2020 年 9 月に完全子会社化を実施し、NTT グループ全体としての成長を見据えた取り組みを推進する株式会社NTTドコモ。「カスタマーファーストの追求」「デジタル化とデータ活用推進」「事業運営と ESG の一体的な推進」というビジョンを掲げ、社会に大きな変化をもたらすイノベーションの創出を目指しています。その実現に向けてデータプラットフォームのクラウド移行を進める同社の情報システム部では、通話・通信などのトラフィックデータをはじめとした利用情報を集約するシステムである「Traffic-DWH」の EOSL(End of Service Life:サポート終了)を機に、パブリッククラウドへのマイグレーションを検討。Microsoft Azure および Azure Synapse Analytics を採用し、同社のプライベートクラウドと組み合わせたハイブリッドクラウドのシステム構築に着手します。この取り組みは、同社の情報システム部が進めているクラウド化の先行事例となります。
自社運用のプライベートクラウドと Azure のハイブリッド構成を選択
日本最大規模の移動体通信事業者である NTTドコモでは、料金システムである「MoBills」から大量の通話・通信情報を受信し、事業計画の策定に利用する各種指標や、新サービスの立案に必要な既存サービスの実績や需要の伸びなどに関わる帳票作成・出力などを行うためのシステムである「Traffic-DWH」を Microsoft SQL Server 2014 で運用してきました。
Traffic-DWH は、1日で約16億件ものデータを扱う大規模なシステムです。NTTドコモでは、Traffic-DWH を構成するサーバー/ソフトウェアが EOSL を迎えるにあたり、同社の情報システム部では 2019 年後半から更改の検討をスタート。パブリッククラウドへのマイグレーションが決定されました。NTTドコモ 情報システム部 経営基盤担当 主査の戸田 成彦 氏は、クラウド移行を選択した経緯をこう語ります。
「NTT グループの DX 戦略により、NTTドコモが運用している他の DWH 系システムもクラウド化を進めているという背景があり、Traffic-DWH も更改タイミングでクラウド移行することが前提となっていました。オンプレミスのままではハードウェア/ミドルウェアの定期的な更改対応が必要で費用がかかってしまいます。さらに今後 5G やその先の 6G など次世代ネットワークの普及によってトラフィック(レコード数)の爆発的な増加が見込まれますが、オンプレミス環境ではスケーラビリティを上げて DB を拡張するのは困難です。その意味でもクラウド化するメリットは大きいと感じていました。とはいえ、クラウドにはセキュリティ面などクリアすべき課題もあり、システムインテグレーターの NTTコムウェアと検討を重ねて方式やクラウドの選定などを進めていきました」(戸田 氏)。
今回の Traffic-DWH 更改は、マイグレーション計画のステップ 1 と位置付けられています。将来的にはデータレイク拡充やデータ活用のセルフサービス化を目指しており、「EOSL 脱却と維持スキル汎用化」「ETL パッケージ化による F2S(Fit to Standard)の実現」「BI 機能部の他システム移管」をテーマに掲げて検討が進められました。検討段階からプロジェクトに携わっている NTTコムウェア データマネジメントプラットフォーム(DMP)部門 スペシャリストの市川 大助 氏は、コストやセキュリティといった要素を考慮した結果、プライベートクラウドとパブリッククラウドを組み合わせたハイブリッド構成を選択したと当時を振り返ります。
「今回の更改プロジェクトではクラウドファーストで検討を開始しましたが、プライベートクラウド、パブリッククラウドのどちらかだけでは Traffic-DWH の要件すべてを満たすことが難しく、機能部ごとに各クラウドを使い分けるハイブリッドクラウドでのシステム構築を提案しました」(市川 氏)。
そして、NTTドコモの情報システム部が運用しているプライベートクラウドと組み合わせるバプリッククラウドには Microsoft Azure(以下、Azure)が選択されました。NTTドコモ 情報システム部 経営基盤担当の松田 英顕 氏は、採用の理由をこう語ります。
「DWH の機能を One サービスとして提供する『Azure Synapse Analytics』を利用できることが、採用を決めた大きな要因となります。列圧縮に強みのある Azure Synapse Analytics 専用 SQL プールを採用し、従来の行指向 DBMS と比べて I/O の優位性があったことや、従来のシステムが採用していた Microsoft SQL Server との親和性が高かったこともポイントです。さらに当社はマイクロソフトと戦略的提携を結んでおり、課題が発生した際に手厚くサポートしていただけることも採用を決めた一因といえます」(松田 氏)。
Azure Synapse Analytics を採用し、性能要件が高い Traffic-DWH のクラウド移行を実現
実際のシステム構築(クラウド移行)は、NTTドコモと NTTコムウェアの協業体制で 2020 年 4 月からスタート。ウォーターフォール型で開発が行われ、2021 年 6 月に本更改を迎えました。従来のシステムとアーキテクチャレベルで大きな変更があったため、新旧システムのデータ突合に 3 カ月ほどの時間をかけたといいます。移行にあたっては、さまざまな検討テーマや課題、トラブルがあったと市川 氏。マイクロソフトの密接なサポートによりスムーズに対応できたと当時を振り返ります。
「設計段階、実装段階の Azure Synapse Analytics の専用 SQL プールの性能問題をはじめ、コロナ禍におけるリモートワーク体制の確立、Azure の SSIS ならではの作法、Linux 版 CLI ならではの作法などクリアすべき課題は多岐にわたりました。意図しない課題もありましたが、大半はリスクの洗い出し段階で抽出して関係者(NTTドコモ/NTTコムウェア/マイクロソフト)で共有しており、早い段階で対処できました。特に Azure 関連の課題については、マイクロソフトと課題棚卸しのディスカッションを毎週実施し、不明点や曖昧な点についてのヒヤリングや他社事例の紹介といったサポートを受けました。予期せぬトラブルに関しても即座に対応していただけたこともあり、想定どおりのスケジュールで更改を迎えることができたと感じています」(市川 氏)。
本プロジェクトを支援した日本マイクロソフト データ&クラウドAI アーキテクト統括本部 第三技術本部 プリンシパル カスタマー エンジニアの藤田 和史 氏は「初期の段階から課題を洗い出していただいたことで、迅速な支援が行えました」と当時を振り返り、「知識レベルでの対応だけでなく同じ目線でトラブルの現象を確認し、実際に手を動かして課題解決を支援しました」と語ります。
今回のプロジェクトで、業務グループリーダーとしてプロジェクトマネージャーの補佐も務めた NTTコムウェアのデータマネジメントプラットフォーム(DMP)部門 スペシャリストの矢野 武司 氏も、「コロナ禍で外出が制限される状況のなか、早急な対応が必要なトラブルに関しては弊社の環境まで来ていただき、実際の状況を見ながら解決策を提示してもらえました」と語り、マイクロソフトの手厚いサポートがプロジェクトの成功につながったと実感しています。
Traffic-DWH は非常に大規模で性能要件が高いシステムのため、クラウドに移行して現行システム(オンプレミス環境の 3 台構成)と同等のパフォーマンスを実現できるかは、検討初期から大きな懸念点だったといいます。こうした性能問題も、マイクロソフトの協力により対処できたと市川 氏は語ります。
「設計段階、実装段階で注意する情報を事前にいただけたため、設計段階で HASH キーを見直して分散度を平準化したり、物理ノードを超えないような形で検索が確立するような検索処理を実装したりと、適切な対応が行えました。総合試験の段階でも性能問題が出たのですが、こちらもマイクロソフトに支援いただき、Azure Synapse Analytics 専用 SQL プールの機能を使って迅速に対応できました」(市川 氏)。
マイクロソフト データ&クラウドAI アーキテクト統括本部 第三技術本部 カスタマー エンジニアの下野 惠実子 氏は、今回のプロジェクトにおける同社のサポート体制について、こう語ります。
「今回は Azure にシステム全体を構築する取り組みのため、技術エリアの境界を超えてサポートさせていただきました。システムの中心である分析サービスだけでなく、セキュリティ面においてもアカウント管理・運用面などで現行の運用に沿った形のベストプラクティスをご提案致しました」(下野 氏)。
市川 氏も「プライベートクラウド側とパブリッククラウド側でバランスをとってセキュリティを担保する必要があり、マイクロソフトにアカウントの権限設定をはじめ多大な支援をいただけて助かりました」と、密接なサポートがセキュリティ面の課題解決につながったことを喜びます。
また、本プロジェクトのマネジメントを担当した NTTコムウェア データマネジメントプラットフォーム(DMP)部門 担当課長の福長 真治 氏は、ハイブリッドクラウドを採用したことで OS の統一にも苦労したと当時を振り返ります。
「Azureには Windows OS というのが一般的なアーキテクチャの概念ですが、今回のシステムではプライベートクラウドが Linux を採用していることもあり、マルチ OS による運用管理負荷の増大を避けるためオール Linux で構築しました。Azure を用い Traffic-DWH 規模のシステムをオール Linux で構築したのは、極めてまれなケースであったため、構築時には非常に苦労しました」(福長 氏)。
更改前の半分程度のハードウェアコストでパフォーマンスを維持、コスト面での利点は多い
課題の洗い出しと、マイクロソフトの支援による迅速な対応もあり、Traffic-DWH 当初のスケジュールどおり 2021 年 6 月に更改を迎え、約半年が経過した現在も大きなトラブルもなく安定稼働しています。前述した「EOSL 脱却と維持スキル汎用化」「ETL パッケージ化による F2S(Fit to Standard)の実現」「BI 機能部の他システム移管」といったテーマに関してもすべて実現し、すでに数々の導入メリットが得られていると市川 氏は力を込めます。
「クラウドに移行しサーバーのシェイプアップも実現できたことで、更改前の半分程度のハードウェアコストで、更改前同等の性能を実現できています。ハードウェアの EOSL から脱却できたことで、5 年~10 年の長期スパンで考えてもコストの削減効果は大きいと思います。マイグレーション計画のステップ 2、ステップ 3 を見据えた 3 つのテーマも実現できており、更改プロジェクトとしては成功を収めたと考えています」(市川 氏)。
矢野 氏も、コストとスピードの面で大きな成果が得られたと本プロジェクトを評価しています。
「Microsoft SQL Server で運用していた従来の Traffic-DWH では、3 台の DB サーバーで 1 時間に 1.5 億件以上のトラフィックデータを処理していました。今後扱うデータが増えた際に、新たにサーバーを立てていたのでは追いつけないため、スピード的にもクラウドサービスの Azure Synapse Analytics 専用 SQL プールを採用した効果は大きいと考えています」(矢野 氏)。
本プロジェクトに初期の段階から関与しているマイクロソフト データ&クラウドAI アーキテクト統括本部 第一技術本部 クラウドソリューションアーキテクトの清水 淳也 氏は、スムーズに更改を迎え、安定稼働を実現している要因についてこう語ります。
「今回はオンプレミスからパブリッククラウドへの移行ということで、早い段階から Azure Synapse Analytics を中心に Azure の知識やスキルのトランスファーをさせていただきました。また、パブリッククラウドではリトライ処理をはじめとした特有の作法や実装方法がありますが、NTTコムウェア様にこれらを実装いただいたことが安定稼働につながったと感じています」(清水 氏)。
データドリブンでの顧客体験向上を目指し、クラウドマイグレーション計画を推進していく
前述したとおり、Traffic-DWH 更改プロジェクトは、マイグレーション計画のファーストステップとなります。本プロジェクトで得た経験を活かし、ステップ 2 では他システム巻き取り(データレイク化)とデータレイク/DWH の接続、ステップ 3 ではデータレイクの拡充とデータ活用のセルフサービス化を実現するためのクラウドマイグレーションを推進していく予定です。Traffic-DWH のプロジェクトマネージャーを務める、NTTドコモ 情報システム部 経営基盤担当課長の斎藤 翔 氏は、今後の展望を語ります。
「NTTドコモでは、新しい挑戦として『カスタマーファーストの追求』『デジタル化とデータ活用推進』『事業運営とESGの一体的な推進』という 3 つのビジョンを掲げてイノベーションの創出に取り組んでいます。特にデジタル化とデータ活用を進めてカスタマーファーストにつなげるという部分では、当社が持っている量的・質的ともに高いポテンシャルを持つデータを、いかに効果的に活用できるかが重要になってきます。dポイントクラブの会員数は約 8,000 万人で、会員からそれぞれ約 30,000 項目のデータが収集されており、トラフィックデータを含めると数兆件にも及ぶビッグデータとなります。質的にも、顧客の属性や行動履歴といったデータは他社にはないアドバンテージといえます。今回、Traffic-DWH のマイグレーションに成功したことで、ステップ 2、ステップ 3でデータレイク化を進める際にも Azure が重要な役割を担うことが確認できました。今後もマイクロソフトの支援を受けてマイグレーション計画を推進し、ポテンシャルの高いデータを効果的に使ったデータドリブンな顧客体験向上を目指していきたいと考えています」(斎藤 氏)。
システム構築を担う NTTコムウェアの福長 氏も、成功を収めた今回のプロジェクトを踏まえ、次のステップにおけるマイクロソフトのサポートに期待しています。
「今後カスタマーファースト、デジタル化/データ活用を踏まえた基盤を構築する際には、マルチクラウド化が不可欠と考えています。Azure 上にすべてを構築するのではなく、複数のシステムにあるデータを連携させるクラウドポータビリティの実現が必要です。マイクロソフトには、クラウド上のサービスを連携させるためのノウハウから連携を実証する部分まで、幅広くサポートしていただきたいと思っています」(福長 氏)。
今回のプロジェクトで得た経験を活かし、高いポテンシャルを持つビッグデータを活用するためのプラットフォーム構築を進め、顧客のニーズに対応したサービスの提供を目指すNTTドコモ。今後の取り組みにおいても、Microsoft Azure および Azure Synapse Analytics は重要な役割を担っていくはずです。
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