Appleがクラウドベースの音楽サービスを間もなく発表するのではないかという噂が急速に広まっている。先週末、米BloombergはAppleがEMI、ソニー、Warner Musicの音楽レーベル大手3社と音楽配信に関する新しいライセンスを締結したことを伝えており、4大レーベルの残りの1社であるUniversal Musicとも間もなく合意に達すると報じている。この新サービスの名称は「iCloud」と呼ばれ、6月上旬に米カリフォルニア州サンフランシスコで開催される同社開発者会議WWDCで正式発表されるのではとみられている。

2009年のLala買収以来噂されてきたクラウドサービス

これまでにもAppleがクラウドを使った音楽サービスを提供するという噂は何度か流れてきたが、2009年12月のLala買収と、2010年5月の同サービス閉鎖を経て、その噂はさらに現実味を増した。そして今回Bloombergなどが報じた大手音楽レーベルとの提携合意が事実ならば、発表が間近であることも予想される。ここへきて提携合意が一気に進んだ背景には、この新サービスの発表をWWDCに合わせるためにあるといわれるが、CNETの5月24日の報道では、すべての提携完了が間近だとみられる一方でいまだに流動的な部分があり、WWDC時点でのローンチには間に合わない可能性があるという指摘もされているなど、予断を許さない状況のようだ。その理由として、大手レコードレーベルの側にとって、提携から得られる金銭的メリットがそれほど大きくないことがあるという。

基本はクラウドの音楽データのストリーミング再生?

WWDCで発表されることになるとみられるAppleのクラウド音楽サービスだが、その概要についてこれまでに出ている情報を簡単に整理してみよう。まず「クラウド音楽サービス」とはなにか。これまでPCや携帯音楽プレイヤーなどのローカルストレージに置いていた音楽データをクラウドに置き、それらを適時必要なタイミングで呼び出してストリーミング形式で聴くというものだ。そのため、音楽を聴くためにはネットワーク接続が行える環境であることが前提となる。

ただ、これではネットワーク接続が不安定な場所や、接続が途切れる地下鉄や飛行機などでの移動中には使えないので、曲のある程度の長さを「バッファリング」という形で音楽プレイヤー内にストックしておき、通信環境に左右されない音楽再生を可能にする。同種のサービスはすでにGoogleやAmazon.comが提供しているほか、ラジオストリーミングという形式だがPandoraといったサービスもある。いずれにせよ、今回発表が予想されるものは「Something New」なサービスというわけではない。

iTunes Storeからのコンテンツ購入が鍵を握る

ただ、Appleのサービスは他社にないユニークな点を1つ備えることになる。それはiTunes連携と「楽曲購入ライセンスの有無」だ。GoogleやAmazon.comのサービスが、ユーザー自身の保有する楽曲をアップロードすることでストリーミング再生を可能にしていることからもわかるように、事業者は基本的にクラウドサービスにおける権利関係にはタッチしていない。だがAppleのサービスでは、iTunesの音楽ライブラリをストアを通じて拡充していくように、クラウドサービス内でストリーミング用の楽曲を購入し、それをクラウド内にストアすることが可能な仕組みを用意するとみられる。つまり、これまでローカルストレージにあったiTunesのライブラリがそのままクラウドに移動したような形だ。

このメリットは、数十GBから数百GBクラスの巨大音楽ライブラリを持つユーザーが、手元のストレージ容量を気にせず楽曲を保存できる点。また今後は映画やテレビ番組といった動画コンテンツも増えるとみられるので、そういったデータの保存にも効果を発揮する。

特許から垣間見えるサービスの姿は!?

Appleがこうした新サービスをどのように提供するかは、最近公開された特許から一部を垣間見ることが可能だ。Apple Insiderは5月19日、公開されたばかりのAppleの新特許について解説を行っている。登録自体は2009年に行われたもののようだが、同社がどのようにクラウド経由のストリーミングサービスを取り扱うかが見えて興味深い。

この特許にはiTunesのスクリーンショットのラフスケッチが掲載されているが、ここで注目したいのが「Automatically fill free space with songs」と「Sync partial music」という項目。本来、音楽のストリーミングサービスにおけるデータのダウンロードはバッファ的に扱われるもので、1曲全体のみ、あるいはこれから再生を行う数分先を先読みで読み込むといった程度だ。だがAppleの新サービスでは、バッファではなくPCや音楽プレイヤーの一定サイズの領域(例えば2-4GBなど)を一気に曲で埋め尽くし、クラウド上の巨大なライブラリの一部をジャンルごと、あるいはプレイリストごと引っこ抜いてきて保存するようなスタイルをとる。このメリットは、ネットワーク接続が長時間途切れる移動中での再生や、「Shuffle」などのランダム再生における頭出しで再バッファリングが発生しないという点にある。

イメージでいえば、このクラウドサービスは楽曲を預ける一種の「音楽ロッカー」であり、Lala時代に提供されてきた音楽ロッカーサービスをApple風にアレンジしたものだといえるかもしれない。

すべてが明らかになるのはWWDC初日の6月6日か

また同サービスの提供に向け、Appleがいろいろと水面下で下準備を進めてきたこともうかがえる。例えばiOSには「Media Stream」という謎の機能が包含されていることが指摘されており、今回の発表となんらかの形でリンクするのではないかと言われている。またAppleは最近になりメディアストリーム用の技術者募集を始めており、このサービスの強化に人員を割り当てるのではないかと噂されている。またAppleが米ノースカロライナ州に巨大データセンターを建設していることは知られているが、これとは別に同社の本社があるシリコンバレー内のデータセンターの強化を進めているという話も伝わっている

こういった状況があり、そしてWWDCでは開催初日にあたる6月6日に同社CEOのSteve Jobs氏による基調講演が予定されていることから、ここが発表の場になるのではないかと予想されているわけだ。新サービスの名称については、現在有力な説として伝えられているのが「iCloud」というもの。同社は現在「Mobile Me」をクラウドサービスの名称として利用し、件の音楽ロッカー的な領域としても利用している。だがAppleは最近になって「iCloud.com」というドメイン名をXcerionという企業から取得しており、Xcerionは旧iCloud.comサービスを「CloudMe」に再ブランディングしている。順当に考えれば、Mobile MeがiCloudとして再ブランディングされ、iTunesストリーミングを含むすべてのクラウドサービスの総合ブランドとして採用されると考えるのが適当だろう。いずれにせよ、6月6日の発表内容に期待したいところだ。