社会のデジタル化に伴って、顧客との接点がどんどん多様化しています。良質な商品を提供するだけでなく、顧客との間に信頼関係を築くこと、これによって商品がきちんと顧客に届くような仕組みをつくることが、今日における "選ばれ続ける企業" の条件となっているのです。1951 年の創立以降、給湯器や浴槽をはじめとする住宅設備メーカーとして確固たる地位を築いてきたノーリツは、先述したリレーションシップの構築にも注力する企業です。

例えば、同社が 2016 年より運営しているユーザー参加型メディア「おふろ部」では、ユーザーとノーリツとが一緒になって "おふろ好きな人を増やす" という試みが進められています。顧客に寄り添ったこうした取り組みは、リレーションシップを育む大きな力となります。同社はこの他にも、日々の献立づくりに役立つ「毎日グリル部」等、数々の Web サービスを展開。その全てを Microsoft Azure (以下、Azure) で提供する方針を採っています。同社がこの方針を採る背景には、信頼性の高い Azure の下で前述したサービスを安定して提供したい、ユーザーがより積極的に利用してくれるサービスにしていきたいという、強い思いがありました。

※事例内に登場する部署名は、取材当時のものです。

選び続けてもらうために、どんなリレーションシップを顧客と築くべきか

ノーリツは、ふろ用機器において国内シェア 40% を占める給湯機器業界のリーディングカンパニーです。「新しい幸せを、わかすこと。」のスローガンにある通り、同社は優れた商品を市場に供給するだけでなく、顧客との強固なリレーションシップの下、“幸せ” という価値とともに商品を提供しています。

株式会社ノーリツ 営業本部 ブランドマネジメント室の松崎 努 氏は、同社が進める関係構築の場が近年オフラインからオンラインへと移りつつあると言及。なぜ顧客とのリレーションシップが必要なのかも交えてこのように説明します。

「私たちの事業は、国内では取替需要を中心として年間約 350 万台販売される給湯機器の売上が、収益の多くを占めています。今後も取替需要は安定的に発生するでしょう。だからこそ、その中で当社の商品を採用いただくこと、ノーリツを選び続けて頂くことが、私たちの成長を大きく左右します。お客様が給湯機器の取替を検討される際には、確実に私たちのメッセージを届けなければなりません。そのためには、お客様とのリレーションシップが不可欠なのです。オフラインではどうしてもお客様と接触する間隔が長期化します。お客様と常に繋がっている――そんな場を設けるために、当社は 2016 年より『おふろ部』をはじめとする双方向性を持ったオンライン サービスを拡充させています」(松崎 氏)。

松崎 氏の述べた "双方向性を持ったオンライン サービス" とは、具体的にどのようなサービスなのでしょうか。株式会社ノーリツ 営業本部 ブランドマネジメント室の池田 真純 氏は、先に挙がった「おふろ部」を例に、このように説明します。

「1 日の締めくくりとなるおふろを素敵な時間にしたい、こう考えるお客様は数多くいらっしゃいます。『おふろ部』は、お客様が自ら『おふろ(編集)部員』としてライティングを行い、ユーザー同士で "おふろ好きな人" を増やしていくキュレーション メディアです。ノーリツは提供会社として、コンテンツづくりの軸からお客様をサポートしています。これによって、常に新しいお客様を増やしていく、常にお客様との接触することができる、そんな関係づくりを進めているのです」(池田 氏)。

  • ノーリツが提供する「おふろ部」。ライターとしてコンテンツを提供する「おふろ部員」の数は、370 名を数える

ノーリツでは「おふろ部」以外にも、双方向性を持つ数々のオンライン サービスを提供しています。例えばレシピ情報を紹介するサイト「毎日、マルチグリル」では、グリル料理好きが集まる場として「毎日グリル部」を用意。ユーザー同士が日々の料理を共有し合える空間を提供しています。また、脚本家の小山 薫堂氏が日本の様々な湯を巡る「湯道百選」では、同氏に訪れてほしい温泉・銭湯をユーザーから公募するなど、様々な軸から顧客との交流を試みているのです。

サービスの規模も順調に拡大しています。「おふろ部」で言えば、スタート当時 6 名だった「おふろ部員」の数は、わずか 3 年の間で 370 名にまで伸長。SNS のフォロワーも3.5 万人に達するなど、飛躍的にスケールしているのです。

同社で IT システムを担当する、株式会社ノーリツ 経営企画部 IT推進室の辻 訓廣 氏は、こういった双方向性を持つサービスでは、安定的なサービス提供こそが進退を左右すると述べます。

「私たちのお客様は、"誰かに見てもらっている" "誰かの役に立っている" という思いをモチベーションにして、コンテンツを提供してくれます。仮に障害などが発生した場合、お客様のモチベーションに大きな悪影響を引き起こすでしょう。読者とコンテンツ供給者、双方を失うリスクがあるのです。コンテンツの "量" と "質" はサービスのスケール上欠かせない要素ですから、これらを脅かす因子は可能な限り排除せねばなりません。当社では現在 Web のサービス基盤に Azure を利用する方針としていますが、この背景にはサービスを安定して提供し続けたいという思いがありました」(辻 氏)。

サービス基盤と運用ベンダーの分散がサービス水準に悪影響を及ぼしていた

ノーリツでは当初、サービスの提供基盤を Azure に統一する方針を採っていませんでした。従来は各サービスで異なる提供基盤を利用し、これを運用管理する MSP (Managed Service Provider) も、その都度で選定していたのです。

株式会社ノーリツ 経営企画部 IT推進室の酒井 友貴 氏は、こうした方針が結果としてサービス基盤と MSP の散在を招いたとし、サービスの安定提供を脅かすリスクにもなっていたと語ります。

「構築フェーズから MSP へ依頼する方針だったため、システム自体が私たちにとってブラック ボックス化していました。何が問題かと言うと、サービスで問題が起きた際、解消までに時間とコストがかかりすぎることです。あるサービスのレスポンスが落ちたとして、私たちがこれを解消するための具体的な指示を行うことができませんし、全てをMSP 側に依頼していると解消までのリードタイムが長くなりがちです。そして、そのリードタイムが妥当なのかも社内で評価ができません。致命的な問題の解消が長期化してしまった場合、ユーザーからのサービス信頼度が落ちてしまいます。キュレーション サイトという特性で多数のユーザーが利用するサービスの安定提供とするには極めて不健康な状況と言わざるを得ませんでした。運用水準を高め問題に即時に対応できるようにするには、運用管理の機能を一度インハウスに戻し、サービスの安定提供ができ、且つ、社内でもすぐに問題の検知と対応ができるような基盤の構築と標準化が必要と考えました。」(酒井 氏)。

これに続けて辻 氏は、インハウス化や標準化にあたって、パブリック クラウドの持つ PaaS に注目したと語ります。

「クラウドの利用実績はありましたが、標準化にあたり IaaS ベースの仕組みでは課題を感じていました。どうしても構築や改修等を行った人の属人的な要素がアーキテクチャ レベルで生じてしまうのです。PaaS を活用すれば、少なくともアプリケーションの実行環境以下は統一することが可能です。標準化の敷居を引き下げることができますし、サーバー レス設計を採れば管理工数を大きく引き下げられるとも考えました」(辻 氏)。

  • 「おふろ部」や「毎日グリル部」(左上)、「湯道百選」(右上) などの Web サービスは、ノーリツのコーポレート サイトの最上部にナビゲーションが用意されている (下)。顧客と強固なリレーションシップを構築していこうという同社の強い気持ちの表れだが、それだけに、サービスの停止は企業ブランド自体にも悪影響を及ぼすこととなる。サービス基盤の標準化とイン ハウス化は、不可欠だった

世の中には数多くのパブリック クラウドが存在します。その中からノーリツが Azure を選択した理由は、どのような点にあったのでしょうか。実はこの理由は、「サービス名が分かりやすかった」という極めて単純なものでした。

辻 氏は、「最終的には Azure か Amazon Web Services で比較検討したのですが、正直に言うとこの段階ではどちらの PaaS が優れているかまで判断できませんでした。なぜ Azure を選んだかと問われれば、サービス名と機能がしっくりきたことが理由です。例えば Azure Web Apps ならば "Web アプリケーション用の PaaS なんだ" とすぐにイメージすることができます。分かりやすさが背中押しになり、まず Azure でチャレンジしてみようと思ったのです。」と当時を振り返りますが、標準化やインハウス化にあたって、この決断が後に好影響をもたらすこととなります。

2 週間で完了した「おふろ部」のインハウス化にみる、Azure 採用の成果

ノーリツが最初にインハウス化を実施した対象は、既存顧客向けに提供する、クローズド サービスの提供基盤でした。同社ではこの基盤を、Azure Web Apps と Azure Storage、Azure Database for MySQL を利用したアーキテクチャで構築。同アーキテクチャは以降、別サービスのインハウス化を進める上でもテンプレートになっています。

酒井 氏と辻 氏は、初期事例となった同取り組みにあたって、Azure の有する分かりやすさ、そして手厚いサポートが大いに役立ったと述べます。

「PaaS ベースの構築をインハウスで行うのは初めての経験で、最初はかなり高度な技術が必要なのではと少し不安でした。どの PaaS を利用すれば良いのか精査するだけで時間がかかると覚悟していたのですが、実際に構築を始めてみると、Azure では "これかな?" と直感的に感じたサービスがほぼその通りの機能を持っていたためすぐに必要な PaaS を特定することができました。後は細かい設定に困ったときは Web 上にある各 PaaS の詳細ドキュメントの参照とサポートへの問い合わせで、簡単に今のアーキテクチャを設計することができました」(酒井 氏)。

「取り組みの中では躓いた場合にも、マイクロソフトへ連絡すれば即日サポート頂くことができます。海外サービスにありがちなドライな対応ではなく、しっかりとこちらの意を汲んで解決策を提示してくれるのです。」(辻 氏)

「サービスの分かりやすさ、サポートの手厚さもあって、インハウスとして初の試みながら、基盤環境の構築は着手から2週間で作業を完了させることができました」(酒井 氏)。

この取り組みで得た知見・ノウハウを基にして、同社では複数のWebサイトの構築と管理運用の両面における標準化を推進。従来の人的リソースのままで従来 MSP に依頼していたサービス運用の一部をインハウス化しています。

標準化の成果が見て取れる好例が 1つあります。ノーリツでは 2019 年 2 月、「おふろ部」のサービス基盤をインハウス化しました。この作業はわずか 2 週間で完了し、サービスの運用水準も飛躍的に高めているのです。

酒井 氏と辻 氏は、同サービスのアーキテクチャ設計に触れながらこう述べます。

「実は 2018 年 12 月に、アクセスとコンテンツ量の急激な増減によって従来環境が何度かバーストするという事態が発生しました。キュレーション サイトという特性上、こうしたアクセス負荷に対しても自動で環境をスケールして対応する仕組みが必要なのですが、旧環境ではMSPへ依頼しハンドで対応していただかなければいけませんでした。Azure 化するにあたりスケールの自動化も実現できないかと検討し、そこで『おふろ部』のインハウス化にあたっては、テンプレートの構成に、追加でパフォーマンス監視の Azure Monitor を実装しています。Web Apps の自動スケール機能と連携して、トラフィックが一定の閾値を超えた場合に自動でスケールと管理者へのメール配信をする仕組みを用意。さらに、Azure Application Gateway の導入により悪意のある Web リクエストに対する保護性を高めました。これらにより、IT 担当が付きっ切りで管理せずとも安定かつセキュアにサービス提供を行える環境を実現したのです」(酒井 氏)。

「従来環境が本当にバーストしてしまうかもしれない、そういう意識から早期にインハウス化を進めたいと考えました。元々 MariaDB で稼働していた RDB (Relational Database) を MySQL へマイグレーションする、Azure Monitor をサービスに組み込むなど、この作業は単にテンプレート構成を当て込むだけに留まらない作業でした。ただ、Azure には RDB 関連の OSS ツールが充実しており、マイグレーションを容易に進めることが可能です。既に構築プロセスを標準化していたことやマイクロソフトのサポートもあって、2 週間という極めて短期で作業を終えることができました」(辻 氏)。

  • サーバー レスを採った、「おふろ部」のアーキテクチャ設計。MySQL や WordPress など積極的に OSS が利用されている。酒井 氏とともに構築を担当した辻 氏は、「OSS 関連の機能が充実しており早期に開発を進められるのも Azure の利点ですね。」と述べた

"Azure は本当にサポートの水準が高いということを、身をもって感じています。当社が実現したいことを伝えるだけで、技術にブレイク ダウンしてベスト エフォートを提示してくれるのです。実は「おふろ部」のアーキテクチャも、私たちが "したいこと" を伝えるだけで今の設計を提案頂けました。日々の運用管理でも同様です。早期に標準化が果たせたのは Azure を採用したからこその結果だと感じます。"

-松崎 努 氏: 室長
株式会社ノーリツ
営業本部 営業企画部 ブランドマネジメント室

"攻め" 側にリソースを集約し、より強固なリレーションシップを築いていく

2019 年 4 月、ノーリツでは、一部のWeb サービス のインハウス化を終え、さらにその領域を広げています。次期戦略として同社が企てるのは、現在の標準化された運用ポリシーの下、定常運用をアウトソースすること、これにより社内リソースの割り当て先をデジタルビジネス等の攻めのITへシフトすることです。

松崎 氏は、「インハウス化はあくまでサービスを安定提供するための手段です。本来、社内のリソースは定常運用ではなく新たなサービス企画や既存サービスの機能拡張などに割り当てるべきでしょう。管理業務を標準化したことで、今後、MSP に運用をアウトソースしても高い安定性が維持できるはずです。そこで得られるリソースを原資に、IT 部門とも連携しながらよりお客様と密接に繋がることのできるサービスづくりを進めてまいります。」こう意気込みを語ります。

これに続けるように池田 氏は、「『おふろ部』や『毎日グリル部』は、ただアクセスがスケールしているだけでなく、この中でユーザーが自主的に活動してくれるような "コミュニティのあるべき姿" へ育ってきています。ノーリツが介入する領域をこれまで以上に広げていくことで、お客様にもっと愛されるサービスにしていきたいですね。」と述べました。

ノーリツは今、"メーカーから顧客" という一方通行ではない、コミュニティという形の関係構築を進めています。このコミュニティをきっかけとして生まれる数々の "幸せ" を付加価値にして、同社はこれからも、魅力的な商品を提供してくれることでしょう。

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