昨年に引き続き基調講演に登場したドコモの山田隆持社長

NTTドコモの山田隆持社長は、11月16~17日にかけて香港で開催された「Mobile Asia Congress 2011」の基調講演に登壇。「スマートフォン時代のサービスとネットワークの進化」と題し、同社の取り組みについて説明した。

山田社長は、まず、世界のスマートフォン販売数が2010年から15年にかけて3倍に伸びるとの予測を紹介し、日本でも3.5倍に伸びると説明。世界のブロードバンド人口は、10年に固定回線の契約者数をモバイル回線が追い抜き、14年には20億ユーザーに達し、それにともなってモバイルデータトラフィックも10年から15年の間に25倍に伸びるとの予測を示した。

世界と日本のスマートフォンの販売状況

ブロードバンド回線では、固定網と携帯網が2010年に逆転。そのモバイル回線のトラフィックは急増している

その結果、各キャリアとも全体のARPUに占めるデータの割合が増加しており、ドコモの場合、iモードスタート後の2000年には10%強だったデータ通信が、11年第2四半期には54.1%に達した。米国ベライゾン、韓国KT、欧州ボーダフォンも順調にデータARPUの割合を伸ばしているが、「日本は特に顕著」と山田社長は強調する。

ドコモはデータARPUの割合が5割を超えたが、世界の各キャリアもデータARPUが増加し続けている

ドコモでは、10年第4四半期に音声ARPUとデータARPUの収入が逆転し、その傾向は続いているが、山田社長は「モバイルによる収益のパラドックス」に陥っていると指摘する。これは、音声の時代にはトラフィックよりも収益の方が大きな割合だったが、データの時代になり、収益は伸び続けているものの、それを上回るトラフィック量が発生し、「ホッケースティック曲線」を描いているというものだ。

音声ARPUの収入をデータARPUが追い抜いたのが10年第4四半期。この傾向は今後も続いていくと見ている

トラフィックと収益のバランスが崩れていることが課題

このトラフィックと収益のアンバランスを解消することが「携帯事業者のチャレンジだ」と山田社長は説明する。このチャレンジに対するドコモのアプローチとして、「スマートフォンサービスを通じた安定した収益の確立」「ネットワーク効率の改善による対策」という2点を挙げる。スマートフォンサービスでは、認証・課金システム、2台目需要の獲得という方策を、ネットワーク改善では、周波数利用効率のいいLTE、新しい利用料金という方策を、それぞれ紹介した。

ドコモは最新のスマートフォンラインナップで、LTE対応の4機種など、メインOSとしてAndroidを採用したバラエティに富んだ製品群を用意している。こうした端末に対して、従来のフィーチャーフォン向けに提供していたiモード、iチャネル、iコンシェルといたサービスをスマートフォン向けにも展開。おサイフケータイ、ワンセグなどもスマートフォン対応させてきた。そうした中、新たに認証・課金システムとしてdメニュー、dマーケットをスタート。iモードの認証・課金スキーマをスマートフォン向けに提供するもので、「ドコモにとって、スマートフォンビジネスにおける新たなチャレンジ」だと山田社長は話す。

さらにドコモIDというシングルIDによるマルチデバイスでの利用、複数サービスをまとめられるアドレス帳、オンラインストレージ、Huluなど他社との協業によるサービスの拡充など、スマートフォン向けサービスの拡充をドコモとして強化していく。加えて、パーソナルクラウド、ビジネスクラウド、ネットワーククラウドという「3つのクラウド」戦略も推進。ネットワーククラウドは、ネットワーク側と端末側がコラボレーションして新たなサービスを提供するという考え方で、「通訳電話サービス」とiコンシェルを紹介。山田社長は、「インテリジェンスを持ったネットワークが重要ではないか」と話す。

3つのクラウドで新たなサービスを展開していく。端末だけでなく、ネットワーク側に処理を持たせることこそ提供できるサービスを目指す

このほか、「インテリジェンスが端末に集まってしまったが、それをもう一度ネットワークに取り戻すべき」として、端末側だけで何でもやるのではなく、ネットワーク越しにサービスを展開していくことが必要と続けた。LTEは低遅延であることから、そうしたネットワークサービスがやりやすくなるとの認識だ。

ネットワークのトラフィック急増では、ドコモ網では11年から15年までに12倍に増大するとみており、LTEの導入、トラフィックコントロール、データオフロードという技術的な対策に加え、新しい料金プランの導入も図る。料金プランでは、LTEサービスの「Xi」で7GB以上は追加料金を徴収するか通信速度を抑えるという方法を紹介した。

国内のトラフィック増加の傾向

対策の1つがLTE。高速、大容量、低遅延で、電波利用効率がいい

LTEは2010~12年にかけて3,300億円を投資。13~15年では5,500億円を投資する

15年にはスマートフォン加入者4,000万人に対し、LTE利用者は3,000万人を目指す

もう1つの対策である高利用者のトラフィックコントロール

データオフロードでは、自宅では固定回線につながった無線LANやフェムトセル、屋外では公衆無線LANサービスを利用してもらう

山田社長は、「モバイルの世界は(動きが)早いので、どう追いつくかの研究開発が必要で、考え方も変える必要がある」と強調。「パートナーシップも大事で、今はコンバージェンスの時代」と指摘する。

こうした山田社長の考え方やドコモの取り組みの紹介は目新しいものではないが、キャリアが単に回線を提供するだけでなく、サービスも提供することで成長を図っていく方策をアジアを中心とした来場者にアピールする形になっていた。

Mobile Asia Congress 2011の会場では、ドコモもブースを出展。ドライブネットをアピールするブース展開だった

ブースで説明を受ける山田社長

山田社長が説明を受けていたのは、初公開の運行管理システム。ドライバーが運行状況を1タッチで送信でき、それをオペレーター側が受け取り、現在のドライバーの状況をリアルタイムに確認できる

(提供:AndroWire編集部)

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KDDI田中社長が「Mobile Asia Congress 2011」基調講演 - 急増するトラフィック対策について説明 (2011年11月19日)
NTTドコモ
Mobile Asia Congress 2011