富山大学は、ヤマノイモ、ナガイモ(漢方では生薬の「山薬」として使われている)に豊富に含まれている成分の「ジオスゲニン」に、アルツハイマー病改善作用があることと、その作用機序を明らかにしたと発表した。

成果は、富山大 和漢医薬学総合研究所の東田千尋准教授、同梅嵜雅人准教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、7月26日付けで英オンライン科学ジャーナル「Scientific Reports」に掲載された。

現在、アルツハイマー病患者に臨床で使用されている薬剤では、認知機能の改善には至らない。アルツハイマー病の原因であるタンパク質「βアミロイド」を減少させる作用を期待したさまざまな新薬候補が研究されているが、これらによっても認知機能は思ったように回復しないという報告が散見されている。

研究グループは、変性して機能不全になっている脳内の「神経軸索」に対し、形態的・機能的な改善を与えることができれば記憶能力は回復すると考え、そのような活性を有する薬物の探索研究を進めてきた。

軸索の萎縮・変性を改善させられる優れた活性を示す薬物を同定してその作用機序を探ることで、アルツハイマー病の病態解析からでは予想できないような、「治療に関与する分子」を新たに見出すことができるという考えのもと、研究を進めてきたのである。

今回の研究では、アルツハイマー病のモデル動物を用い、ジオスゲニン投与により記憶障害が顕著に改善され、アルツハイマー病の脳内の典型的な病変であるβアミロイドの増加や「過剰リン酸化タウ」を抑えられることを明らかにした。

アルツハイマー病のモデル動物の脳内では、神経細胞の情報伝達を担っている軸索や「前シナプス」が変性しているが、ジオスゲニン投与によりそれらが改善されることも判明している。

続いて、このジオスゲニンの作用をもたらす機序を探るために、神経細胞内のジオスゲニンの直接のターゲット分子の検討もなされた。その結果、生理活性ビタミンの1種である「ジヒドロキシビタミンD3」が作用する受容体として知られている「1,25D3-MARRS」を介して、ジオスゲニンは軸索の変性を改善させていることが見出されたのである。

この受容体の神経細胞での生理的役割や神経変性疾患での関与はこれまで不明だったが、今回の研究により、アルツハイマー病の記憶改善につながる新たなシグナル経路を活性化させる分子としての可能性が提示された。

今回の研究で、ジオスゲニンの活性とその予想外の作用点を解明した点は、まさに治療に関与する分子を新たに提示した成果といえ、ジオスゲニンやジオスゲニン含有生薬の記憶改善への有効性を示唆するだけでなく、新しい認知症治療薬開発の大きな手掛かりになることが期待されると、研究グループはコメントしている。