通信4団体によって構成される電気通信サービス向上推進協議会は4月16日、「電気通信サービスの広告表示に関する自主基準及びガイドライン」の改訂を公表した。同ガイドラインは、消費者向けの通信サービスの広告に関して、通信団体が自ら具体的な指針をまとめたもので、2004年に制定され、随時改訂が行われている。

今回の改訂では、通信各社が展開する広告において、通信速度や人口カバー率をわかりやすく記載するよう促す注意点が追加された。これは、通信各社の高速通信サービスが出揃って以降、広告における通信速度などが消費者に誤認を与える恐れがあるとしばしば指摘されていることから追加されたものと考えられている。

確かに通信各社が展開する広告は、消費者にとってわかりづらい部分が多く、時には誤解を招いたり、インターネット上で論議を巻き起こすことがある。最近では、ソフトバンクが打ち出している広告の「接続率No.1」「つながりやすさNo.1」といった表現が論議を呼んでいる。本稿では、このソフトバンクの広告を例に通信サービスの広告表示について考えていきたい。

「つながりやすさ」の広告に感じる疑問

ソフトバンクは3月21日、同社の携帯電話ネットワークに関する説明会を開催し、孫正義社長が同社が"接続率"で1位になったことをアピールした。それに前後して、「接続率No.1」「つながりやすさNo.1」といった表現を使ったTVCMをはじめとする広告展開が行われている。"接続率"という用語は、これまで携帯電話ではあまり使われてきておらず、具体的に何を指すのかそれだけではわかりづらい。そこで、同社がCMなどで取り上げている"通話接続率"、"パケット接続率"の、その調査手法や広告表示について詳しく見ていこう。

まず、通話接続率については、2012年7月から2013年3月まで調査されたものであり、主要3キャリアの携帯電話に音声通話をかけ、通話が成功した回数を発信回数で割ったものとなっている。調査手法については特に疑問の余地はないが、CMなどで見かける通話接続率の推移のグラフがスマートフォンのみの結果であることには注意が必要だ。

調査を行ったイプソスのWebサイトで詳細な結果を確認することができるが、通話接続率の調査結果はスマートフォン、従来型携帯電話、iPhone 5という3カテゴリに分かれている。CMを見るだけではすべてのカテゴリでソフトバンクの通話接続率が1位となったと認識する可能性があるが、従来型携帯電話の通話接続率における最終順位はドコモが1位、ソフトバンクとKDDIが同数で2位となっている。

また、従来型携帯電話の通話接続率の推移を見ると、興味深い結果となっているのがわかる。ソフトバンクは通話接続率が向上したことに関して、とりわけ「プラチナバンド」が広がったことを強調しているが、プラチナバンドに対応した従来型携帯電話はわずか5機種と少ない。そのため、通話接続率の向上がプラチナバンドの広がりによるものだとすれば、従来型携帯電話の推移にはあまり影響しないと考えられるが、開始時点97.9%から終了時点98.4%とスマートフォンと同様に向上した結果となっている。通話接続率が向上した理由として、プラチナバンドを取り上げるのは確かにわかりやすいかもしれないが、実態と異なる理由で説明するのは、果たして適切といえるのだろうか。

あわせて、通話接続率の推移を表すグラフの見せ方についても、若干の疑問が残る。CMなどで紹介されているグラフでは、スマートフォンの通話接続率がかなり向上しているように感じられるが、実際には開始時点97.4%から終了時点98.4%と、わずか1%しか変化していない。グラフをよく見ると、1%の目盛り幅が縦軸の約半分がとなっており、かなり狭い範囲を拡大表示しているのがわかる。わずか1%の変化を示したグラフであることを知り、驚きを感じるのは筆者だけではないだろう。

パケット接続率の調査手法とは?

続いて、パケット接続率についても見ていこう。パケット接続率の調査結果は、スマートフォンの特定アプリから取得したログデータにもとづいて集計されたものだ。「防災速報」「ラーメンチェッカー」という2つのアプリが用いられているが、ソフトバンクのWebサイトによれば、これらのアプリは一定間隔でパケット通信試験を行うようになっており、そのパケット通信の成功率をパケット接続率として定義しているという。

パケット通信試験を行う仕組みをアプリに導入し、そのアプリを配布することでパケット接続率を調査するというのは前例がないが、主要3キャリアのスマートフォンによるパケット通信のサンプルを一定数集めるために、このような調査手法を用いていると推測される。しかし、なぜ調査にこれらのアプリが選ばれ、使われているのかという点では疑問が残る。なお、調査のためのログデータの取得はユーザーに無断で行われているわけではなく、アプリの初回起動時にユーザーから情報提供に対して同意を得たうえでログデータを取得している。しかし、アプリの本来の機能とは異なるパケット通信試験の仕組みを導入し、ログデータを取得しているかたちとなっている。また、ユーザーからの同意を得る際に、データの取得目的が正しく伝わっているのかという疑問もある。3キャリアのパケット接続率を比較調査することが、当該アプリのユーザーにとってどのようなメリットとなるのかは不明だ。

消費者にも情報を吟味する姿勢が求められる

ソフトバンクがCMなどで取り上げている"通話接続率"、"パケット接続率"について、調査方法を含めて詳しく内容を確認してみた。「接続率No.1」「つながりやすさNo.1」といったアピールや、CMで紹介されるグラフを目にすると、ソフトバンクの電波が飛躍的に改善し、中立な調査によって他社を追い抜いたような印象を与える。しかし、調査の内容や結果を詳しく見てみると、調査手法やグラフの見せ方などにはやや強引さも見え、消費者の誤認を招きかねないといえる。

電気通信サービスの広告表示に関する自主基準及びガイドラインのように、広告について通信団体が自らまとめた指針は存在するものの、実際には誤認などの問題が起きてからでないと、これらのガイドラインは改訂されないというのが実際のところだ。そのため、消費者自身にも、広告や各種調査、ニュースなど、さまざまな情報を吟味し、正しく理解する姿勢が重要となってくるだろう。