セイコー、シチズン、オリエントとは別に、東京の初台にある本社ビル内で、秋冬の新製品を発表したカシオ。今期のテーマは「Face the Next Movement」で、表示技術の進化が見せる最新の成果を示してくれた。それが、多彩な機能をストレスなく使える新システム「スマートアクセス」を採用した「OCEANUS(オシアナス)」の新作。そして、星や月をモチーフにしたという個性的なフェイスデザインが特徴の女性用メタルウオッチ「SHEEN(シーン)」だ。

カシオの腕時計にリューズがついた!

これまで伝統的なスイス時計とは真っ向から異なる姿勢で、エレクトロニクスを中心にしたモノ作りに特化してきたカシオ。特に2004年に誕生した世界初のフルメタルソーラー電波時計のオシアナスは、5つのモーターで自在に針を動かす多機能クロノグラフであった。

ユーザビリティを高めた多機能クロノグラフ、オシアナス「OCW-T1000」

今回発表されたオシアナスの新作「OCW-T1000」は、1/20秒計測のストップウオッチや世界29都市の時刻表示をはじめとする、多彩な機能をストレスなく使える新システム「スマートアクセス(Smart Access)」を採用した点が新しい。このシステムでは、文字板中央の時針・分針・秒針を連結させずに、それぞれ別のモーターで駆動させている。そのためストップウオッチのリセットや、時刻表示の切り替えの際に、それぞれの針が干渉することなく素早く動くため、使い心地が実にスムーズだ。また、"リューズ"を回転させて針がセットできるために、直感的な操作が可能である。

それにしてもオシアナスに、"リューズ"がつくなんて……。
カシオファンにとって、これはちょっとした事件ではないか。デジタル時計をメインに手がけてきたカシオは、オシアナスでアナログ市場に本格参入した際も、エレクトロニクス技術を駆使した"リューズレス"を謳っていたのである。いずれにしても今回のオアシアナスの新作・OCW-T1000は、カシオの新境地をあらわす画期的なモデルといえる。

多彩な機能をストレスなく使えるようにした、新システム「スマートアクセス」

カシオらしい非接触式の電子式リューズ

感覚的な操作ができる電子式のリューズスイッチ

しかし、単なるリューズではない。カシオ独自のセンサー技術によって開発された「電子式のリューズスイッチ」だ。すなわち、リューズと内部のモジュールは直接繋がっておらず、その代わりにリューズの先端には磁石が取り付けられている。リューズを回すと磁石も一緒に回転して、内部モジュールに取り付けられた磁気センサーが極性の変更を判別。ユーザーから入力された指示を理解するというわけだ。

このような非接触式のスイッチ構造のためにリューズの回転も滑らかだし、モジュールの耐衝撃性もキープされる。しかも回転させるだけでなく、ボタンのようにリューズを押して機能を切り替えることも可能だ。いかにもカシオらしいモノ作りの発想が叶えた、表示技術の進化型といえる。

星形のディスク針を備えたレディスモデル

そしてもう1本。今季のカシオのテーマを象徴するような、女性向けのメタルウオッチ「SHEEN(シーン)」の新作にフィーチャーしたい。「時を知るための道具」という時計の根本概念に、「身につけるアクセサリー」という側面を加えたエレガントな電波ソーラークロノグラフ。同モデルの特徴は、なんといっても9時位置のミニッツカウンターにある。そこには星形のディスク針がセットされ、クロノグラフを作動させるとキラキラ輝きながら回転する。時の刻みを"輝き"に変えながらフェイスデザインに動きを取り入れるという、新しいアナログ表示が実現されているのだ。

女性向けのメタルウオッチ「SHEEN」(SHN-7501D-1AJF)。イメージキャラクターには、中島美嘉さんを起用している

デザインも女性らしい優美なもので、「SHN-7503」には明るいピンクやホワイトの文字板を採用。電波ソーラークロノグラフという突出した機能性を感じさせない、柔らかでフェミニンな印象に仕上がっている。また、夜空をモチーフにしたブラックの文字板を2層に重ねて、立体的なフェイスデザインを実現した別モデルも用意。6時位置には三日月をイメージしたという20分計が装備され、星形の針とあいまってロマンティックな月夜を表現している。

さらなる飛躍を見せるカシオの拡大戦略

もちろんカシオのレディスウオッチといえば、人気の女性向けカジュアルウオッチのBaby-Gがある。そこに、今回の大人のメタルウオッチのシーンを加えることで、カジュアルからエレガントまで幅広く女性向け市場をリードしていく方針だ。すでに男性向けにはG-SHOCKから今回紹介したオシアナスまで確立したマーケットがある。メンズだけでなくレディスも含めた双方で、デジタルもアナログも網羅するというカシオの拡大戦略は、今後も留まることを知らないだろう。

明るいピンクの文字板を採用した「SHN-7503SG-4AJF」

今回の秋冬の新製品発表会では、カシオだけでなく、セイコー、シチズンも、エレクトロニクスに基づく独自のモノづくりで、既成概念にとらわれない革新的な新作を発表した。そこに、オリエントが伝統的な機械式時計をさらに深化させたニューモデルを手掛けて、時計ファンの間口を広げようとしている。前述した中国を始めとする新市場の勃興にともない、日本の高品質な時計の需要はふたたび高まりつつある。それにこたえるように、日本の時計はまだまだ進化を続けていくようだ。本場スイスに追いつけ、追い越せといった、50年前にセイコーが掲げたスローガンは、もはや遠い過去のもの。今後は世界に対する、日本の時計のアイデンティティがこれまで以上に鮮明に確立されていくはずだ。