孫正義社長

ソフトバンクの孫正義社長は4月30日の決算会見で、米Sprint Nextel買収に関する説明会を開催した。Sprintは同社のほか、衛星放送の米Dish Networkが買収に名乗りを上げているが、孫社長は7月1日の買収完了に向けて自信を見せ、「ソフトバンクの提案の方が優れている」とアピールした。

ソフトバンクでは孫社長が頻繁に米国に渡り、Sprint経営陣と買収について協議を続けてきている。孫社長によれば、米国防総省や米FCCなどの規制当局との協議も順調に進んでおり、買収完了は7月になる見込みだという。それに対して、急遽Sprint買収に登場したのがDishだ。Dishは1株当たり7ドルの買収提案を行っており、ソフトバンクの6.22ドルに対して優位である点をアピールしている。そうしたDishの提案に対して孫社長は、1つずつ反論を行っていく。

ソフトバンクの1株当たり6.22ドルという数字は、Dishが主張したものであり、「この数字は間違っている。違う側面からの比較で、正しい条件で比較すべき」と孫社長。ソフトバンクの計算では、1株当たりの価値は7.65ドルであり、Dishは6.31ドルになる、と指摘。これは、買収後のシナジー効果などを加味した数字だという。

11項目にも及ぶ「ソフトバンクの優位性」

ソフトバンクの優位性は、これだけではない。Dishでは買収時期を2014年中盤としているが、ソフトバンクは13年7月。さらにレバレッジは5.9倍に対して3倍、資金は未調達のDishに対して全額調達済み、モバイル業界に豊富な経験のあるソフトバンクに対してDishはモバイル事業の経験がないといった点。このほか、Sprintとソフトバンクという2カ国で事業ができるスケールメリットやノウハウの共有といったシナジー効果があり、周波数帯域も十分に確保できているなど11の側面から優位点を挙げている。

すでにソフトバンクは80億ドルの増資を実施することを発表しており、2012年10月に31億ドルの転換社債を投入。残る49億ドルは7月に増資する予定だ。

ソフトバンクは、1株当たりの価値を6.38ドルとして発表しているが、これは「シナジー前」と強調する孫社長。それに対してDishは7ドルの提案だが、「誤解を招きかねない」(孫社長)という。この7ドルに対し、新株発行による希薄化、負債増加、違約金などの要素を加えていく。さらに、Dishの買収は2014年中盤で、ソフトバンクよりも1年の遅れが生じ、資金調達も1年遅れることになる。Sprintは競争力確保のため、遅れていたネットワークの構築を推進しているところだが、資金調達が遅れると、その分構築も遅れることになり、競争力の低下などが生じると孫社長。これらの株式価値の減少を考えると、結果として6.05ドル程度になるとしている。

これが同等の条件で比較した場合の数字と孫社長は指摘。ソフトバンクの6.38ドルに対して、Dishの方が低いとしている。さらにシナジー効果を加えると、この差がさらに広がる。Dishは110億ドル相当のコストシナジーが生じると主張しているが、孫社長は両社を統合するために業界平均で26億ドル相当が必要になるが、それが織り込まれていないと指摘。それを盛り込み、シナジー効果は0.75ドルと判断している。さらに、Dishが持つ携帯電波は2GHz帯で、それをSprintが利用するためには60億ドルの設備投資が必要だとしており、これは0.47ドルの押し下げ要因になり、現在価値への割引0.03ドルの減少を加えると1株当たりの価値はシナジー効果を加えても6.31ドルに過ぎないという。

Dish提案の1株当たりの価値。実際は6.05ドルになる

シナジー効果を加えても6.31ドルにしかならない

ソフトバンクの提案では、資本注入に加え、「この業界ではスケールメリットが重要で、Sprintは世界規模のスケールメリットが得られる」(孫社長)という。端末や設備機器などの調達などでスケールメリットが得られるため、1.27ドルの押し上げ要因となるとのことだ。