オートマチック トランスミッション (AT) で世界シェア 1 位を誇るアイシン・エィ・ダブリュ (以下、AW)。この圧倒的なシェアは、同社の進める競争力強化の取り組みに大きく起因しています。
少子高齢化に伴う生産年齢人口の構造変化、顧客ニーズの変化による製品の多品種化など、今日のモノづくり産業には、"競争力の維持、強化" を難しくする様々な要素が存在しています。こうした中にあっても依然として高い競争力を堅持し続ける AW は、どのような取り組みでこれを実現しているのでしょうか。1 つの例が、同社の電子工場が進める「ePlant のスマート化」です。
電子工場では Microsoft Services の支援のもと、2007 年より、工場にある "あらゆるモノ・コト" の情報化を推進してきました。2008 年には IoT(Internet of Things) 技術によってこれを実現するための情報化プラットフォームを構築。10 年以上経過した今なお色あせることの無い環境として、稼働をスタートさせています。ライン全体の生産能力を最大化するためには、生産ラインを適切に制御することが必要です。同社では、ここに必要な情報を手間なく、リアルタイムに入手可能な環境を用意。工場内の社員が自らの能力を存分に発揮できる "人が活躍する" 職場づくりを推進することによって、今なお、市場において高い競争力を堅持し続けているのです。さらに近年は、システムの知能化や自律した FA (Factory Automation) に向けた取り組みにも着手。Microsoft Service とともに、"システムが人に寄り添う" 生産環境の実現が目指されています。
工場内のあらゆるモノ・コトを情報化し、生産現場を効率化させる
市場競争の激化を背景に、製造業の多くがコスト ダウンを迫られています。慢性化が続く人手不足も、少子高齢化の加速によりいっそうその深刻さを増しています。さらに顧客ニーズの多様化が進んだことで、従来のように共通化された製品を提供するだけでは市場での生き残りが困難になってきました。
生産力や生産コストは低下傾向にある、しかし製品は多品種化し、求められる仕様も高度化している――決して "追い風" とは言えない状況の中、製造業は今、顧客から支持を得続けるために何をするべきでしょうか。AT で圧倒的な世界シェアを誇るアイシン・エィ・ダブリュ株式会社の電子事業本部 電子生技部 部長 杉浦 昭 氏は、「モノづくりを支えるのは人です。働いている人が自分の職場や業務に誇りを持つような環境でなければ、どれだけ FA などの技術が発展しても良い製品を作ることができないのです。"私は AW で働いているんだ" と社員が胸を張って言えるような職場づくりが、製品の品質や市場競争力を支えるのだと考えています。」とし、ここへ向けた同社の取り組みを述べます。
「私たちの部門では、AT の頭脳となる ECU を年 600 万台以上生産しています。きわめて膨大な数であり、近年は多品種化も進んでいますから、ラインの稼働状況を見極めながらフレキシブルに生産ラインを運用しないとこれほどの台数を生産することはできません。ただ、こうした運用にあたっては、設備の稼働状況や各製品の生産状況など、工場の "あらゆるモノ・コト" に関する情報が不可欠となります。全ての情報に誰もがアクセスできる環境を用意したい、そして、生産現場にいる全ての社員がクリエイティブな業務に専念し、能力を存分に発揮してもらいたい。この考えの下、我々の電子工場では 2007 年から情報化プラットフォームによる『ePlant のスマート化』を進めています」(杉浦 氏)。
生産現場にいる社員は、生産ラインを適切に制御することが本業です。これを疎かにしては、製品に不具合が出たり、ライン全体の生産能力が低下して納期に遅れが出たりなどの問題を引き起こしかねません。
しかし、かつての電子工場はここで必要となる情報を得るだけでも多大な労力を必要としていたといいます。杉浦 氏は「設備ごとにメーカー、機種、出力用のインターフェースが異なっているため、例えば稼働情報を確認したいと思っても、置き場所や形式が分散している中から情報を収集するだけで相当の労力を必要としていました。本来生産現場にいるべき社員がみんなデスクで集計作業に追われている、そんな光景をよく目にしていたのです。こんな環境では働きがいなど生まれない、能力が発揮されるわけがない、そんな危機感を強く感じて『ePlant のスマート化』に取り組むことを決定しました。当時はまだスマート ファクトリーの言葉もありませんでしたから、当社にとって大きなチャレンジでした。」と、取り組みの経緯を振り返ります。
Microsoft Services が、"人が活躍する" 生産現場を具体化させる
杉浦 氏は "大きなチャレンジ" と述べましたが、電子工場では着手の翌年となる 2008 年には、Global Product Line Information (GPI) という名称の下でこの情報化プラットフォームを完成させています。そして驚くべきことに、稼働開始から 10 年以上を経た今もなお、GPI は完成当時からフレームワークを大きく変えていません。"色あせることないプラットフォーム" として生産現場を支え続けているのです。
GPI は、各装置から時間軸とその対となるイベント ログを稼働情報として吸い上げる「情報発生」、データを未加工のままタグ付けして Microsoft SQL Server(以下、SQL Server) に一元管理する「情報収集」、個々の業務アプリケーションで SQL Server 上のイベント ログを利用する「情報活用」、以上の 3 層で構成されています。杉浦 氏は「保守期間を含むと、自動車産業の製品ライフ サイクルはほとんどが 10 年を超えます。GPI は供給やサポート、保守の要となるトレーサビリティの集合体ですから、長い製品ライフ サイクルの中でも稼働を続けることが求められます。"10 年先の生産現場" に対応可能な環境を目指して、プラットフォームの構築を進めました。」と述べ、アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 電子事業本部 電子生技部 次長の山戸 修 氏とともに、構成のポイントを説明します。
「大きく 3 つポイントがあると考えています。1 つは、3 層に完全分離された仕組みにすることで柔軟性のあるプラットフォームにしたことです。モノリシックな仕組みでは、装置を追加したり活用面を広げたりする場合に、プラットフォーム全体へどのような影響を及ぼすかを考慮せねばなりません。そうすると、どうしても一時的に GPI の稼働を止めなければならないのです。モジュールの集合体のような設計を取ることで、こうした拡張に際しても GPI を稼働させながら行うことができます。現在、GPI は世界中の装置からリアルタイムに情報を収集しています。生産現場にとって GPI は欠かせない存在になっていますから、24 時間 365 日稼働させ続けるためにはこうした設計が不可欠でした」(山戸 氏)。
「2 つ目は業界標準のアーキテクチャを採用したことです。GPI では『情報発生』『情報収集』『情報活用』における全ての通信をインターネットで統一しており、アクション ログの記述言語も XML に統一しています。10 年以上の長い間稼働を続けるためには、その過程で発生するであろう技術革新にも対応していく必要があります。その場合、グローバル スタンダードなアーキテクチャを採用していれば、対応性を高められると考えたのです。最後の 3 つ目は、私たちだけでなく Microsoft Services の支援も受けながらこれを進めたことです」(杉浦 氏)。
杉浦 氏は、"こんなことがしたい" というビジョンがあってもこれを仕様に落とし込むことは事業部門だけでは難しいと語ります。ただ、IT ベンダーの多くは事業部門が持つビジョンへの理解が乏しいとし、"ビジョンへの理解" と "IT 技術" の双方に長けたパートナーが必要だったと述べます。
「これが無い単なる IT ベンダーにお願いする場合、きっと "どんな仕様でしょうか?" から話が始まりますから、3 年で使えなくなるようなシステムができあがってしまうでしょう。マイクロソフトは本取り組みにあたり、まず実際の生産ラインに数週間入り、存在する課題や私たちが考えるビジョンへの理解に努めてくれました。その上で、ビジョンを達成するための仕組みとして先ほど述べたアーキテクチャ案を提示してくれたのです。HTML や XML を利用するという発想は、当時の私たちにはありませんでした。ですが 10 年経った今、IoT などの言葉でこうした仕組みが製造業のスタンダードになりつつあります。私たちは Microsoft Services とともに、10 年先を見越したプラットフォームを作ったのだと実感しています」(杉浦 氏)。
" マイクロソフトは、5 年 10 年先の世界を作っていく人たちです。Microsoft Servicesの支援の下でプロジェクトを進めることで、数歩先を行く "人が活躍する" 生産現場であり続けることができると考えています。"
-杉浦 昭 氏: 電子事業本部 電子生技部 部長
アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
効率化から、知能化・自律した FA へ
GPI は、電子工場の生産現場に劇的な変化をもたらしています。AW の持つ武器は、積み上げられた経験に基づく "人だからできる" 気づきによって、新たな付加価値が創出できることだと言えます。情報取得に忙殺されることがなくなったことで、生産現場の社員 1 人ひとりがこのクリエイティビティを存分に発揮できるようになったのです。
山戸 氏は、「この 10 年間、GPI と接続する装置の拡大や業務アプリケーションの拡充を、工場と一緒になって進めてきました。"GPI は有用だ" これが現場に早々に理解されたこともあり、今では国内外 650 台の装置がつながり、60 以上のアプリケーションを備えるプラットフォームへと成長しています。Microsoft Services の支援のもと本当に有用な仕組みが用意できたこと、SQL Server の備える信頼性によって常に稼働を続けていることが、こうした成功の要因でしょう。」と笑顔を見せます。
" SQL Server で一元管理しているデータの総量は、16TB に達します。トレーサビリティはこれを保持し続けることに意義がありますから、SQL Server が備える高い信頼性には非常に助けられています。"
-山戸 修 氏: 電子事業本部 電子生技部 次長
アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
GPI で集積するのは、装置の情報だけに留まりません。GPI では、これを利用する人の行動や工場内の作業内容も情報化して蓄積しています。"人の経験に基づく気づき" と言えるこうした情報は、「ePlant のスマート化」を、知能化・自律した FA という次のステージへとシフトさせつつあります。杉浦 氏は、このように語ります。
「蓄積した行動データを活用すれば、これまで人の手で行ってきた点検作業を機械に任せる、熟練作業者でしか気づけなかった洞察をシステムから人へ提供する、こういったことが実現できるでしょう。"生産現場の効率化" から "蓄積データを用いた自働化、気づきの提供" へと、GPI はその役割をシフトさせつつあります。これに伴って、社員の業務も、人間らしい、人間だからこそできるものへと変わっていくでしょう。今はそのための情報蓄積、技術開発の段階ですが、既に幾つかの実証実験をスタートさせており、近い将来でこれが実現できると考えています」(杉浦 氏)。
"システムが人に寄り添う" 生産環境の実現を目指す
情報化からスタートした「ePlant のスマート化」は、現在、知能化や自立した FA へとその歩みを加速させています。杉浦 氏は、GPI 上の "あらゆるモノ・コト" の情報を活用することで、今後、システムが人に寄り添うような生産環境を実現させたいと意気込みます。
「人手不足だけでなく、働き手の多様化にも対応していく必要があります。現在は熟練作業者やフル タイムで勤務可能な社員が多くを占めていますが、この社員構造は、近い将来で大きく変化するでしょう。それでも、私たちの職場は、全員がやりがいを感じる、活躍する環境であり続けなければなりません。体力や言語、経験値などの人の違いをシステムが補完する、そんな "システムが人に寄り添う" 生産環境を創りあげることで、ここへアプローチしてまいります。Microsoft Services の支援のもとで GPI を発展させていけば、きっと具体化できるでしょう」(杉浦 氏)。
常に 10 年先を見据え、最新テクノロジーが持つ可能性を生産現場に適用し続けている AW。モノづくり産業に吹く風は、決して "追い風" とはいえません。そうした中でも AW は、「ePlant のスマート化」による "人が活躍する" 職場づくりによって、これからも市場において高い競争力を保ち続けることでしょう。
[PR]提供:日本マイクロソフト