多くの製造業にとって、一般消費者は近くて遠い存在です。購入という最も重要なシーンに直接関わることができません。アンケート調査や市場の売れ行き以外でユーザーの思いを察し、より深い関係性を築くにはどうしたらいいのでしょうか?

スナック菓子最大手のカルビー株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 伊藤 秀二、以下カルビー)は、ファンクラブを運営するなど、従来から消費者との交流に力を入れてきました。そして 2020 年より、新たなデジタルマーケティングの取り組みとして「カルビールビープログラム」(以下、ルビープログラム)をスタートしました。Microsoft Azure の画像・文字認識機能を活用することで、顧客と商品購入情報を紐付け、コミュニケーションの深化が実現したのです。

顧客との交流にデジタルの力を取り入れるには

カルビー株式会社 執行役員 マーケティング本部 本部長 松本 知之 氏

カルビー株式会社 執行役員 マーケティング本部 本部長 松本 知之 氏

カルビーは、スナック菓子やシリアル食品の製造・販売をおこなう大手食品メーカーです。「かっぱえびせん」「ポテトチップス」「じゃがりこ」「フルグラ」といった製品は老若男女に愛され、国内スナック菓子市場と国内シリアル市場において、高いシェアを獲得しています。

大規模なバリュー チェーンや加工技術を有し、何十年にも渡って愛される製品を世に送り出してきたカルビー。現在、日本国内で生産されているジャガイモの約 17% を、同社が使用しています。

そんなカルビーは、2019年「Next Calbee 掘りだそう、自然の力。食の未来をつくりだす。」というビジョンを掲げ、新たな中期経営計画を発表しました。事業基盤を強化していくための施策の一つとして「Digital Transformation推進による生産性向上」を挙げています。

同社のマーケティングにおいて、IT 活用は決して十分では無かったと、カルビー株式会社 執行役員 マーケティング本部 本部長 松本 知之 氏は振り返ります。

「お客様との関係自体は、良いものを築けてきたと思っています。Calbee 大収穫祭というキャンペーンでは『応募券を切り取って、ハガキに貼り付けて送る』という昔ながらのやり方にも関わらず、毎年、多くの応募を頂いています。しかし、この応募に対して、当選者 10 万名の名簿を 手作業で作成・管理するという対処をしていました。事務局経費も馬鹿になりませんし、何より、キャンペーン後の関係構築に情報を十分に活用することができていなかったのです」(松本 氏)。

複数の商品を買って応募券を集める顧客は、カルビーの潜在的な「ファン」であると言えそうです。しかし、情報をアナログに管理しているだけでは、そのファンがキャンペーン後に何を買ってくれたのか、どんなイベントに参加してくれたのか、といった動向を可視化することはできません。

「ハガキには、商品への要望や感想など、いろいろなことを書いてくれています。そうしたお客様の思いがせっかく集まっているのに『点』の企画で終わっていて、『線』として繋げることができていなかったのです」(松本 氏)。

ファンとのコミュニケーションを強化すれば、新商品開発のためのリサーチはもちろん、インフルエンサーとして行動してもらうことによって、売上げ増を狙うことが可能です。アナログの繋がりを大事にしてきたカルビーとして、いかに IT の力を活用していくのか、マーケティング本部の模索が始まりました。

カルビー株式会社 マーケティング本部 商品 2 部 1 課 谷澤 渓介 氏

カルビー株式会社 マーケティング本部 商品 2 部 1 課 谷澤 渓介 氏

メンバーシップマーケティングには、航空会社のマイレージプログラムのように、購入の際にポイントを付与し、特別な体験や商品をプレゼントするという手法があります。カルビーにおいてこれを実現するには「購入」と「ユニーク性」という 2 つのデジタル証明が必要だったと、カルビー株式会社 マーケティング本部 商品 2 部 1 課 谷澤 渓介 氏は言います。

「店頭に並んだパッケージをスマホアプリで読み込んで、応募できてしまっては意味がありません。商品を購入したことの証明が必要です。さらに、同じパッケージで何回も応募できることが無いように、ユニーク性も証明しなければなりません。これをどうやって解決するのか、長い間試行錯誤を繰り返しました」(谷澤 氏)。

スナック菓子の包装にシールを付け、ユニークな二次元コードを付与することも考えましたが、生産ラインを変えねばならず、数十億円では済まない規模の投資が必要になってしまいます。試行錯誤の末に谷澤 氏が考えついたのは「パッケージを折りたたんで、製造番号が写るように撮影してもらい、写真を AI によって識別する」という方法でした。

「『食べ終えたパッケージを折りたたんでもらう』これがアイデアのブレイクスルーでした。商品を買って、中身を外に出さなければ折りたたむことはできません。特定のかたちに折りたたんだ状態を画像認識で、シリアルナンバーを OCR によって読み取れば、二つの証明が同時に解決できると考えたのです」(谷澤 氏)。

このアイデアを聞いたとき、松本氏は「感激した」と言います。

「マーケティングとは全然別のテーマで『ポテトチップスの袋ってゴミとしてもかさばるよね』と話していたことがありました。折りたたむことによって、家庭で使用するゴミ袋の量を減らしつつ、デジタルなファンづくりにも繋がる。素晴らしい発想だと感激しました」(松本 氏)。

こうした二つの証明を、デジタルの力で解決するためにカルビーが採用したのは、「Azure Cognitive Services」(以下、Azure) でした。

Azure の画像・文字認識機能によって課題を克服する

谷澤 氏のアイデアを聞いたカルビー株式会社 マーケティング本部 デジタルマーケティング担当マネージャー 関口 洋一 氏は「Azure ならすぐに実現できる」と感じたと言います。

「私の前職は IT エンジニアでして、Cognitive Services の認識率は十分応用できるレベルにあると知っていました。ですから、" Custom Vision "を使ってパッケージの開封判定を行い" Computer Vision "を使って文字認識をすれば、アイデアの実現はそこまで難しくないと感じたのです」(関口 氏)。

他のパブリッククラウドではなく、Azure を使う前提で話は進んだと関口 氏は続けます。

「もともと社内に Azure を主要なクラウドとする方針があったのです。個人的にも、カルビーのような IT に不得手なユーザー企業にとって、Azure の管理画面の分かりやすさ、使いやすさはとてもありがたいと思っています」(関口 氏)。

カルビーは、テクノロジーに強いベンダーとしてマイクロソフトが推薦する株式会社ナレッジコミュニケーションとともに、AI 開発に着手しました。

Azure の PaaS を活用することによって、開発環境の構築はスピーディーに進んだと、株式会社ナレッジコミュニケーション ビジネス・デベロップメント部 シニア・ソリューションアーキテクト 牧村 健 氏は言います。

  • カルビー株式会社 マーケティング本部 デジタルマーケティング担当マネージャー 関口 洋一 氏

    カルビー株式会社 マーケティング本部 デジタルマーケティング担当マネージャー 関口 洋一 氏

  • 株式会社ナレッジコミュニケーション ビジネス・デベロップメント部 シニア・ソリューションアーキテクト 牧村 健 氏

    株式会社ナレッジコミュニケーション ビジネス・デベロップメント部 シニア・ソリューションアーキテクト 牧村 健 氏

「インフラの部分をゼロから作るととても時間がかかってしまいますが、Azure Functionsを使えば、スクリプトを書いて乗せるだけで、サーバーレスで動かすことができるのです。また、リリース後も、負荷の大小に応じて自動的にスケールを調整してくれます。後々のメンテナンス性を考慮しても、サーバーレスでの開発は効果的だと思います。今回は短納期での開発が必要だったので、Cognitive Services と Azure Functions を使うことで、それぞれの機能を分割しながら開発を進められる方法を提案させて頂きました。今回のプロジェクトは『デジタルマーケティングにおける挑戦』ということで、サーバーレスでの開発という新たな試みについても、積極的に受け入れて下さいました」(牧村 氏)。

一方で、画像や文字の認識率の向上には、ひと工夫が必要だったと牧村 氏は続けます。

「ポテトチップスの袋というフィルムパッケージの特性上、平らに折ることができなかったり、光が乱反射したりと、上手く認識させるには苦労しました。最終的には、ユーザーから送られてきた写真を白黒にしたり、エッジを鮮明化したりと補正した上で、Cognitive Services に投げ、それぞれで読み取れた部分を結合しています。まだまだ改善は必要ですが、パッケージの実物ができてから、1ヶ月足らずでローンチできたことは、Azure によるサーバーレス開発の一つの成果だと思います」(牧村 氏)。

  • Azure 環境構成図

    Azure 環境構成図

クラウドの俊敏性を活かしたデジタルマーケティングを確立

2020 年 9 月 14 日、カルビーはスマホアプリを活用した「カルビールビープログラム」(以下、ルビープログラム)をスタートさせました。アプリを通じて折りたたんだパッケージの画像を送信し、特別なポイントを貯め「じゃがいも栽培キット」や「工場見学」などに応募(※)することができます。Azure の画像・文字認識 AI を活用することによって、同社の新たなデジタルマーケティングが始まったのです。

※一部変更になる可能性があります。詳細は公式WEBサイトをご確認ください。

このプログラムを開始したことによって、次のような反響があると谷澤 氏は言います。

「『カルビーがゴミのかさを減らす取り組みを始めた』と、ふだんお菓子を買わないような方にも関心を持ってもらうことができました。まだスタートしたばかりですが、2020 年度中に対象商品を増やし、ルビープログラム自体もプロモーションしていくことによって、当初の目的であるデジタルなファンづくりに繋げていきたいと思っています」(谷澤 氏)。

ルビープログラムの中心となる、画像・文字認識基盤としての Azure について、関口 氏はこう評価します。

「カルビーにとってルビープログラムは、すべてが新しいことへの挑戦でした。マーケティング本部だけではなく、社長を含めた経営層が注目する試みだったのです。Cognitive Services や Azure Functions といった Azure の PaaS を駆使することによって、多額の投資をせずに短期間で開始できたという経験は、今後のデジタルマーケティング展開にとっても、大いに助けになるでしょう」(関口 氏)。

絆とデータの両方を発展させていく

今後のルビープログラムについて「顧客分析」「意見分析」「小売業との連携」といった 3 つの視点での発展を考えていると、松本 氏は言います。

「まずはこのプログラムに参加してくれたお客様のデータから、どの商品を買っているのか、誰にどういった広告を伝えるのが効果的なのか、といった顧客分析をしていきます。また、ハガキに思いを込めてくださっているように、デジタル上にも、ファンの意見を集め、分析できるような仕組みが必要でしょう。そして今後はデータ分析に積極的な小売業と連携し、カルビーの商品はどういう頻度で、どういう商品と一緒に買われているのか、といったところまで掘り下げていければと思います」(松本 氏)。

Microsoft Azure によって実現したルビープログラムは、老若男女さまざまなファンとの絆を大切にしてきた同社に、さらなる顧客コミュニケーションの豊穣をもたらしていくことでしょう。

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