Intelの14nm Process

Intelは現在32nmプロセスでの生産を行いつつ、22nmプロセスの開発を進めているのはご存知の通りであるが、問題はその次である。Intelの場合、フルノードを採用するから、22nmの次は22÷√2≒15.6nmという計算になる。これを15nmと表現するか、16nmと表現するかは割と微妙なところで、例えば2009年のIDFでは15nmと表現しており(Photo15)、一方2009年2月のMark Bohr氏(Intel Senior Fellow)のプレゼンテーションを見ると16nmと表現されている(Photo16)が、これはまぁ切り上げるか切り捨てるかという話で、事実上同一のプロセスと考えて良いだろう。

Photo15:これはIDF Fall 2009におけるDavid Perlmutter氏の基調講演のスライドより。

Photo16:これは32nmプロセスのWestmereのリリースにあわせて行われたイベント向けのプレゼンテーションと記憶している。

問題は、このロードマップが今年2月にこっそり変わったことだ。2月21日付けのIntelのプレスリリース「インテル-コーポレーション-50-億ドル超を投資して米国アリゾナ州に製造施設を新設へ」でFab42の建設が発表されたが、このFab42は14nmプロセスで製造されることが明らかにされている。さて、この14nmというのはどっから出てきたのだ? という話である。筆者は、Intelはこの14nm世代でEUVの導入を決めたのではないか? と考えている。

もともとIntelは、少なくとも2010年まではP1272は15nmプロセスをArF液浸+マルチパターニングで行うつもりだった。2010年2月に開催されたLithoVision 2010において、IntelのYan Borodovsky氏(Sr. Fellow and Director of Advanced Lithography)は、15nmプロセスはもとより11nm(つまりP1274、もしくはP1874)でも193nm ArF光源+液浸+マルチパターニングで実現できるめどが立ったことを明らかにしている。もっとも11nm世代では、簡単なレイアウトですら5 mask/5 exposuresが必要とか説明しているので、どれだけ現実的かはやや不明であるのだが、少なくともP1272に関しては193nm ArF光源+液浸+マルチパターニングが確実そうだった。

もっともこちらのレポートにもある通り、この14~16nmという世代は割と境目ではあり、ArFとEUV、どちらも射程に入る範疇であるのだが、もし(IBMと同じように)ArF液浸+マルチパターニングで行くのであれば、16(なり15)nmをやめて14nmに以降する必要が無い。実のところ、そうでなくてもマルチパターニングにより、コストが高騰しつつある。マスク1枚数千万~数億円の世界だから、これが例えば3枚だとしても結構なお値段である。しかもマスクはレイヤの数だけ必要になるから、最近の10層を超えるロジック回路を作るのに必要なマスクのお値段、つまり原価は大変なものになる。

加えて、露光の回数が増えればそれだけスループットも落ちるので、スループットを維持しようとしたらその分露光装置を増やす必要もある。こういった事を考えると、EUV導入のコスト(現時点でのEUVの最大のネックはスループットの低さで、これをカバーするためには相当な台数を入れないといけない)とどちらが安く上がるか、は微妙なところであろう。

もう1つ考えられるのは、11nm世代への準備である。先のBorodovsky氏のレポートにもある通り、11nmでは簡単な回路ですらマスク5枚とか言ってる訳で、複雑な回路ではもう少し枚数や露光回数が増える計算になる。問題は、Intelがこの世代で450nmウェハを導入するかもしれないことだ。450mmウェハの場合、ウェハ1枚を処理するのに必要な時間が(300mmウェハに比べて)当然増えるから、そうでなくてもスループットが落ちやすいのに、ここでマスクの枚数が6枚とか7枚になったら、更にスループットが落ちる計算になる。これを避けるには、EUVなりEBDWなりを使ってマスクの枚数を下げると共に、これらの露光装置のスループットを上げる、という形で対処することになるが、そうなるとIntelは11nm世代では新プロセス、新ウェハサイズ、新露光装置と3種類の新技術を導入することになり、これはいくらなんでもリスクが高い。そうなると前倒しで導入できるものは導入して経験値を積もう、という判断が出てきても不思議ではない。

このあたりを判断して、(技術的にはEUVでなくても実現可能ながら)総合的にEUVをP1272で導入することにし、この結果としてプロセスが15なり16nmではなく14nmになってしまったのではないか? というのが筆者の推定である。

もちろん、これらは確たる証拠があるわけではない。一応こちらの折に、「IntelはFab42で14nmプロセスの製造をすると発表したが、これはEUVを使うという理解でいいのか」とお尋ねしたところ、「14nmプロセスで製造するという以上の事は申し上げられない」と(当然のように)回答を拒否された。ということで、多少眉に唾がついた話であると理解していただければ幸いである。