"Only the Paranoid Survive"というのは、Intel前会長のAndrew S. Grove氏の著書のタイトルだったりするのだが、とにかく「弱みを見つけて、しつこいまでに叩く」というのはIntelのDNAらしい。勿論Intelの場合、この手の話の実例には事欠かない訳だが、今回お届けするレポートも、Intelのパラノイアぶりを示す格好の例の1つとなるだろう。

大体、IDF(Intel Developer Forum)を4月17日から開催することが決まっており、ここが様々な新製品や新テクノロジーをお披露目する格好の場だというのに、それに2週間も先駆けてわざわざPenrynの詳細やNehalemの概要のプレスリリースを出すのみならず、記者説明会まで開く理由は、AMDのBarcelonaに早いタイミングでカウンターをぶつけるためとしか考えられない訳だが、それにもまだ飽き足りない(?)のか、現世代のWindsorコアをさらに叩くべく登場したのが、今回ご紹介するIntel Core 2 Extreme QX6800である。

もう名前から判るとおり、Quad Core構成でありながら、Core 2 Extreme X6800同様2.93GHzで動作するという製品である(Photo01)。「なんでこの時期に」と思うのは、今年のCeBITでIntelはまもなくCore 2ファミリーのFSBが1333MHzに上がることを事実上公開しているからである。この時点で、無理が2つあることになる。1つ目はメインストリーム製品のFSBが1333MHzに上がるのに、わざわざ1066MHzのままで出すこと。2つ目は、Single DieでもTDP 75Wの筈の製品を無理やり2個搭載して、130WのTDP枠に無理やり収めていることだ。

Photo01:2.93GHzとかいうとまだ2GHz台に見えるが、実質的には3GHzも同然だろう。3GHzで動くQuad Coreというのも物凄いものがある。

6月のCOMPUTEX前後で1333MHz FSB対応チップセットが出るということは、当然このタイミングでCore 2ファミリーのFSBも1333MHzに上がることを意味する。Quad Coreでも1333MHzで動作することはXeonの5300番台(Quad CoreのCloverTown)が既にあることで実証されているわけで、多少遅れるにせよいずれはCore 2 Quad系も1333MHzに移るのは間違いなく、つまりこの製品が旬なのはたかだか一四半期に過ぎない。おまけにハイエンドのExtremeだから、数が出ることも期待できない。

TDPに関しても、最近TDP 50WのQuad Core Xeonを出荷するなど、65nm世代もだいぶ熟してきて、それなりに低消費電力の選別品が取れるようになった事が伺える。少なくとも今回入手したサンプルは従来のKentsFieldそのまま(Photo02,03)であり、低消費電力プロセスを採用したとかいう話ではないからだ。

Photo02:こちらPhoto05と見比べると、全く同じStepping/Revisionであることがお分かりいただけよう。

Photo03:QX6700のPreviewでは示さなかったが、Crystal CPUIDでの結果を見比べても、MultiplierとInternal Clock以外全く同じ。Microcode IDまで一緒だった。

ちなみにXeonの低消費電力製品は動作周波数を低く抑えたからこそTDP 50Wが可能になった側面もあり、2.93GHz駆動のQX6800にそのまま通用する訳ではない。実際、QX6800のMax Tcaseは54℃という情報が伝わってきている。130W近い発熱を54℃以内に収めろというのだから、並みのヒートシンクでは追いつかない事になる。今回の検証でも、普通の空冷ではこれを実現するのはすこぶる困難であった(Photo04)。

Photo04:CPUクーラーはCooler MasterのLiving Room。これに1600rpm、72.0CFMの12cmφファンを取り付け、更に横から同じファンで風を当てているが、それでも57℃。結局ここに更に8cmφの高速ファンをタンデムにしたものを使って、なんとか54℃まで温度を下げた。

もっと言うと、こんなに苦労するのも65nmプロセスを無理に使うからである。45nmプロセスは(65nmプロセスと比較して)トランジスタは20%以上高速に動作可能で、しかもリークなどに起因する消費電力が削減されているとしているから、45nmで同じ事をすればもっと話は楽だろう。その45nm世代は第3四半期に投入が予定されている訳で、そこまで待ってもさして支障が出るとは思えない。にもかかわらず、これを今投入することに、Intelのファナティックさを筆者は感じる。(*1)

さてそのQX6800だが、見た目は当然ながら従来の製品と差は無い(Photo05)。底面のコンデンサの配置も、QX6700と同じ(Photo06)であった。OSからも問題なく認識されており、発熱の問題さえ考えなければ、これまでQX6700を利用できていた環境でそのままQX6800を利用できる。

Photo05:S-specはQXTI。ES品だからSpec Finderでも検索出来ないので余り意味はないのだが。

Photo06:もっとも、QX6700とQX6800もTDPそのものは一緒だから、このあたりは当然同じになるとも考えられる。

Photo07:OSからも普通に認識された。

(*1) 勿論、ここまでやるからこそIntelなのだ、という意見もあるのだろうし、それに一理あるのも事実ではある。