人事コストが製品価格に転嫁される可能性

だが、一見企業にとっては痛みばかりと映る新法施行も、見方を変えると、中国IT企業の長期的成長を実現する土台になる可能性を秘めている。

ご存知のとおり、現在中国国内のITハードウェア企業の主な事業の1つはOEMである。OEMで作られた製品の多くは、広東省などの華南地域で生産されている。当然、新法施行で上積みされる経営コストは、これらの企業の製造原価に上乗せされる。激化する一方の価格競争、市場競争に直面しているこれらの企業は、今後コスト増とコンプライアンスの間で板ばさみになることが予想される。

こうした状況をよりマクロ的に見れば、中国の製造業のコスト優位は、労働契約法の本格的な実施で中長期的にはなくなっていくものと見ることができる。そうなれば、企業がさらなる発展の道を歩もうとすれば、自主的なイノベーション(中国語では「創新」)を起こしていくしかない。

企業は研究開発により多くの資金を投入し、自主的な研究開発を通じて、付加価値の高い製品とサービスを提供することでコア・コンピタンスを高めなければならない。

この20数年来、中国の経済発展は、労働コストの低さを前提としたローコスト戦略に支えられてきた。経済効果第一を掲げ、今日まで突っ走ってきたわけだが、そのツケは、労使双方の深刻な相互不信という形ですでに現れてきている。使用者側も労働者側も、極めて短視眼的な、労働力の「使い捨て」を前提とした態度で相対しているのが現状だ。

新法が真に実効性のある形で施行されれば、従来型の発展モデルを根底から覆すものになるかもしれない。どちらにしろ、いつまでもローコスト戦略が続くはずもない。新法が中国企業の経営モデル転換を促す可能性を秘めているというのは、こういうことである。