CM制作からコマ撮りアニメ監督に

――合田監督は、どのような経緯でコマ撮りアニメ監督になったのでしょうか?

合田「元々、映画の専門学校に通っていました。当時は、監督は選ばれたカリスマで自分とは関係ない存在だと思っていました。それでも何か制作に関われればと思い、実写のCMのADを3年程やっていました。そうして経験を積んでいるうちに、CMのプランニングもやるようになったんです。その後、CM制作会社に入社して、ディレクターになりました」

――そこでコマ撮り作品を監督したのですか?

合田「いえ、実写作品の監督をしていましたね。いつも撮影のために絵コンテを描いていたのですが、10年ほど前、僕のコンテの絵を観たプロデューサーに、"NHKがキャラクターを探してるから、描いてみたらどうか"といわれて描いたものが、『どーもくん』になったんです。どーもくんも最初は着ぐるみの予定でした。『STAR WARS』が大好きで、イウォークのような着ぐるみのキャラクターをイメージしていたんです。でも、企画書は平面的な絵なので、アニメで描くという案もありました。その折衷案というわけではないのですが、コマ撮りでやってみたらはまったんです。最初にコマ撮りをやったとき、僕自身も凄いドキドキしました。初めての事なのに、知っているような楽しさを感じたんですね。子供の頃のプラモデル制作や、皆で遊んでる感じに通じるような、懐かしい楽しさがコマ撮りにはありました」

――初めて『どーもくん』でコマ撮りを経験して、それがライフワークになったのですね。

合田「そうですね、いつもコマ撮り作品を卒業制作のつもりで作っているのですが、毎回やりたい事が生まれてきて、次の作品もコマ撮りで作りたくなってしまう。毎回、留年決定という感じなんです」

――先ほど、『コマ撮りは古い手法』だと発言されていましたが、それでも、まだやりたい事や、新しい発見があるのですか?

合田「ええ。未だに『人形でこういう事が出来るんだ!』という発見があります。ストーリーを語る上で、人形アニメーションの可能性が、撮影してみると、また見つかるんですよ。あと、確かに古い手法ではあるのですが、デジタル化など進化している部分もあるんですよ」

――それはどんな部分なのでしょうか?

合田「やはり、フィルム撮影でないので、撮影現場で完成形に近い映像がすぐに見れるという部分が大きいですね。スタッフ全員が今作っているものを理解しやすくなります。もちろん、フィルムの質感、リッチなトーンというのも魅力なのですが、それに近い物もデジタルで作れます。何よりもコマ撮りの撮影では、ちょっとのストレスが、大きな物になります。それが軽減されるというのが、デジタルの最大の魅力ですね」

1秒の映像に24カットもの撮影が必要となるため、コマ撮り作品は1日7秒分しか撮影できないという

コマ撮り作品を作り、生きていくシステムを創りたい

――デジタル化が恩恵をもたらしたという部分があるとしても、コマ撮りという手法は、現在の映像制作、クリエイティブの世界における、「費用をなるべく安く抑えて、早くコンテンツを完成させる」というニーズや傾向とは逆行している部分もあると思います。コマ撮りという手法を選択している監督は、その部分をどうお考えですか?

合田「もちろん凄く厳しいです。楽しいだけでは作れないし、色々な工夫が必要です。ただ、僕らは、コマ撮りで作品を作り生きていくにはどうすればいいのか、そのシステムを創りたいと、思いながらやっているのです」

――これからのクリエイターが、合田監督のように、コマ撮り作品を作り、それを仕事として成立させるのは、とても難しいような気がします。

合田「確かに、大変だと思います。ただ、僕らが撮影に使用している機材は、特別な物ではなく、ヨドバシカメラで買えるような普通の機材なんです。コマ撮りは、大変でも、少人数でも、出来ない事はないのです。これからクリエイティブの世界は、プロとアマの境界がなくなっていくと思います。ひとりや小さなユニットで、世界中の人が驚くような作品を作れる。そんな面白い時代になると思います」

――そんな世界で、合田監督はどのように作品作りを続けていくのでしょうか?

合田「先ほどのシステムを創る話にも含まれるのですが、こまねこやどーもくんなど、生み出したキャラクターに出来るだけ長生きして欲しいですね。彼らが生き続けられるように、作品を作っていきたいですし、同時に、『ただひたすら楽しい』という作品も作りたいです」

『こま撮りえいが こまねこのクリスマス ~迷子になったプレゼント~』
発売元 ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント
通常版 3,990円(初回限定生産版 DVD-BOXは7,140円) 発売中

(C)アミ・ドゥ・こまねこ

写真撮影:糠野伸