DDR3L/DDR3U/DDR3L-RS

こちらもDDR3に1866/2133MHzが追加されたのと同じタイミングで、「速度は上げなくてもいいから、消費電力を落とした規格がほしい」ということで追加されたのがDDR3Lである。DDRの電圧はDDR(2.5V)→DDR2(1.8V)→DDR3(1.5V)→DDR4(1.2V)と、世代が進化する毎に供給電圧を下げており、実際Mobile向けとか大規模Server向けの場合、帯域は増やさなくてもいいから消費電力を下げたいというのがむしろ世代進化の主要な要因になっていた。ところがDDR4世代の投入が予定より遅れたため、DDR3のままで省電力化を進めたい、という話が出てきた。これにあわせて、まず2010年7月にJESD-79-3 Addendum No.1という形でDDR3L-800~DDR3L-1600の規格が標準化され、2011年10月にはJESD-79-3 Addendum No.2として、DDR3U-800~DDR3U-1600の規格が追加された。

DDR3Lは供給電圧を1.35Vに、DDR3Uは1.25Vにそれぞれ下げた規格である。実のところDDR3Lに関しては既に量産が開始されており、店頭で普通に売っているというほどでは無いが、Amazonでは普通に購入できる状態になっているから、入手性は十分に良い。店頭売りしない理由は、これに対応するプラットフォームがまだ少ない、というのが正直なところ。とはいえ、Ivy BridgeベースのCore iシリーズとかTrinityベースのAPUは既にDDR3Lに対応しているため、省電力構成が必要なユーザーには好まれている。このDDR3Lは、標準のDDR3同様2015年にDDR4が登場するまでは普通に利用されてゆくだろう。もっと言えば、標準DDR3は2014年以降はDDR3-1866以上がメインになり、DDR3-1600以下はDDR3Lに置き換えられてゆく可能性もある。

更に省電力を狙ったのがDDR3Uであるが、こちらはTrinityベースのAPUは既に対応しているものの、モジュールの流通はまだとなっている。流石に1.25Vで安定して動作させるとなると、30nm~2xnm世代のDRAMではかなり厳しいようで、本命は(DDR3-2133と同じく)DDR4と同じ1xnm世代のDRAMチップを、速度を抑えて1.25V動作させるということになるようだ。試作チップは20nmあたりで既に登場しているが、量産モジュールが出てくるのは今年前半のかなり終わり頃、もしくは今年後半となりそうだ。これはHaswellベースのMobile向けをターゲットにしたものとなるだろう。で、量産開始時期が遅れた分、こちらは意外に長く続きそうだ。特に現在期待されているのは、Mobile向けではなくServer向けである。AtomとかBobcat、あるいは64bit ARMコアなどをベースとした、いわゆるMicroserver向け製品が2013年末~2014年に掛けて登場するが、これらは稼動コストの低減も重要な課題であり、このため省電力性を重視する必要がある。なのでDDR3Uは丁度手頃なソリューションである。ただこうしたMicroserverは、Desktop/Mobile向けよりも若干機器更新の間隔が長くなる。これもあって、2015年一杯は普通に供給され、2016年前半あたりでフェードアウトしてゆくものと見られている。

DDR3Uの量産にもう少し時間が掛かる、ということでそれまでの繋ぎとして流通が始まりつつあるのがDDR3L-RSである。RSはReduced Standbyの略で、DRAMのSelf Refreshの消費電力を抑えたものである。どんな仕組みかという話であるが、実際にはTCSR(Temperature-compensated self refresh)という技法を使う。日本語にすると「温度補償式自己リフレッシュ」となるが、これだと判りにくい。

元々DRAMにはSelf Refresh(DRAMコントローラから何も指示をしなくても、定期的にDRAM自体がRefresh動作を掛けることでDRAMの内容を保持する)という機能があり、これはDDR3やDDR3Lでもちゃんと規格化されている。このSelf Refresh、正確にはASR(Auto Self-Refresh)という機能であるが、これが有効になっていると一定間隔でDRAMのRefreshが行われる。この間隔は0℃~85℃の間で一定であるが(これを超える温度の場合、Extened Temparature Rangeというオプション扱いの間隔でのRefreshが行われる)、TCSRではDRAMの温度が45℃以下の場合、このRefreshの間隔を2倍にする(つまりRefreshの頻度を半分にする)という仕組みである。DRAMは、温度が高くなるほど早くデータが揮発しやすくなるので、逆に言えば温度が低く保てていれば揮発しにくくなる。そこで、DRAMの温度を見て、45℃以下に抑えられていれば、Refreshを間引いても問題がない、という方法だ。これを実装することで、例えばMicronの4Gb DDR3Lの場合はIDD6(Refresh動作時の消費電流)がRS無しだと22mAなのに対し、RS付きだと5.8~6mAに抑えられるとしている。1枚のDIMMには最低8つのDDR3チップが搭載されているから、DIMM1枚あたりの消費電力はただのDDR3Lが240mW弱なのに対し、DDR3L-RSのものだと64mW程度に抑えられる計算だ。

このRS規格はJEDECの標準化は行われていない、いわばメーカー独自の実装であるが、既にSK HynixとMicronは量産を開始している。標準化をしていない分、本来は無い筈のDDR3L-1866なんていう不思議なSpeed Gradeの製品も登場しているが、まぁこれは許容範囲であろう。このRSのメリットは、とにかくメモリコントローラ側に変更が一切いらない(DRAMチップ自身で勝手に省電力化する)という点で、なので既存のDDR3L対応プラットフォームは、DIMMを挿すだけでDDR3-RSのメリットを享受できる。ただRSは稼動時の消費電力は一切削減できないので、この点ではDDR3Uの方がメリットが大きい。現在はUltrabookなど向けのSO-DIMMモジュールとして提供が始まっているが、ただDDR3Uが出てきたら消えてゆくものと思われる。

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