今後のIT産業に直結するクラウド技術を担う同グループにマッチしているだろう(図05)。

この他にも同社の業務用アプリケーションであるMicrosoft Dynamicsを管轄する「Dynamics Group」、研究開発を行う「Advanced Strategy and Research Group」、「Marketing Group」「Business Development and Evangelism Group」など全部で12のグループに分割される。

Ballmer氏は電子メールの結びとして、「我々は信じられないほどの新しいチャンスに直面している。さらなる成功を収めるため、日常生活に浸透するデバイスでコンシューマーの新しい経験を生み出し、アプリケーションやクラウドサービスを開発して、当社の製品と統合するため開発者のサポートを目指す」と述べている。一つの戦略=シングルコア戦略によって、Microsoftは"OSの時代"から脱却し、次世代のIT産業でも名を残すことができるのか。今後の同社が選択する戦略を注視したい。