── 内部を作り上げるときは、たとえばどんな苦労があったんですか?
酒井 私が印象に残っているのはADFですね。製品開発の段階で外側のデザインを決定する日が月曜日だったんですが、その前の週の金曜日に「ここのADFのところが格好悪いぞ」と指摘を受けました。そのため、数日間でゼロから検討し直したのを覚えています。 トレイを開閉式にすることでデザイン性を高めたのですが、開閉する際の摩擦や壊れにくさをチェックするために、厚紙で部分模型を作ったりして、かなりアナログな方法で完成にこぎ着けたました。あれはキツかったですね(笑)

川原 設計側も大変でしたよ。給紙トレイやCD/DVDトレイは、フロント部分のかなり限られたスペースに高密度で入っています。そこで使い勝手を上げるとなると、コンピュータシミュレーションの画面上では見きれない部分が出てくるんですよ。だから、こちらでも簡易的な模型はたくさん作りましたね。
特に、CD/DVDトレイはCD-Rのセット性と外装やパネルレイアウトの兼ね合いが難しく、設計組とデザイン組とで、かなり激しく議論を交わしました。

── 意外とハンドメイドな方法で作られていくんですね。
酒井 遊びの寸法がある程度とれるなら、図面やコンピューター上のシミュレーションで対応できますが、今回はサイズがシビアだったので。手の感触や指が入ったときの感じといったところまで検証しないと、怖い部分がありましたからね。だから、部分部分で紙工作の模型は、本当にたくさん作りましたよ。

── 今までは紙工作をせずに開発していたんですか?
酒井 やるにはやっていましたが、今回は非常に多かったですね。普段の5~6倍は作りましたよ。検証のためだけでなく、考えの対立するメンバーに、「この方法が最良だ」と説得するためにも、部分模型の存在は欠かせませんでした。

EP-901AのADF部分。上部中央のカバーを開くとこのように原稿送りのトレイとなる

EP-901Aのトレイ密集部。普段は液晶パネルの背後に隠れている。この狭い隙間に、CD/DVDトレイや排出トレイなどを収納している

── なるほど。ちなみに、ボディを小型化すると、多少は機能面でスポイルする部分も出てくると思いますが、そのあたりはいかがでしょう?
酒井 基本的には、ないですね。プリンタを壁面にベタ付けできるように、今モデルから背面給紙を廃止していますが、フロント給紙に集約したことで、むしろ使い勝手がよくなっていると思います。

川原 新モデルで採用しているインクカートリッジが従来と同じものであることも強調しておきたいですね。カートリッジやインクチューブの引き回しに関して、レイアウトを検討した結果、何も妥協せずに筐体を小型化できたんです。

酒井 ちなみに、現状ではあまりニーズがないために省いた機能もあります。代表的なのは、CD/DVDドライブです。搭載したときはお客様に喜んでいただけると思っていましたが、急速に進んだメモリカードの大容量化と低価格化に押しつぶされる格好となってしまいました。