登場から30年、対象範囲を大幅に広げた「改正省エネ法」

今から31年前となる1979年、石油危機を発端としてエネルギー利用の合理化を進めるための法律「エネルギーの使用の合理化に関する法律」が制定された。いわゆる「省エネ法」だ。省エネ法は主に工場などを対象とし、エネルギー利用の合理化を進めるための内容になっていた。

省エネ法が制定されてから30年後、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」は改正が実施され、2010年4月1日から改正版が施行されることになった。いわゆる「改正省エネ法」だ。省エネ法と改正省エネ法の最大の違いは、対象範囲が大幅に広がった点にある。これまでは主に工場が対象になっていたが、これからは企業/公共団体/病院などの幅広い事業が対象になる。

簡単にまとめると、これまでは原油に換算した場合の年間エネルギー使用量が1,500kLを超えている「事業所」が、省エネ法の適用対象となっていた。工場クラスでもないかぎり、年間エネルギー使用量が1,500kLを超えることはほとんどない。ところが改正省エネ法では年間エネルギー使用量が1,500kLを超えている「事業者」が対象となる。「事業所」ではなく「事業者」ということは、コンビニのように多くの店舗を持っているような事業者はすぐにその累計値が1,500kLを超えることになる。店舗サイズにもよるが、70 - 80の店舗を持っていると累計で対象になるといったところだ。

改正省エネ法下においては、店舗の大きさにもよるが70 - 80の店舗を抱える規模の事業者であれば十分対象になりうる。また、今年度は対象にならなかった事業者も次年度以降対象になる可能性は十分にあるため、ライン上にいる事業者は今から対策を取っておいたほうがよい(資料提供: 住友セメントシステム)

省エネ法「本来の目的」を実現する

こうなると、今まで省エネ法についてノウハウを持ってこなかった企業、公共団体、病院など、さまざまな業種が改正省エネ法への対応を求められる。企業の場合、改正省エネ法への適用対象となるようなケースではそれ相応の収益があり、改正省エネ法を適用することでエネルギー効率の改善とそれに伴う必要経費の削減、企業イメージの向上といったプラスの効果が期待できる。

逆に苦しい展開となるのは公共団体だ。公共団体は多くの建物を所持しているからといって、財政が潤っている、というわけではない。みずから把握しきれないほど所持する建物の数が多く、改正省エネ法の適用対象となるにもかかわらず、予算はつかない。すなわち、既存の人員に業務を兼任させるということになる。しかもこれまで省エネ法に対応してきたノウハウもないため、現場は大変だ。

省エネ法の改正に伴い、改正省エネ法に適合した書類を生成するためのアプリケーションやシステムが登場した。しかし、これは表面的な処理にとどまるものも多く、省エネ法本来の目的である長期に渡るエネルギー効率の改善といった面に貢献しにくいものも多い。定期報告書自体は公開されている文書どおりに作業すれば作成できるが、これはあくまでも定点観測としての意味しか持たない。長期にデータを蓄積し、分析し、実効的な改善計画を立案し、それを実施しなければ改正省エネ法の中長期計画書の作成が難しい。これを実現しなければ、省エネ法の意味がない。

今から改正省エネ法への対応を考えるならば、やはりITによるシステム構築を前提においたほうが効果的といえる。人力では抜けや漏れが発生しやすいだけでなく、時間や費用といったコスト面で結果的に高くつく可能性が高い(資料提供: 住友セメントシステム)

建物を管理するSaaS - スミテムのビルメンテナンスシステム

改正省エネ法に対応するソリューションの興味深い事例として、住友セメントシステム開発(以下、スミテム)の提供するCAFM (Computer Supported Facility Managament)のサービスの一環であるビルンテナンスシステム「BM@FM for Dynamics」を紹介したい。端的に説明すればCAFMは「コンピュータの支援を受けて建物(ファシリティ)を統合的に管理するサービス」だ。そしてBM@FM for Dynamicsは、「施設管理から改正省エネ法対応までをクラウド(SaaS)サービスとして提供」するものである。スミテムはもともとファシリティ系のシステム開発を手がけてきた開発企業だが、3、4年ほど前に「これからはサービスの提供が重要」になるだろうと判断し、BM@FMの開発に着手。SaaSとして同サービスの提供をはじめている。

今回お話を伺った住友セメントシステム開発のお二人。左はFMソリューション部 部長で認定ファシリティマネージャでもある山口浩二氏、右はFMソリューション部 CAFM事業チーム営業 チームリーダー代理の前澤孝之氏

スミテムによるCAFMサービスの全体像。ITによるファシリティの効率的な管理を支援する。今回紹介するBM@FMのBMは"ビルメンテナンス"のこと(資料提供: 住友セメントシステム)

BM@FMでは建物の管理から視覚化、長期に渡るデータの保存と分析、もちろん改正省エネ法に対応した書類の作成などの機能を提供している。建物の管理がベースにあるソリューションであるため、日々の業務をこなしていればそのまま書類が作成されるという利点がある。また、長期に渡って入力したデータから分析や長期計画の立案がしやすいという特徴もある。これまで慣例とカンで決めていたような予算編成を、より確かなデータを元に検討できるようになる。

BM@FMでは今後の開発としてテナント管理や土地/建物台帳で施設情報を管理するシステムの実現や、事業収支や資産情報を管理するシステムの開発も計画しており、建物管理に関する包括的なソリューションになることを目指している。

顧客を管理するCRMを建物に適用 - Dynamics CRM

スミテムのBM@FMがおもしろいのは、システムの構築にCRMソリューションを採用したことにある。CRMの管理対象は本来「人」だ。しかしスミテムの求める管理対象は「建物」であり、CRMの本来の目的とは若干異なる。

スミテムでは最初から同サービスをクラウドで展開することを決めていた。そして自社開発案から、クラウドサービスの採用、プロダクトの採用などいくつかを検討をした結果、Microsoftの提供するDynamics CRMが適切なソリューションであると判断。クラウドでもオンプレミスでも採用できる自由度の高さ、折り合いのつくライセンス、ほかのMicrosoftソリューションとの親和性の高さなどが判断の決め手になったという。すべてをオンラインで管理するのを嫌がる向きもある。Dynamics CRMであれば、クラウドでもオンプレミスでも利用できる。

マイクロソフトは2009年5月末、Dynamics CRMにおける新しい戦略的コンセプトXRMを発表。顧客を意味するCをワイルドカードを意味するXに置き換えるというもので、顧客管理のみならずさまざまな業種をマネジメントできるシステムにするという意味合いを強くした。スミテムのCAFM開発はXRMのコンセプトが発表される以前のものであり、まさしくXRMを地でいくシステムのさきがけと言っていいだろう。

CAFMのようにDynamics CRMを建物そのものの管理に適用したシステムというのは、ワールドワイドで見ても珍しいケースだが、同採用事例における要望のフィードバックはすでに実施されており、MicrosoftではXRM事例が今後増えていくきっかけにしたいとしている。

建物台帳画面。"人"のかわりに"建物"をCRMで管理するフレームワークがBM@FM。Dynamicsを選んだ理由は「環境構築にバリエーションをもたせられる」(山口氏)ことが最大のポイントだったとか。「Salesforce.comも検討したがコスト的にもスケーラビリティに関してもDynamicsのほうがメリットが大きかった」(山口氏)という

クレームなどの受付画面。建物管理に必要な機能が「足りないと感じる」(山口氏)ことがあるのは事実。とくに建物の情報を構造化しにくいところが難点だという。マイクロソフトもこの意見を受け「XRMを推進していくためにCRM固有の制約をできるだけ排除していきたい」としている

クラウドだから実現できる現実的な価格

顧客管理と建物管理とでは適用できる分類に違いがある。Dynamics CRMはゴリゴリ開発するというものではなく、すでに用意されているフレームワークを活用してシステムを構築するという面が強い。このため、顧客管理で適用できる機能を建物管理へ当てはめていって、建物管理を実現し、どうしても用意できないUIに関しては.NETで開発するというスタンスをとったという。

サービスをクラウドで提供することで、ディスカウントも現実的な範囲内で実現できるようになった点も大きい。公共団体など管理する建物が多いうえに予算がないという状況に対して、オンプレミスでは提供できない価格帯でも、クラウドであればなんとかなる、というわけだ。

スミテムでは今後要望を反映してほかのMicrosoftプロダクトとの連携を実現していきたいとしている。たとえばスケジュール機能をOutlookと連携させたり、データの共有にSharePointを導入したり、といった感じだ。使えるものは使い、中途半端な活用はしないとのことだ。