初代G-SHOCKの商品企画担当者として関わった増田裕一氏。
現在はカシオ計算機 執行役員 時計統轄部長

進化を遂げ、多くのバリエーションを持つG-SHOCK。さまざまなスタイルの製品がリリースされる中、オリジナルなG-SHOCKのカタチを受け継いでいるモデルがある。それが5600シリーズだ。15日に発表された5バンド対応モデル「GW-M5600」にまで続く、5600シリーズの進化はそのままG-SHOCKの歴史でもある。そこで25年前、初代G-SHOCK誕生に直接関わった増田氏にその「源流」についてうかがった。

G-SHOCKが生まれるまで


--そもそも初代G-SHOCKのDW-5000はどのようにして生まれたのでしょうか。

増田 当時、私はデジタル時計を手がけていまして、アナログにはない機能を追求しながら、差別化をはかろうとしていました。しかし機能といっても、当時はストップウォッチやアラーム程度。デジタル時計は安いイメージが先行していたため、それ以外にどう価値を上げていくのかが課題となっていました。そこで機能だけでなく新しく性能面で何かないかと考えた結果が「耐衝撃性」でした。他にも防水性の強化という路線もありましたが、樹脂、プラスチックによる防水が既に完成し、よく売れていた頃でしたので、新しい軸としては物足りなかったという事もあります。

いまも昔もアナログ時計は落としたら壊れるのが当たり前。ところがデジタルは電子部品の単純な組み合わせなので衝撃に強い特徴がありましたので、耐衝撃性にチャレンジしてみようということになり、実験をスタートしました。

--具体的にはどのように進めていったのでしょうか?

増田 世の中に「壊れない」と謳っている時計などありませんから、壊れないということをどう設定するか、つまりどこをゴールにするかをまず考えました。そこから出てきたのが、落下強度10メートル、10気圧防水、電池寿命10年の「トリプル10」という開発思想です。

最初は時計のまわりにクッションをつけることをしましたが、でき上がったのは巨大で到底売れない代物でした。そこで発想を変えて、部品ひとつひとつに衝撃吸収材をあててラバーでくるみ、それをステンレスのケースに入れてさらにラバーにくるんで3重にしてみました。その結果、物にぶつかった時に中のモジュールが動いてうまく衝撃を吸収することが分かり、商品化へのメドがついたのです。そこから設計担当とやり取りしながら肉を削ぎ落としてカタチにしていきました。

--それはいつ頃でしょうか?

1981年からスタートとして見通しがついたのが1982年の春くらいですね。

ところが、商品は完成してもそれをどうやって売るかが問題になりました。メーカーとして販売する上で、落下強度10メートルなどの具体的な数字によって耐衝撃性を謳うことは難しかったので。議論を重ねた結果、耐衝撃性という特徴を聞いて分かるような名前を付けようということになり、G-SHOCKというネーミングが生まれたのです。

--それが1983年4月にリリースされた初代DW-5000ですね

初代G-SHOCK DW-5000(1983年発売)

増田 そうです。日本よりも、アメリカで実用的な時計としてよく売れました。当時は1ドル240円くらいの時代だったので、価格を39ドルという安価な設定が出来たことも大きかったのでしょう。また、広告がきっかけとなり話題を呼んだというのもありますが。

83年以降、しばらくは同じカタチの製品が続いていますが?

増田 DW-5000を開発している段階で、どこへ持っていても信頼性のある「オールマイティ・タフ」という考え方から、耐衝撃性だけではなく、泥まみれになったらどうか、振動を加えたらどうなるかなど、いろいろな条件でテストを繰り返しました。その結果として生まれたのがDW-5000のカタチですので、いちばんタフに出来上がっていました。そこからカタチを変えると、初めからやり直さなければいけなかったので、なかなか形を変えることが難しかったのです。

--その後にリリースされた5600シリーズが定番となっていますが。

初めて樹脂ケースを採用したDW-5600C(1987年発売)

増田 5600が出た背景の一つに円高があります。G-SHOCKが日本でブームになる前、急激な円高が進行しました。そのため中のケースにステンレスを使用していると現地の価格を上げざるを得ない。そこで、樹脂に強化ガラスなどを入れて耐衝撃性能は同じレベルを保ちつつコストダウンできないかかとチャレンジして出てきたのがDW-5600Cです。

樹脂にしたことで、いろいろなカタチのモデルが作りやすくなりました。そして1990年、日本でG-SHOCKのブームが起こり大きな転機となりました。

初代G-SHOCKで作り上げた機能美を継承し、今日まで続く5600シリーズ


--その後もG-SHOCKにいろいろなモデルが出ましたが、今でもベーシックな5600が支持されているのはなぜでしょうか

増田 耐衝撃性を実現する上で無駄がなく、素直な形になっていることが支持される一番の理由だと思います。時代のトレンドに迎合した造形美ではなく、耐衝撃性の追求という機能美が評価されているのでしょう。

5600シリーズは、最初のDW-5600Cに始まり、点光源のLEDからELバックライトを採用したDW-5600E、ソーラー化を果たしたG-5600、電波ソーラー化したGW-5600とオリジナルなカタチを変えずに進化させています。G-SHOCKシリーズではじめてELバックライトを採用したDW-6600、ソーラー化したDW-9300、電波ソーラー化したGW-300と比較すると分かりますが、5600シリーズはあくまでオリジナルのカタチ、大きさのままです。もちろん新たに発売する5バンド対応モデル「DW-M5600」も同じです。

※下記の写真で見比べて欲しい。左側が5600シリーズで、右側が各機能を一番最初に搭載したG-SHOCKだ。5600シリーズは新しい機能を搭載してもフォルムは変わらない。

左:ELバックライトを搭載したDW-5600E(1996年発売)
右:G-SHOCKシリーズでELバックライトを初搭載したDW-6600(1994年発売)

左:ソーラー駆動システムを搭載したG-5600(2002年発売)
右:G-SHOCKシリーズでソーラー駆動システムを初搭載したDW-9300(1998年発売)

左:ソーラー電波機能を搭載したGW-5600(2005年発売)
右:G-SHOCKシリーズでソーラー電波機能を初搭載したGW-300(2002年発売)

1月15日に発表された5600シリーズ最新のGW-M5600(2008年発売)。日本2局、英、独、米の標準電波を受信するマルチバンド5を搭載

--同じカタチを維持している理由は?

限界まで無駄を削ぎ落とした5600のカタチこそが究極のタフネスを実現する理想型だからです。ですから新機能や新性能は、最終的に5600シリーズのカタチにすることを目標にしています。

初代G-SHOCKからの機能美を追求したフォルムを受け継ぐ5600シリーズ(左からGW-5600、GW-M5600、G-5600)

--お忙しい中ありがとうございました。