こちらの都合を考えずに送られてくるダイレクトメールはわずらわしいものだ。しかし、それがベストのタイミングで、本当に必要なときに届いたならば、どうだろう?
埼玉県に本店を置く唯一の地方銀行である武蔵野銀行が、顧客が必要とするタイミングでのアウトバウンドコールを実施したところ、コールの応答率が30%向上、フリーローン仮申込み件数は1.5倍も上昇した。
これは、企業が持っているさまざまな顧客データを統合・集約・分析し、マーケティング施策を実行するプラットフォームであるCDP(Customer Data Platform)を導入したことで実現したという。
本記事では、同行のCDP導入のプロセスと、活用事例を紹介する。
非対面チャネルでも、対面営業並みのきめ細かいアプローチをするには
埼玉県に本店を置く唯一の地方銀行、武蔵野銀行。「地域共存」「顧客尊重」を理念に掲げる同行は、農業支援など地域活性化戦略を推進するとともに、首都圏の若い世代に向けても多様な金融サービスを提供している。
しかし、埼玉県という地域特色ゆえに、武蔵野銀行には「営業の難しさ」があったと、武蔵野銀行 デジタル推進部 デジタル企画グループ グループ長 北森啓也氏は言う。
「我々は地方銀行として、顧客に寄り添う対面営業を強みとしています。しかし、多くの方が日中は東京で働いていらっしゃるため、退職された方や自営業の方など、限られたお客様しかお会いすることができません」(北森氏)
コロナ禍による制限もあり、同行はバンキングアプリの提供やデジタルサービスの拡充など、行員を介さない取り組みを進めてきた。しかし、そこで生じたのが、一方通行のアプローチによるコミュニケーションロスという新たな課題だった。
北森氏と同じデジタル推進部に所属し、データ利活用を担当する松田安弘氏はこう振り返る。
「たとえば、アプリを既にご登録のお客様に新規登録をリコメンドする通知を送ってしまうことがありました。そのお客様にとっては、非常に悪い体験になってしまったことでしょう。どうすれば施策の食い違いが起きないように、散在するお客様の情報を一元管理できるのか。非対面のチャネルにおいても、対面営業並みのきめ細かいアプローチを実現するにはどうすればいいのか。我々の大きな課題でした」(松田氏)
Webサイトやアプリなど複数のチャネルを設けても、顧客データを統合的に管理・分析していかなければ、気配りの行き届いたコミュニケーションをするのは難しい。既存のデータをどう活用すれば、顧客解像度を上げることができるのだろうか?
模索していた松田氏は、Tealiumの主催するWebセミナーでCDPに出会うことになる。
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武蔵野銀行 デジタル推進部 デジタル企画グループ 調査役 松田安弘氏
金融機関に実績のあるTealiumのCDPを導入
CDPとは、企業が持っているさまざまな顧客データを統合・集約・分析し、マーケティング施策を実行するプラットフォームである。Tealiumは2014年にリアルタイムのデータ活用を得意とするCDPをリリースしたパイオニアだ。
松田氏はセミナーなどを通じて、千葉興業銀行などの銀行がTealiumのCDPを導入し、大きな成果を上げている事を知った。両行がCDPを使って実施しているのは、「Webサイトのローン申し込みフォームから途中離脱した顧客」に対する、フォローコール施策などである。
TealiumのCDPを使えば、顧客一人ひとりがWebサイトやアプリをどのように訪れているのか、その"足跡"の解像度が上がる。そして、その足跡を見て一喜一憂するだけではなく、瞬時にデータを有効化し、MAやWeb接客ツールなどへと供給し、顧客のニーズに合わせたタイムリーなメッセージまで送ることができる。各種ツールを跨って、顧客に関する解像度の高いデータを供給できるのも大きなポイントだ。
「IT企業ではなく、我々と同規模の地方銀行がきちんと運用されていて、しっかりした成果を上げられていました。どのように『データ利活用』をすれば収益が上げることができるのか明確になり、社内にもその意義を伝えることができるようになったのです」(松田氏)
武蔵野銀行は従来、年齢・性別・預金残高・過去の購入商品などをもとに、メールの一斉配信やDMの郵送をしていた。しかし、そのタイミングは「銀行の都合」であり、本当にその顧客がその商品の情報を欲しているかも分からない。その点、Tealiumならば、「顧客の都合」に合わせて必要なメッセージを届けることができる。
「もちろん同様のソリューションについても調べましたが、リアルタイムの計測が可能で、データを有効化して各種ツールに同時供給し、顧客にメッセージまで届けることができるのは、TealiumのCDPだけでした。既に地方銀行で実績を上げていることもプラス材料となりました。『まずは一年間Tealiumを使わせてください』と、役員にプレゼンした結果、前向きに捉えてくれたのです」(北森氏)
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武蔵野銀行 デジタル推進部 デジタル企画グループ グループ長 北森啓也氏
金融機関がデータ活用を積極的に進める上では、個人情報保護にまつわる懸念を十分に払拭しなければならない。武蔵野銀行の場合は、どのように対処していったのだろうか。
「当初、管理部門からは、導入は困難という反応もありました。しかし、法律事務所へのヒアリングに基づく根拠を示したり、『個人情報を含まないファーストパーティデータ(自社のみ取得できるデータ)』を使うスモールスタートという前提を示すことで、理解していただきました。CDPは複数の部門が連携して利用するツールなのですが、もともとDXのプロジェクトチームとして、営業や事務、融資など他部門との繋がりがあったことも、社内的な理解を得る上では大きかったと思います」(松田氏)
顧客に合わせたタイミングでアプローチすることで、「喜ばれる電話営業」を実現
Tealiumのソリューション導入によって、武蔵野銀行は非対面営業においても、タイミングとニーズに合ったコミュニケーションが可能になった。
かつてはセグメントを作らずローンの電話営業をしていたが、今は「SMS経由で、ローンを紹介するWebページを訪れた顧客」に対し、優先的に電話をかけている。もともと商品に興味があるため、営業電話も邪険にされず、むしろ喜ばれることさえある。その結果、コールの応答率は30%も向上した。
バンキングアプリにおいても目に見える効果が出ている。「口座を新たに開設したが、アプリをまだ登録していない顧客」に対して、口座開設のお礼とともにメッセージを送るようにしたことで、登録率が向上しているのだ。
Tealiumの特長のひとつは、顧客のニーズを即座に捉えられることにある。過去も含めた顧客の動向がリアルタイムで把握できるからこそ、商品ごとにアプローチすべきタイミングも分かってきたと、松田氏は言う。
「たとえば、フリーローンをご検討されているお客様は、少しでも早く融資をしてほしいというケースも多く、すぐに電話をかけたほうが喜ばれます。一方、マイカーローンを検討されているお客様は、試乗をしたり見積もりを取ったりする必要があることから、ある程度検討期間を置いた方が効果的だということが分かってきました。Tealiumのおかげで、お客様が真に求めるタイミングで動けるようになったのです」(松田氏)
同行は、Tealiumの導入とともに一連の非対面営業を見直した結果、2023年3月の「フリーローン仮申込み件数」は、昨年同月比で1.5倍となった。「教育ローン仮申込み件数」においても、2023年1月~3月までの期間で、昨年の114%となっている。
※仮申込み:Webサイトからローンの事前審査へ申込みすること
さらにTealiumの効果は、組織の意識改革にも及んでいる。
「お客様の反応が如実に変わったことで、営業部門やコールセンターにも価値を感じてもらえたのでしょう。行内から『こういう施策をしたい』というアイデア提案が来るようになりました。商品の深い知識を持ち、お客様のニーズを把握しているのは、DX部門ではなく、実際にお客様に近い営業部門の行員です。このように積極的に意見をもらえることで、今後の施策の改善サイクルをさらに速めていけると思っています」(松田氏)
顧客データ活用により、さらに進化したサービス提供へ
Tealiumの活用について、松田氏は「アプリの動きも捉えていきたい」と意気込む。
「Tealiumならば、Webだけでなくアプリを利用するお客様の"足跡"も見えるようになりますから、次はそこに力を入れていきます。そして、対面・Web・アプリで得た情報をもとに、お客様のライフスタイルをより鮮明化していくことで、新たなアプローチをしたり、商品を開発したりと、よい循環を生んでいきたいと思います」(松田氏)
金融サービスのDX推進を続ける武蔵野銀行は、2021年に経済産業省の「DX認定」を、2022年には「事業適応計画」認定を受けた。いずれも金融機関としては数少ない例であるといえるだろう。顧客データ活用について、北森氏は次のように展望する。
「今までは行員の感覚や経験則に基づいて施策を実施していましたが、顧客接点を増やし、データを収集し、それを可視化して"将来予測"に活かしていくことが、我々の大きな方針です。データに基づくことによって、新人の早期育成や、サービスの平準化が可能になると考えています。ゆくゆくは、全システムと全行員が一丸となって、お客様の動向をリアルタイムで察知して、気配りの効いたサービスを提供していきたいと思います」(北森氏)
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(右)武蔵野銀行 デジタル推進部 デジタル企画グループ グループ長 北森啓也氏
(左)武蔵野銀行 デジタル推進部 デジタル企画グループ 調査役 松田安弘氏
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