電車に乗れば、中づり広告やドア上のモニター。街を歩けば、屋外ビジョンや大型のビジュアル幕。街の階段にはポスターが貼られ、道路にはフラッグがはためいています。こうした屋外のあちこちに存在する OOH (Out of Home : 家の外にある) 広告は、いまや巨大な影響力を持つ広告メディアとなっています。しかしその反面、手法としての OOH 広告は、「どんな人が、どれくらい広告を見たのか?」という効果測定が困難であるという、大きな課題を抱えていました。

この課題を打破し、OOH 広告の価値向上に取り組んでいるのが、国内最大手の広告会社である電通です。同社は 2017 年末、AI とクラウドを駆使して、デジタル サイネージにオーディエンス分析とインタラクティブ機能を実装する実証実験をおこないました。見る人に合わせた広告を表示し、なおかつインターネット広告などと同様の指標のもとで広告効果をアウトプットする。「人工知能型 OOH 広告」という名称で開始した本サービスは、OOH 広告の持つ可能性をこれまで以上に拡大しつつあります。

従来型 OOH 広告は、「効果測定の欠如」が最大の課題

情報化の進展は、広告市場を一変させました。電通が発表した「2017年 日本の広告費」によれば、インターネット広告費は前年比 115.2 % の 1 兆 5,094 億円と、4 年連続で 2 桁成長をつづけており、テレビに迫る勢いをみせています。一方、新聞、雑誌、ラジオ、テレビを合わせたマスコミ四媒体広告費は、前年比 97.7 % の 2 兆 7,938 億円となり、3 年連続で減少しています。インターネット利用があたり前の世の中になり、従来のマス メディアに接触する機会が減ってきたことが、その要因として挙げられるでしょう。

しかし、もっとも古い広告媒体でありながら、依然として接触機会を落とさずにすべての世代の目に触れるものがあります。家の外に出ればかならず見える、OOH 広告です。株式会社電通 アウト・オブ・ホーム・メディア局 スマートビジネス推進室 テック&データインテリジェンス部長の神内 一郎 氏は、この OOH広告が持つ可能性について、海外市場の事例を交えてこう語ります。

「海外市場でも新聞を読んだりテレビを見たりする人は減ってきていますが、実は OOH 広告については、ネット広告と並んで年々成長を続けているのです。従来型のマス メディアに接触する人が減る中、どうやってターゲットにメッセージを到達させればいいのか。こうした課題がある中、未だ接触者数を落としていない OOH 広告が、課題解決の最後のフロンティアになっているのだといえます」(神内 氏)。

屋外のさまざまな場所に広告を施す OOH 広告は、地域特性に応じてターゲット セグメントや内容を切り替えながら大々的にプロモーションを展開できる点が特徴です。情報の見せ方も、デジタル サイネージの普及によって多様になりました。ところが、海外市場では成長しているにも関わらず、国内の OOH 広告費は横ばいを続けています。神内 氏はこの理由について、「効果測定の欠如」があるといいます。

「いったい何人が広告に視線を向けたのか。それはどんな人だったのか。その場所にポテンシャル ユーザーはどれくらいいたのか。従来の OOH 広告は、こうした基本的な効果指標でさえも標準的な指標となるものがありませんでした。『効果はあると思いますが、根拠となるデータがありません』という状況では、広告主が前向きに検討することは困難でしょう。国内の広告市場を牽引する立場である当社として、この課題を打破しないわけにはいきません。こうした考えのもと 2017 年 12 月に取り組んだのが、『人工知能型 OOH 広告』の実証実験でした」(神内 氏)。

OOH 広告を他の広告と同じ指標のもとで明確化することで、セクター間を横断した PDCA が可能に

この実証実験に際して、電通では資生堂ジャパンの協力のもと、都営地下鉄六本木駅にあるデジタルサイネージ「六本木ホームビジョン」にメイクアップブランド「MAQuillAGE」の広告を設置。併設したセンサーによって通行量や実際に広告を見た人の人数、性別などを計測する、ユーザーの反応ごとに広告表示を切り替えるという試みを実施しました。

  • 都営大江戸線六本木駅で実施された実証実験のようす
  •  表示する広告は、接触ユーザーの視線に応じて自動的に切り替わる
  • 都営大江戸線六本木駅で実施された実証実験のようす (上)。表示する広告は、接触ユーザーの視線に応じて自動的に切り替わる (下)

  • 映像を分析することで、通行人の総量、その中の接触者 (視聴者) 数、属性、エンゲージメントなどのレポート化に成功している

    映像を分析することで、通行人の総量、その中の接触者 (視聴者) 数、属性、エンゲージメントなどのレポート化に成功している

「人工知能型 OOH 広告」のポイントは、広告に接触した数である「インプレッション」や、実際に反応を示した「エンゲージ」、1 人あたりの表示回数である「フリークエンシー」といった、インターネット広告で主に用いられる指標と同じものを用いて広告キャンペーンの結果が把握できる点にあります。同じ指標を使う事によって、インターネット広告と OOH 広告という異なるセクターをまたがって、キャンペーン設計とその広告効果を検証することが可能となるのです。

実証実験を担当した株式会社電通 アウト・オブ・ホーム・メディア局 スマートビジネス推進室 プランニング&プロデュース部 シニア・プロジェクト・マネージャーの藤井 春樹 氏は、本取り組みの意義をこう説明します。

「通行人に応じてクリエイティブを切り替えることで興味を惹く形で広告訴求できる点ももちろんながら、通行人の性別や年齢、将来的には見たときの感情にいたるまでデータ化 ( 可視化) できることが特に有意義だと考えています。この点は資生堂様からも、『複数のセクターをまたがった広告キャンペーンであっても、仮説と設計、実施、検証という PDCA をまわしながら効果を高めていくことの基盤となる』と、高い評価をいただいています。本ソリューションによって OOH 広告の価値を大きく引き上げられると考えていますが、これを利用できるのが六本木に限られていては、たとえ有用であっても活用が広がらないでしょう。今回の実証実験ではクラウド技術を用いることによって、六本木という場所にとらわれず、物理的な環境さえ整えば、あらゆる場所の OOH 広告で同様の展開が可能なしくみをとっています」(藤井 氏)。

  • 株式会社電通 神内 一郎 氏、藤井 春樹 氏

横展開に欠かせないスケーラビリティの確保と短期開発を実現すべく、サーバーレス設計を採用

「人工知能型OOH広告」では、カメラで撮影したデータの収集や分析、レポート化といったほとんどの処理が、パブリック クラウドの Microsoft Azure でおこなわれています。こうしたしくみが持つ利点と Microsoft Azure の採用理由ついて、藤井 氏はこう明かします。

「データ処理をエッヂ デバイスではなくクラウド側に担わせることで、OOH広告がある現地に設置する機器を、画像センサーなどの最小限に留めることができます。特別な処理を行うエッヂ デバイスを現地に設置するようなしくみでは、各地域に掲出されている既存の OOH 広告を『人工知能化』していくことが困難になります。映像を転送した後の処理を Microsoft Azure で完結できる本しくみは、『人工知能型OOH広告』の普及にあたって、きわめて重要な要素だといえるでしょう。とはいえ、OOH 広告の種類に合わせてフロント側の設計をカスタマイズすることは必要になります。また、広告配信の停止は重大な事故ですので、安定的にサービスが提供されねばなりません。こうした『柔軟性』と『信頼性』を両立したサービスとして、Microsoft Azure は当ソリューションの要件に合致していました」(藤井 氏)

Microsoft Azure の有する「柔軟性」は、実証実験におけるアーキテクチャ設計に形として表れています。撮影した動画データをマイクロソフトの AI サービスである Cognitive Services によって分析する。ここでデータ化した広告接触ユーザーの属性、人数、感情を、ビジネス分析ツールである Power BI を介して自動的にレポート化する。それらを連携する実行基盤としてAzure Functions を選択し、Visual Studio Code で編集した Node.js プログラムを拡張機能で簡単にデプロイするなど、Microsoft Azure の備える豊富な PaaS や OSS を活用して、サーバーレスな設計をとっているのです。これにより、案件ごとに設置台数が増減して入力データ量が変化した場合でも柔軟かつ即座に対応してソリューション提供することが可能となりました。

  • 通行量分析に利用したセンスタイム社の機械学習エンジンのみ Ubuntu Linux 仮想マシンを用い、その他は PaaS でシステムが構成されている。可能な限りAzure Functionsなどを活用し、サーバーレスな設計にしたことで、仮想マシンを主とする構成と比較して高い柔軟性とスケーラビリティをもたせることに成功している

    通行量分析に利用したセンスタイム社の機械学習エンジンのみ Ubuntu Linux 仮想マシンを用い、その他は PaaS でシステムが構成されている。可能な限りAzure Functionsなどを活用し、サーバーレスな設計にしたことで、仮想マシンを主とする構成と比較して高い柔軟性とスケーラビリティをもたせることに成功している

こうした最先端な AI や PaaS、OSS テクノロジーをサポートする点について、神内 氏は「デジタル業界では Linux やオープンソース系の開発者が多く、OSS 系の技術が使われることが非常に多いです。あの Windows で有名なマイクロソフトのクラウドがここまでオープンになったということは、正直いい意味で驚きでした。マイクロソフト独自の AI などの先進技術、そして OSS のコンビネーションがあることは、もっとこの業界で知られるべきことだと思います。」とコメント。さらに、パブリック クラウドとしての有用性だけでなく、マイクロソフトの技術サポート、強力なパートナーシップにも大きく期待したともつづけます。

「当社にとって、本プロジェクトは大きなチャレンジでした。本当にうまくいくのか、不安もありました。そのため、ベンダー選定に際しては、サービスの提供だけでなく、企画、設計、そして実現までを共に歩むことができる相手を選びたいと考えたのです。マイクロソフトは、まさに当社のこの想いを体現してくれました。全体のプロジェクトをリードいただき、当社が『こんなことをしたい』と要望を伝えるだけで、その方向へチームを引っ張っていただけたのです。結果として、実証実験では大きな手ごたえを得ることができました。マイクロソフトと一緒にプロジェクトを達成できたことには、非常に満足しています」(神内 氏)。

"設計、構築、そして実行までのリードタイムは、約 2 か月という短期間でした。これだけ短期に成果が得られたことは、マイクロソフトの優れた支援あっての結果だと感じています。"

-神内 一郎 氏: アウト・オブ・ホーム・メディア局 テック&データインテリジェンス部
株式会社電通

「人工知能型OOH広告」の成功が、電通の強みである「総合力」を引き上げていく

2017 年末に実施された「人工知能型OOH広告」の取り組みは、協力企業である資生堂ジャパンだけでなく、業界からも高い評価を受けています。デジタルサイネージコンソーシアムが主催する「デジタルサイネージジャパン2018」にて広告賞を受賞したのです。

こうした社会からの評価について、藤井 氏は「非常に栄誉ある賞をいただけました。こうした評価を武器にして、今後、『人工知能型OOH広告』の拡大、拡販をすすめていきたいと考えています。」とコメント。つづけて、実証実験の成果をもって、OOH 広告の価値だけでなく、総合広告会社としての「電通の価値」についても向上させていきたいと語りました。

「当社のめざすデータ ドリブン マーケティング、ピープル ドリブン マーケティングにおいて、広告効果の可視化は欠かすことができません。これをOOH 広告で果たしたという今回の実績は、当社の強みである各セクターの広告を組み合わせた『総合力』をいっそう高めていくうえで、大いに意義があったと考えています」(藤井 氏)。

"OOH 広告やテレビ CM、インターネット広告といった多様なメディアを組み合わせることで、PRキャンペーンはより効果を高めることが可能です。異なるセクターであっても効果指標が統一できるということを示唆した本取り組みは、広告業界を前進させる大きな実績だと考えています""

-藤井 春樹 氏: アウト・オブ・ホーム・メディア局 プランニング&プロデュース部
シニア・プロジェクト・マネージャー
株式会社電通

電通ではこうした総合力をさらに高めるべく、オフィスに AI システムを導入するなど、先進技術の検証についても積極的に取り組んでいます。神内 氏は、先進技術のノウハウを積み上げていくうえでも、マイクロソフトには大いに期待しているといいます。

「なんでもいいから広告を打ちたいという広告主はいません。明確なターゲットに、きちんとメッセージを届けることが、広告の目的です。メディアを複合的に組み合わせるトータル メディア プランニングによってもっとも効果的な広告サービスを提供するには、AI のようなさまざまな先進技術を使いこなす必要があるでしょう。こうした先進技術に精通したマイクロソフトは、当社の総合力をより高めていくうえで、心強いパートナーだと思います」(神内 氏)。

普段何気なく接触している広告。しかし、この広告によって、私たちは日々、新たな選択肢を得ています。広告サービスの価値が高まることやより精度の高い広告が提供されるようになれば、それはきっと、受け取る私たちの仕事や暮らしを豊かにすることにつながります。電通の目指すデータ ドリブン マーケティング、ピープル ドリブン マーケティングは、情報社会の質をますます高めていくことでしょう。「人工知能型OOH広告」の成功を契機に、こうした電通の動きがいっそう加速することに期待が高まります。

[PR]提供:日本マイクロソフト