新しいWindows 8が成功するためには、OSとしての基本性能を高めなければならない。これまでも多くの改善ポイントを紹介してきた同OSの公式ブログ「Building Windows 8」では、Windows 8におけるメディアプラットフォームとしての改善点を明らかにした。

その内容は興味深く、映像および音声の遅延を改善するための措置や、そこから得られたユーザーエクスペリエンスの改善を披露している。また、別の記事では「メール」と「Peeple」に関する解説が行われた。いずれもWindows 8を軸にしたコミュニケーションツールとして注目を集めるMetroアプリケーションだ。今週もMicrosoftの各公式ブログに掲載された記事を元に、Windows 8に関する最新動向をお送りする。

メディアプラットフォームとして強化したWindows 8

コンピューター上で音楽や映像を楽しむ方は多い。それだけにWindows 8におけるDVDビデオ再生用コーデックの標準搭載が見送られた件が話題になったのだが、Windows 8におけるメディアプラットフォーム機能は強化されている、とメディアプラットフォーム&テクノロジーチームのScott Manchester(スコット・マンチェスター)氏はブログ記事で述べている(図01)。

図01 メディアプラットフォーム&テクノロジーチームのScott Manchester氏

Windows 8のメディアプラットフォーム環境を構築するにあたり、同社は三つのゴールを掲げた。一つめは"パフォーマンスの最大化"。二つめは"シンプルな開発と拡張性"。そして三つめは"シナリオの幅広さ"だ。図02は720pのVC1/H.264ビデオファイルと、Webカメラによるキャプチャプレビューの再生負荷をグラフ化したものだが、Windows 7とWindows 8では三倍程度の開きが生じている(図02)。

図02 ビデオファイルの再生とWebカメラにおけるキャプチャプレビューの再生負荷を比較したもの。Windows 8は大きく低下している(公式ブログより)

この結果を導き出すために同社は、WebカメラによるキャプチャプレビューをDirectShow Capture APIから、より最適化されたWindows 8 Media Foundation Capture APIに変更。H.264やVC-1再生時に使用するソフトウェアエンコーダにも改良を加え、CPU負荷を大きく軽減している(図03~04)。

図03 VC-1形式の動画ファイル再生状態。Windows 7上のWindows Media Player使用した際のCPU負荷は30パーセント前後(公式ブログの動画より)

図04 同動画ファイルをWindows 8で再生した場合のCPU負荷は半分程度に収まっている。具体的なソフトウェア名は述べられていないが、Metroアプリケーションの「ビデオ」だろう(公式ブログより)

オーディオ系では再生中のバッテリ消費量を軽減するために、オーディオパイプラインの見直しを図った。ロジックはビデオ再生時の負荷軽減に似たものだが、音楽データの処理パターンを変更することで、CPUへの負荷を軽減。このようなシステムの見直しは、Windows Vista時代にも行われたのを記憶している読者も多いだろう。このほかにも一般的なビデオ形式や低遅延のコミュニケーションストリーム、外部メディアデバイスをサポートすることで、"パフォーマンスの最大化"という結果を打ち出すことができたという。

二つめの"シンプルな開発と拡張性"に関する改良として、コミュニケーションツールの存在が大きい。以前同社はP2P技術を用いたインターネット電話サービスであるSkype(Skype)を買収し、家庭などでのネットコミュニケーションを実現してきた。その一方で企業向けには、インスタントメッセージやVoIP(Voice over Internet Protocol:ボイップ)を用いたオンライン会議環境を実現できるMicrosoft Lyncを提供している。

同社が今後の映像コミュニケーションを重視しているのは明らかで、同記事でも米調査会社のTeleGeography Researchの発表を引用し、Skypeが使用するネットワークトラフィックが48%に増加し、145億分までに至ると推定している。

そのため同社はWindows 8に対し、低レイテンシ(データ転送のリクエストを発してから、結果が返送されるまでの遅延時間)なメディアキャプチャ機能と再生環境を実現すると同時に、HD(High Definition:高精細度)カメラをサポート。これらの改良により、映像コミュニケーションソフトウェア使用時の快適さを実現するという。詳しいロジックは割愛するが、米通信工業会(US Telecommunications Industry Association)の標準規格であるTIA/EIA-920が目標とする数値を上回る結果を引き出した(図05~07)。

図05 メディアキャプチャと再生環境の相関図。各パイプラインの改良により、わずかな遅延を改善している(公式ブログより)

図06 各解像度での実験結果。プレイバックモードは500msもの遅延が発生しているが、低レイテンシモードではTIA/EIA-920が目標として定めた145msを下回り、100ms前後となる(公式ブログより)

図07 低レイテンシモードの実験風景。動画で見ると遅延はまったく発生していない(公式ブログの動画より)

前述のとおり有料コーデック搭載を見直したWindows 8だが、気になるのはメディアファイルのサポート状況だ。この点もブログ記事で明らかにされており、Metroアプリケーションベースでは図08の形式がサポートされるという。例えばiPhone(iOS)上で録画したビデオファイルはQuickTime形式(MPEG-4 Part12として定義)だが、この現代的なQuickTimeはもちろん2K(2,048×1,080ピクセル)や4K(4,096×2,160ピクセル)といった解像度もサポートするそうだ。

DV形式がサポートから取り除かれたのは残念だが、時代の流れを踏まえると致し方ないだろう。ただしMPEG-1/2は事前情報どおり「Windows 8 Media Center Pack」「Windows 8 Pro Pack」が必要。太字で示されたH.264やAACはMetroアプリケーションの推奨形式である(図08)。

図08 Windows 8がサポートするメディアファイル形式(公式ブログより)

興味深いのはFLAC(Free Lossless Audio Code:フラック)やOggといったマイナー形式に言及している点だ。FLACはフリーの可逆圧縮音楽ファイル形式の一種で、私物の音楽CDをデータ化する際に用いる方も少なくない。Oggはフリーのマルチメディアコンテナ形式で、前述のFLACやVorbis(ボルビス、ボービス)といった音楽ファイル形式を内包するものだ。Windows 8では拡張性を高めるために、Metroアプリケーションに組み込めるという。このあたりに"シナリオの幅広さ"の意味が含まれているのだろう。

このほかにもユーザー操作に直結する改良が多く紹介されたので、いくつかピックアップして紹介しよう。一つめは撮影時の方向を動画ファイルから検知し、自動的に向きを変える機能。メタデータを一緒に記録するデバイスで撮影した場合、オリエンテーション(方向)メタデータを記録し、MPEG-4やVC-1、Windows Media Video形式の動画ファイルに対して同機能をサポート。このロジックは再生時だけでなくサムネイル画像にも適用される。ブログ記事では言及されていないが、Windows 8における動画ファイルは「ビデオ」に関連付けられるため、同機能はMetroアプリケーションに限られる可能性が高い。同機能がWindows Media Playerでもサポートされれば従来のデスクトップを使用するユーザーには朗報となるだろう(図09)。

図09 Windows 8では、スマートフォンなどで撮影した動画の向きが正しく修正される機能が追加される(公式ブログより)

二つめは「Play to」と称する機能。コンピューター上で表示している写真や動画をPlay to対応の追加ディスプレイ上でストリーミング再生するというものだ。Windows 7のWindows Media PlayerでもDLNAベースのリモート再生機能が備わっていたが、これのWindows 8版と捉えればわかりやすい。デバイスの検出はホームグループ経由で行われ、自動検出後に使用可能となる。もちろん全てのデバイスが対象ではなく、DLNA対応デバイスや2012年以降に更新されたXbox 360などが含まれるそうだ(図10)。

図10 「Play to」のデモシーン。タブレット型コンピューター上のWindows 8で表示している画像が、Xbox 360に接続したディスプレイに映し出されている(公式ブログの動画より)

最後はサムネイル画像の作成スピード向上とエンコードスピードの向上。メディアプラットフォームを見直すことで各機能の効率が改善されたようだ。約50ファイルもの動画ファイル(サイズは不明)を対象にしたサムネイル画像の作成スピードは、Windows 8が完了しているにもかかわらずWindows 7は23ファイルめで止まっている。

また、AVI形式ファイルからMPEG-4形式への変換スピードも、Windows 8が13秒程度で完了しているのに対し、Windows 7はその時点で20パーセントしか作業が完了していない。これらの改善はブログ記事の動画で示されているため、どのような変更が加わったのかは不明だ。UI(ユーザーインターフェース)面で疑問の残るWindows 8だが、これらの改善を踏まえると、移行に値するOSに仕上がっているのは事実のようだ(図11~12)

図11 動画サムネイルの作成スピードをWindows 7とWindows 8で比較するデモシーン。これを見る限り二倍程度のスピード向上が見込めそうだ(公式ブログの動画より)

図12 こちらは動画ファイルの変換デモシーン。ハードウェア環境などは明示されていないものの、Windows 7とWindows 8では五倍程度の開きがある